ライブを阻止せよ!
とにかくライブが始まったら、おしまいだ!
わたしたちは、ユウに光学迷彩状態にしてもらって、一気にグラウンドに運んでもらった。
何ができるかわからないけど、ライブを阻止しなきゃ!
上空から見たグラウンドには、既にライブのために場所取りをしている人たちが見えた。
わたしとセナはユウの右腕を抱くようにしてくっついて、理人君はユウの左のひじの辺りにちょっとだけ触れている。光学迷彩で透明人間状態にしておくためには、ユウに触れてなきゃいけなくて、重力操作自体は近くにいれば出来るんだって。
ふわふわと浮きながら、みんなでグラウンドを観察した。
でも、ミーの姿はどこにもない。
ていうか、モニターもステージも、スピーカーも何もない。
「みんな、何にもないから、会場ほんとにここかって不安になってるみたいだよ」
セナが、片手で器用にスマホを操作して、SNSを見ながら言う。
「そうだよな、昨日だってお祭りのステージのモニターで流したんだ。何もなかったら、さすがのサンカク星の技術でも、どうにもならないんじゃないか?」
理人君の言うとおりだよね。どうやってライブをするつもりなんだろう。
「準備されてないんじゃ、邪魔もできないな」
セナが困ったように言う。
「ミーは、わたしと同じリングを持ってるから、昨日みたいにムービーを流すだけなら、これ一つで十分だよ。ホロスクリーンも出せるから」
「あー……そうきたか……科学文明おそるべしだな」
理人君が絶望したように肩を落とした。
「それに、実際に自分で歌うなら、もっといらないよ。マイクはこの、ヘッドセットについてるし、スピーカーはみんなのスマホをジャックすればいいもの」
「わあ。これはどうしようかぁははは……」
笑うしかできないや。
「セナ、みんなの支配値はどんな感じだ?」
理人君がセナに聞く。
セナがユウに頼み込んで、自分のスマホにさっきUFOで見た、みんなの友愛の値と、支配の値が解るアプリを入れてもらったの。さすが、宇宙人、何でもあり。
そんなわけでユウの他に、セナもクリア条件を見ることができることになった。
セナは、スマホのカメラを眼下の観客たちに向けて、液晶を見る。
「ほぼ全員、五十を超えてる。あ、見て、先輩がいる」
セナが指さした方に、昨日お祭りを一緒に回った、美術部の先輩たちがいた。
「五十を超えてるって、もうそんなに支配されてるの? 先輩たちも?」
「先輩たちは二十くらい。それに、ユウへの友愛の値が五十を超えてるよ。友達もちゃんと増えてるってことだ」
「ほんとう?」
「希望はあるってことだよな」
わたしたちは、四人で顔を合わせて笑った。
よかった。ちゃんと、少しでも前進してる!
絶対に、負けないぞ!
「とりあえず、降りようぜ。今日は部活もないし、教室棟の方なら人もいないんじゃないか?」
理人君の提案で、ユウはすうっと教室棟の上に移動した。
教室棟はグラウンドから離れてるし、部活がなければ来る人もいないだろうし。
「待って! 誰かいる!」
セナが、抑えた声で言った。
ユウの目が、すっと細くなる。
教室棟の横。教室棟と実習棟と、渡り廊下に囲まれた四角い中庭に、男子生徒が立っているのが見えた。
今日、部活動は全部休みで、生徒用の正面玄関は閉まっている。
もしかしたら、職員通用口は開いているのかもしれないけど、こんなところに、夏休みにいるなんて、違和感しかない。
少しずつ近づいて、目を凝らしてみて、その人影が、良く知っている人なことに気付いた。
「伊緒だ」
声に出したのは、理人君だった。
「待って」
セナの抑えた声が、緊張に震えてる。
「伊緒君、こっち見てる」
「え?」
今、わたしたちは光学迷彩で透明人間状態にしてもらってるはず。
ユウに触れていない人には、わたし達の姿は見えてない。
そのはずなのに。
「!」
目が、あった。
すごく、すごく怖い顔。
怖い目が、鋭くわたしを睨みつけている。
見えてるんだ。
「セナ、イオの数値、見てくれない?」
「え?」
ユウに頼まれて、スマホを操作したセナが、目を見張った。
「嘘」
「セナ、どうした、どうだったんだよ!」
理人君は、動揺しているのか声を抑えるのを忘れて、セナをせかした。
セナは、見たことないくらい緊張した顔になって、震える声で答えた。
「友愛が、ゼロ以下。支配は、百以上だよ」
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