トモダチが増えました!

 お祭り会場は、街の中心部にある神社と、その向かいの市役所の駐車場と道路。

 神社と市役所の間を走る、片側二車線の広い国道が、二区画分くらい交通規制されて歩行者天国のお祭り会場になるの。

 そして、わたしたちが作った灯篭は、神社の階段の両脇に飾られて、参道を彩るの。


 交通規制ギリギリまで、セナのママが車で送ってくれた。その車を降りてすぐ、浴衣や甚平、それぞれにオシャレをした人たちが、露店を見たり、神社にお参りに行こうとしたり、道路の真ん中に設置されたイベントスペースの観客席に陣取ったりしているが見えた。

「これが、オマツリ?」

 ユウの目はもはやキラキラを通り越して、星のようになっている。顔に、ワクワクしてたまらないって書いてるみたい。

「そうだよ、結構賑やかでしょ?」

 島の外からも観光客が来るから、普段の島の景色の何倍もにぎやかになるんだよね。

「すごいね、人がいっぱい! ガッコウより、いろんな人がいるね」

「あはは、そうだよ、大人も子供もいるよ」

 はぐれないように、ユウを真ん中にして左にわたし、右にセナが立って手を繋いだ。

「とりあえず、露店を見てみる?」

「結!」 

 そう言いながら、一歩踏み出そうとしたところで、後ろから声をかけられた。

「あ! 理人君! 伊緒君!」

 振り向くと、男物の浴衣を着た理人君と伊緒君がいた。甚平じゃなくて、浴衣にしたんだあ。大人っぽいなあ。

「三人とも、良く似合ってるよ」

 にっこり笑って伊緒君が言った。

「あ、ああ、すごく、その、いいと思う」

 理人君も、慌てて褒め始める。ふふ、照れくさそうなのに褒めてくれるんだ。こっちも照れちゃうなあ。

「二人も、バシッと決まってんじゃん」

 セナが理人君の背中を、軽く叩きながら、ニヤニヤ笑って言った。そんな悪い顔で笑わなくてもいいのに。

「リヒト、イオも、ありがとう! ユカタ、とっても素敵!」

 ユウが理人君と伊緒君に両手を広げて、浴衣を見せながら言った。理人君ったら照れてる。ユウ、かわいいもんね!

「あ、セナ! 結ちゃん!」

「理人と伊緒君もいるじゃーん!」

「えっちょ、だれ?」

 早くもわたしたちを見つけたらしいクラスメイトたちが、声をかけてきた。

「お~オツカレ! あ、紹介するよ! 島に夏休みの間、研究のために旅行に来た留学生のユウだよ!」

「ハジメマシテ!」

 セナがすかさずユウを紹介した。

 クラスメイトの女子三人組は、呆然としてユウを見上げた。

「は、はじめまして」

「え、モデルみたい。めっちゃカワイイ!」

 ユウが囲まれて、わいわい騒ぎになる。

 よしよし、予定通り!

「ね、綿あめとか食べよう! ユウちゃん、初めてだよね?」

 みんなに手を引かれて歩き出すユウの後ろについて、そっと歩き出す。

 ユウは、両手を引かれて歩きながら、わたしの顔を見てにっこり笑った。

「ユイも、一緒だよね」

 あれ? なんだろう。

 ユウの笑顔が、何でだろう。

 とっても、嬉しい。

「うん、一緒だよ」

 答えると、ユウが安心したように見えた。

 そっか、ユウはカッコよくて、不思議な子だけど、たった一人で違う星に来てるんだもん。不安がないわけ、ないよね。

 わたしは、そっとユウのすぐ後ろによりそって歩き出した。


 それからひとしきり、いろんな露店を見て過ごした。

 綿あめに感動したユウが、両手をベッタベタにして、神社で手を洗わせてもらったりしながら、お参りもして、写真も撮って、ユウもかなりみんなと親しくなったみたい。

 他のクラスメイトや、部活の仲間が声をかけてくるたびに、わたしもセナも、理人君や伊緒君も、ユウを紹介した。

 ユウに課題を出し立っていう連盟の偉い人たちの「友達判定」がちょっとよくわからないんだけど、とりあえずまずは知り合いになるところから始めなくちゃ意味がないよね!

 きっと、ちゃんと前進してるよね。


「ユウちゃん、りんご飴って知ってる?」

 美術部の先輩が、ユウにそう声をかけた。先輩、甘いもの好きだものね。

「ううん、なあにそれ」

「おいしいしカワイイんだよ! あっちに屋台があったよ。おすすめ!」

 先輩のその一言で、いつの間にか十人くらいの団体になっていたわたしたちは、神社の階段をおりて、また道路の露店がたくさん並んだ場所に行こうということになった。

「ステージもそろそろ始まるよね?」

「なんか、お笑い芸人さんとかYouTuberさんとか、来るんじゃなかったっけ?」

 みんなが楽しそうに話してる。

 そう言えば、市役所の駐車場にはステージができてて、大きなモニターも設置されてたっけ。

 りんご飴の屋台が見えてきた。あ、隣はチョコバナナ屋さんだ。

「あ、ボク、チョコバナナにしようかな」

 セナ、チョコバナナ好きだもんね。わたしはどうしよう、悩むなあ。

「チョコバナナ? それも美味しい?」

「うん、美味しいよ! ボクはりんご飴よりチョコバナナがいいな!」

「ユイは?」

「うーん、悩むな~。どっちも美味しいよね」

 わたしがそう言うと、ユウはくるっと後ろを振り向いた。

「リヒトとイオは?」

 聞かれると思っていなかったのか、伊緒君がビクッとしたように見えた。

「僕は、甘いものはちょっと苦手なんだ」

 伊緒君、甘いもの苦手なんだ。確かに、甘いものよりブラックコーヒーとかが似合いそうな、大人っぽい雰囲気だもんなあ。

「俺もいらないかな。割りばしとか串とか持って歩くの、苦手なんだよ。転んでけがしそうで怖いだろ? 結もセナも、ユウも、買ったらちゃんと座って食べるんだぞ」

「はいはーい!」

 セナが面倒くさそうに答えた。昔から、理人君はこうなんだよね。

「ふふ、理人君、パパみたいだね」

 わたしが笑うと、理人君は急に顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

 あれ? おじさんっぽいって言ったわけじゃないんだけど、傷ついちゃったかな?

「パパ~! チョコバナナ買って~!」

「自分で買えよ!」

 からかうセナに、怒る理人君。うんうん、いつもの光景だな~。


 と、列に並び始めたその時、ドン! っと大きな、スピーカーの音がした。

 みんなが、ほとんど反射的に、音のした方向――ステージの方を見た。


「あれ――」


 伊緒君の声が聞こえた気がしたけど、それは、大きく響いた音楽の音にかき消されて、聞き取れなかった。

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