第一回 友達百人会議

「それでは! 第一回! 友達百人会議を始めます」

 いつもの部活スタイルのセナが、ユウに出してもらった美味しい水を飲みほしてからそう言った。

「なんだその会議名は」

 理人君が呆れたような顔をする。

「あはは、セナは形から入るタイプだから」

「カタチ?」

「それっぽい感じを出すと、やる気が出るの、セナ」

 わたしがフォローすると、ユウが小首を傾げたので、説明してみたけど、うまく伝わらなかったみたい。

 ライブ会場が学校だったから、念のためわたしたちは制服姿で集合した。セナは部活スタイルのつなぎだけどね。制服、動きづらいから、あんまり好きじゃないんだよね。セナ。


「遊んでる場合じゃない。今から七時間後には、ミーのライブが始まるんだ。

 ユウ、もう一回状況を整理しよう」

 理人君に言われて、ユウはこくりと頷いた。

 理人君、さすが次期生徒会長と噂されるだけある!

「ユウの課題のクリア条件は、友達を百人作ること。

 対して、ミーの課題のクリア条件は、百人を支配すること。

 これについてだが、一つ確認しておきたい。今までは、正直、期限もないことだし、のんびりやればいいと思ってし、百人なんて現実感がなさすぎて、ちゃんと考えれてなかった。だが、そんなのんきなこと、言ってられなかったって解ったからな」

「ごめんなさい、すぐ、全部話さなくて」

 ユウがしゅんとした。あんなに明るくて、自信に満ち溢れているように見えてたのに、本当はずっと、不安におびえてたんだ。

 わたしはそっと、ユウの手を握った。

 ユウも、握り返してくれる。

「いや、いいよ。最初から、ユウがどんな奴か知らないで、いきなり「実験」って言われたら、ここまで仲良くなれなかったかもしれないだろ」

 落ち込んだユウの姿を見て、慌てて理人君がフォローしている横で、しびれをきらしたようにセナが手を挙げた。

「はいはいっ! 理人が確認したいのって、条件でしょ?

 『友達』って判定される条件」

「あ、ああ。それから、支配の方もだ。『支配された』と判定される条件」

 ユウは、すっと左手を掲げた。モニターに映ったのは、今のわたしたち。つまり、この部屋だ。電気屋さんのテレビ売り場みたいに、自分たちの姿が映し出される。

「おおっ?」

「カメラどこっ?」

 セナがキョロキョロする。

「モニターを見ると正面の顔が映るから、モニターのあたりにあるんだろ」

 理人君がため息をつきながら答えると、セナが立ち上がろうとした。カメラを探しにいこうとしたのね。理人君に抑え込まれたけど。

「これ、見て」

 ユウが言うと、画面に変化が現れた。

 わたしたちの頭の上に、何か記号のようなものが表示された。

「おおー! サンカク星の文字?」

 セナが大声を上げた。

「表記を現地の使用言語に変換」

 ユウがそう言うと、パッと記号が切り替わって、数字になった。

「はちじゅう……ろく?」

 セナが自分の頭の上の数字を読み上げた。理人君は七十二。

 わたしの上は……ん?

「百以上?」

「あ。百以上は省略されるの」

「そっか……って、これ、なに?」

 わたしの質問に、ユウはなぜかちょっと照れくさそうにした。

「友愛のレベルっていうか……わたしに対するみんなの友愛のレベルを、数値にしたもの。これが、五十を越えればトモダチっていう判定条件」

「つまり、どれだけユウのことが好きかってのを、数値化してるの?」

 セナがワクワクしたような声で言った。

「うん、そんな感じ」


 え?

 五十で友達……セナが八十六で、あ、八十七に上がった。理人君は七十二……あ、七十に下がった。


「え?」


 これつまり、わたし、ユウのこと、めっちゃ大好きってこと?


 顔が熱い!

 耳から湯気でも出るんじゃないの?


「これさあ、もしかして他のメンツでもいける? 例えばユウに対する友愛の数値じゃなくて、理人に対する友愛の数値を見るとか――」

「バッ! バッカ、セナ! バカだろお前! マジやめろ! ユウ、やめてくれたのむ!」

 セナがはしゃいで提案したことに、理人君がめちゃくちゃ怒った。

 まあそうか、ちょっと恥ずかしいよね。自分が相手をどう思ってるかバレたり、誰かが自分をどう思ってるか解ったりしたら。

「リヒトを対象にするためには、リヒトをサンカク星のマザーに接続しないといけないから、一度サンカク星に帰らなきゃ無理だよ」

「そ、そうか、よかった。ほらセナ! 無理だってよ! 諦めろ」

「ちぇー、ザンネンだな~」

「でもね、これはあくまで指標っていうか。本当に、対象の個体に対する友愛を数値化するのは不可能だって言われてるの。人間の心を、数値に変換するのはとても難しい事なんだよ」

 ユウが、説明し始めると、画面が切り替わった。

 人間を表したような、ピクトグラムみたいな簡単な図が表示される。その、真ん中が白い空間だった体に、虹色の液体のようなものが、足から胸へと満たされていく。

「人の感情はエネルギー。多分、地球の人たちは怒りのエネルギーが、一番想像しやすいと思う」

「確かに。ボク、うまく描けなくて腹が立って、キャンバスを殴って破いたことある」

「セナ……やめてね、手を怪我しちゃう」

「同じように、友愛もエネルギーなんだ。エネルギーなら、どのくらい強いかを数値化できるっていう考え方で数値化してるんだけど、それは、何かひとつの対象に向かうものって限定せず、その人自身が持ってる友愛の情全部……みたいなもので。

 誰か一人に対する友愛の情を数値化するのは、まだ確立されてはいないの。

 それに、みんなも、トモダチじゃないけど、好きって言う人いるでしょ?」

 なるほど。有名人とか、好きなアーティストとかは友達じゃないけど、好きだもんね。

「だから、この数値はあくまで判定条件の一つ。最終判断は、サンカク星のマザーがわたしの中の感情を判定して、それとこの数値を合わせて計算してジャッジするの」

 あ、理人君の頭の上の数値が七十三になった。

 これ、結構変動するんだ。わたしはずっと百以上だけど! ううっ!

 と、ユウが左手を振った。

 すると、数字が切り替わる。

 わたしの頭の上の数字が「ゼロ以下」になり、セナの上に「十二」理人君の頭の上には「二」と表示された。

「これが、ミーの支配を受けているかどうかの、数値。

 支配は友愛の情よりも簡単に数値化できる。支配を受けている状態は正常じゃないから、簡単に判定できるの」

 なるほど。よかった、わたし、ゼロだ。

「セナ、十二? 大丈夫かな?」

 心配そうにわたしがそう言うとほぼ同時に、セナの頭の上の数値が十に下がった。


「支配の場合は、この数値が一番大きな判定条件。になってる。

 この数値が、百になった人が百人集まったら、ミーの課題はクリアになる」


「ボク、全然支配されてる感じしないけど、この状態で十なの?」

「昨日のミーの歌、どう思った?」

「いい曲だと思ったよ。不思議と聞きたくなったから、昨夜帰ってから一度、動画サイトで聞いたくらい」

「だからだと思う。ミーに魅了されてる」

 数回聞いて、魅了されてる?

「ちょっと待て。じゃあ、ミーの歌を聞いただけで、支配に近づくってことか?」

「ミーの歌が、心地よいと思った人は、確実に支配に近づく」

 え? 待って。それじゃ――

「グラウンドって、何人くらい入るかな?」

 これが震えてしまった。わたしと同じことに気付いたんだろう、理人君が、同じく震える声で応えた。

「百人以上は、確実だ。高等部と中等部が全員並べるくらい広いんだからな」


 つまり、ライブ一回でも、百人を、一気に支配することができちゃうかも?!

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