いざ、出陣!

 ついにやってきたお祭り当日!

 わたしは家でママに浴衣を着せてもらって、セナの家に向かった。

 ユウは、セナのママに着付けをしてもらうので、セナの家にいる。

 わたしの浴衣は、淡い黄色の記事に、オレンジ色や白、ピンクのちいさな牡丹がたくさん散りばめられた柄だった。帯はくすんだ水色。ビー玉みたいに大きなビーズでできた飾りがついた帯紐をつけた。髪型はいつもの二つ結びをくるっとお団子みたいに丸めただけなんだけど、それだけでもちょっとオシャレした気分になるよね。

 それから……わたしは自分の巾着の中に隠した、和柄のリボンをチラッと見た。

 ユウの浴衣をネットで探したときに「この商品を買った人はこちらも買っています」みたいなオススメに上がってた、綺麗な和柄のリボン。

 ユウの髪はすごくふわふわてもこもこで、毛量も多くて、セナと一緒にどうにかしてお団子にしたりとか、アップヘアにできないか試してみたんだけど、うまくいかなくて、ユウはいつも通りの髪型でいくしかないねって話になったんだ。

 でも、せっかくの浴衣なんだから髪型も特別にしたいじゃない?

 それで、この一本三百円の和柄のリボンを二本と自分用に一本、それからセナのために、シンプルな柄のを一本、お母さんにお願いして注文してもらったんだ。

 

 わたしの分は、手首に結んでもらった。

 早く行って、ユウの髪に結んであげたいな!

 スキップをしたいくらい浮かれた気持ちで、薄くオレンジ色になり始めた空の下、セナの家に向かった。インターホンを押すと、紺色にストライプ模様の甚平を着たセナが迎えてくれた。

「ユイ! めっちゃカワイイ! いいじゃん! 最高!」

「ありがとう、セナ。セナも涼しげで似合ってる!」

「入って入って! ユウももうすぐ着付け終わるからさ!」

 セナに連れられて、セナの部屋へ行くと、ちょうど着付けが終わったところで、セナのママが出てきた。

「セナ、ユウちゃんできたよ。すんごい綺麗ね~。背が高いとカッコよくていいわね~」

 そう言うセナのママは、わたしと同じくらいの身長。解るよ、その気持ち!

 お邪魔します、といつもの挨拶をしてから、セナの部屋に入って、わたしは目を見開いた。


「ユイ?」


 ちょっと照れたみたいに笑って、こちらを見るユウ。

 ゆるやかな肩のラインと、細長い首すじが強調されるような浴衣の襟元。ピンクの髪が、薄紫の浴衣によく似合ってた。

 夕日を背負ったユウの姿は、天使だって見とれるんじゃないかってくらいに、素敵だった。


「ユウ! すんごいカワイイ!」

「ユイも、とっても素敵。日本の民族衣装は、ちょっと動きにくいけど、美しいね!」

 ユウの笑顔が嬉しい! がんばって灯篭を作ってよかった!

「ねえユウ、ちょっとだけ座ってくれる? あと、髪に触ってもいい?」

「ん? うんいいよ!」

 ユウはそう言って、着付けのためにセナのママが持ってきたのだろう、籐のスツールに座った。座り方もちゃんと教わったらしく、しぐさがとってもきれいだった。

「ちょっとだけ、じっとしててね」

 ユウのピンクの髪の、ツインテールの付け根。ヘアゴムのようなもので止められているその上に、そっとリボンを結んだ。

 ちょうど、籐のスツールの前には姿見が立てかけられていた。これも着付けのために持ってきたんだろうな。

「できたよ、ユウ。見てみて!」

 ユウが目を開ける。私の手元、自分の頭に視線を送って、目を見張った。

「どうかな?」

「わっユウ! いいじゃん! すんごい似合ってるよ!」

 ママのお手伝いをしていたようで、遅れて部屋に入ってきたセナが歓声を上げた。

 ユウは驚いたような顔で、ぼうっとしている。

「これ、ユウが結んでくれたの?」

「うん! わたしからユウに、プレゼント。もらってくれる?」

 ユウは、鏡越しでわたしの顔を見た後、ぐるっと振り向いて、わたしの手を両手で握った。

「ありがとう! すっごく嬉しい! 絶対、絶対! 大事にするね」

「えへへ、お揃いなんだよ、ほら」

 そう言って、手首のリボンを見せると、ユウはさらに喜んだ。

「えーっ! いいな! いいな~!」

「セナにもあるよ!」

 小さい子みたいに口をとがらせるセナに、セナのためのリボンを渡した。

「わあ、いいのユイ? ありがとう! 嬉しい!」

 まさか自分の分もあると思っていなかったのか、セナは涙目になって喜んだ。

 いやいや、大げさだよ! 喜んでくれるのは嬉しいけどね。

 セナは甚平姿に、リュックを背負ったんだけど、そのリュックにわたしがあげたリボンを結んだ。

「三人でお揃いっていいね!」

「オソロイ……オソロイ……ふふ、嬉しい」

 セナの言葉を聞いたユウがそう言って、わたしたちを見た。

「不思議。サンカク星でも、ユイたちの学校の制服みたいに、みんな同じような服を着ることもあったんだけど、こんな風な気持ちになったことはなかったよ。

 不思議な感じ。これが、トモダチなんだね!」

 ユウの嬉しそうな顔を見てると、こっちも嬉しくなっちゃう。

 それはセナも一緒みたいで、ほっこりした笑顔になっていた。

 そっか。これが、友達なんだね。

  

「じゃあ行こうか!」

 セナは気合を入れるように言って、玄関へ駆け出した。

 そうだ、ユウのために友達をたくさん作るんだ! もっともっと、ユウに笑顔になってもらいたいもん!

 さあ、作戦決行だ! いざ、お祭り会場へ出発!

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