地球のピンチは突然に。
「この実験はね、アタシ一人だけでやるんじゃないんだ。お姉ちゃんの実験結果とアタシの実験結果。この両方が、連盟には必要なの」
わたしに抱き着いたまま、ユウが真剣な声になって話し始めた。
「う、うん。たしか、お姉ちゃんは、支配しにきたって言ってたよね?」
「そう。連盟は、地球を評価する判断材料の一つとして、この島で、アタシとお姉ちゃんを使って、実験することにしたの」
「?」
地球を、評価する?
どういうことだろう、詳しく聞きたくて、身体を離そうとしたけど、ユウが離してくれない。
「アタシがトモダチを百人作ることができたなら、地球は、善良な星に進化する期待が持てると判断して、可能な限り見守り、必要であれば支援する方向で議論する。
お姉ちゃんの支配を、百人が受け入れてしまうのなら、地球は危険な星として――警戒態勢をとっていく方向で議論する」
え?
どういう、こと?
ユウは、ようやくわたしを離してくれた。
ユウの顔を見たら、泣き顔じゃなくなっていたけど、真剣な真っ直ぐな目で、わたしを見ていた。
「宇宙はね、繋がってるんだ。
そして、文明が発展していけば、地球もいずれ、サンカク星と同じ技術水準になるかもしれない」
「う、うん。想像できないくらい、未来の話だと思うけど」
「それに、宇宙全体も、全体として成長していかなくちゃいけないの」
「む、難しい話だね……?」
うう、どど、どういう、ことだろう? 宇宙全体が、全体として成長??
「ユウたちのガッコウが、一つの宇宙だとするじゃん」
「ん? うん」
「ユウたちのブカツが、一個の星だとする。ケンドウブ星とか、バスケットブ星とか、ビジュツブ星とか」
「う、うん?」
「ビジュツブ星はすごくレベルが高くって、最先端の技術も持ってるけど、ケンドウブ星はまだまだ技術も未熟で、危険なものを、危険なものと知らずに振り回してる。
その道具はとっても危険。失敗すれば、ガッコウ全部大爆発するかもしれない」
「ええっ」
「それに、ケンドウブ星がダメになったら、ケンドウブ星人は、他の星にお引越ししたいって考えるかも。ビジュツブ星に来るかもしれないし、お隣の星にくるかもしれない。
ケンドウブ星人がどんな人たちか、ビジュツブ星人、気にならない?」
「き、気になる。心配」
「もし、ケンドウブ星人がいい人だったら、道具、危険だよってそれとなく教えてあげて、ガッコウ全部が賢く、平和になってくれたらいいなって、思わない?」
「思う!」
平和が一番だよね。剣道部星って言われると、理人君のこと想像しちゃうから、よけいに平和になってほしいと思っちゃうよね。
「今、サンカク星が所属してる連盟は、地球を支援すべき隣人として見るか、敵対する恐れのある危険因子として見るか、悩んでるってこと。
遠い未来、地球が我々の隣人となる可能性があるのなら、見守って、必要なら支援して、平和な宇宙を持続したい」
「な、なるほど」
でもそれ――
「もし、敵対する恐れのある危険因子って判断されたら?」
ユウの顔が、悲しそうに歪んだ。
「今後支援は一切しないし、見守ることもしない」
「え? それだけ?」
「うん。地球は、連盟から見放される」
「え? あの、地球人を滅ぼすとか、しないの?」
想像してたのと違う答えで、肩の力が抜けた。
危険因子っていうくらいだから、つい、その、消されるのかと思っちゃった。映画とかゲームだと、そんな感じだから、つい……。
「地球レベルの水準の星は、まずまちがいなく、連盟の支援がない場合、ゆるやかに破滅に向かう。
見放されるってことは、すなわち、滅亡に向かっていくってこと」
「え?」
あ。うん。もっと予想と違ってた。
「地球は赤ん坊。母親のいない赤ん坊が一人、誰も助けてくれなかったら、無事に成長する確率は、ほぼゼロに等しい。
それに、地球に悪意をもって接触してくる異星人もいるんだ。
友愛をもって接するアタシより、支配してくるお姉ちゃんを選ぶようなら、きっと悪意をもった異星人には勝てない。連盟の庇護下にない星は、悪意を持った存在からの攻撃に対して、無防備になってしまい、破滅に導かれてしまう場合が多い。」
「ああ、そ、そうなんだあ~」
「サンカク星も、はるか太古に、他の星からの見守りと支援を得て、今の水準になったんだって。宇宙は家族。先達たちが、愛を持って支えてくれたからこそ、成長できた――って、連盟の偉い人、よく言ってる」
さっき、ユウが学校に例えたけど、本当に、学校みたいだな、宇宙。
「えーとじゃあ、つまり、ユウとユウのお姉ちゃんの課題の結果が、地球の未来を左右する……ってことかな?」
「そうなる」
わー!
予想もしてなかった!
セナ! 早く来て! 友達百人できるまで帰れまセンじゃなくて、友達百人出来なきゃ滅亡デスだよ!
なんか、目標は何一つ変わってないのに、すんごく、すんごく重い課題になった気がするんだけど!
「あ」
と、ユウが顔を上げて、敬礼のポーズをとった。
モニターが切り替わり、外の景色が、駐車場の向こうに花火上がる光景が映し出された。
そして、その花火を遮るように、ふたつの人影。
セナと理人君だ!
ユウは、花火が上がって、駐車場にいる人が全員向こうを見ているすきに、ふたりをUFOの中に招き入れた。
「ユ、ユウ! ユイも! これ見て!」
セナは、開口一番にそう叫んで、スマホを差し出した。
「どうしたの?」
「あの動画のバーチャルシンガー、ユウの姉さんなんだろ?」
理人君が真剣そうな声で言った。
「う、うん」
差し出されたスマホには、あのモニターで流れていた歌の動画が流れていた。
曲のクライマックスらしかった。
音楽に合わせて、個性的なフォントのテロップが表示された。
『歌:m/e』
「えむいー?」
「ミーって読むらしい。これがSNS」
今度は理人君のスマホを見せられた。SNSのプロフィール画面。「m/e(ミー)」と書かれている。
「ちょっとほら、これ、これ見て!」
セナが、ぐいぐいとわたしをひっぱる。
ユウと二人、おでこが当たるくらいくっついて、一緒にスマホを見てみると、歌が終わったあとの画面には、文字が大きく映し出されてた。
『ライブ開催決定。星見学園グラウンド特設会場にて』
開催日時は、明日の十六時だった。
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