「お姉ちゃん」の気持ち

 昨夜、セナと理人君にも、ユウと、ユウのお姉ちゃん――ミーの、課題の真相を話した。

 やっぱり、セナも理人君もショックを受けてしまって、わたしたちはしばらく途方に暮れて、何のアイディアも出なくって。とりあえず、昨夜はいったん解散して、今日、朝一番にUFOに集合ってことになった。


「はあ」

「どうしたの、結ちゃん」

 思わずため息をついたら、目の前で朝ご飯を食べていたお姉ちゃんが声をかけてくれた。

「あ、ううん。何でもないよ、部活のことでちょっと……」

 適当な言い訳をしながら、心配そうにこっちを見ているお姉ちゃんを見て、昨夜、セナ達が来てから、ユウが言ったことを思いだした。


『お姉ちゃんの固有能力は、テレパシー。命あるもの、すべての心を読むことができる。そんな、すごいお姉ちゃんなの。

 自慢のお姉ちゃんなんだ。

 まさか、アタシの対照実験を担当するのが、お姉ちゃんになるなんて思ってなかったから、今、実験で競争するような形になっちゃったことだけ、ちょっと辛いなって』

 

 自分と違って、優秀なお姉ちゃん。

 ユウは、お姉ちゃんのこと、きっと大好きなのに。争わなきゃいけなくなってしまって、きっと悲しいし、不安なんだと思う。

 ユウのお姉ちゃんは、どう思ってるんだろう。


「あの、あのね、お姉ちゃん。もし、わたしと、競争することになったら、どうする?」

「え? 競争?」

 お姉ちゃんはきょとんとした。

「競争って、何の競争?」

「えっと、何でもいいんだけど……例えば、わたしがその競争、絶対に勝ちたい、頑張りたいって思ってるとして、お姉ちゃんはそれを知った後に、競争相手に選ばれたら、その、どうする?」

「うーん」

 お姉ちゃんはまだパジャマ姿だ。今起きたところなんだよね。

 ジュースが入ったカップを両手でもって、目を閉じて、一生懸命考えてくれてる。

「競争の内容にもよるな~。できればあたしが苦手で、結ちゃんが得意なヤツならいいなって思うけど。絵とか」

「それって、勝たせてあげたいってこと?」

「それはあるよ~。だって、結ちゃん、その競争に絶対勝ちたいって思ってるんでしょ?」

「うん」

 お姉ちゃんはカップを眺めて、一瞬悩んだ顔になった。

「あのね、結ちゃんって責任感が強いと思うの」

「え?」

 そんなこと……ないんじゃないかな? 考えたことなかった。責任感っていうなら、お姉ちゃんの方があると思うけど。

「もしその競争のとき、あたしがズルして手を抜いて、結ちゃんを勝たせてあげたとして、その後、結ちゃんはその競技ができる子、得意な子って扱いになるでしょ?」

 後のことは、考えてなかった。

「そうしたら結ちゃん、本当に自信をもって『わたしにはこれができます』って言えるかなって……。結ちゃんのことだから、あたしが手を抜いて勝たせてあげたところで、絶対『本当はお姉ちゃんの方ができるんです、あの時はまぐれだったんです』って、自分を卑下し続けちゃうんじゃないかなって」


 ああ。なんか、それは、想像できるかも。


「だから、お姉ちゃんは、結ちゃんに勝ってほしいけど、でも、全力で挑む……かな」


 お姉ちゃんの言葉、お姉ちゃんの気持ち。

 ちゃんと、ちゃんと考えてくれるんだ。わたしが考えてなかった、先のことまで。

 何だか、嬉しいな。

「まあ、避けれるなら避けるけどね。できれば姉妹で競争なんて、したくないじゃん」

 明るく笑うと、お姉ちゃんはカップを持って立ち上がった。

「じゃああたし、勉強するね。結ちゃん、どっか行くんでしょ? 気を付けてね~」

 喋りながら、お姉ちゃんはリビングを出て階段を上がっていった。

「あっ! お姉ちゃん! ありがとう!」

 慌てて追いかけて声をかけると、お姉ちゃんは階段の上から、にっこり笑って手をふりかえしてくれた。

 

 今のは、お姉ちゃんの気持ちであって、ミーの気持ちじゃない。

 けど、もしミーもお姉ちゃんと同じように思ってたら?


 ミーも、全力で挑んでくる。


 ユウが、優秀な人って言ってた。

 きっと、すごく強敵だ。


 どんな強敵でも、負けられない。すごく怖いけど。

 それに、わたし、ユウに自信をもってもらいたい!


 ユウに笑顔になってほしい!

 絶対!!

 

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