浴衣を手に入れた!

 結局二日間、セナは星空のスケッチの予定を変更してまで灯篭作りを頑張った。

 理人君と伊緒君は、初日に文字を呼びも入れて四十枚も書いていってくれて、次の日、わたしとセナとユウの三人で、目標の三十個を完成させた。

 そして見事、セナのパパからお小遣いをもらった。

 その場でネット通販の浴衣セットをコンビニ決済で注文して、三人でコンビニに支払いに行ったりした。

 浴衣が届くまでの五日間、わたしとセナは部活がないときはユウの船に入り浸った。

 ユウが見せてくれるいろんな映像をスケッチして過ごすセナの横で、わたしはゲーム機やカードゲームを持ちこんで、ユウとゲームで遊んでた。時々だけど、理人君も来てくれて、そのときはみんなで遊んだ。ユウは、地球の文化が面白いといって、すごく喜んでくれて嬉しかった。

 楽しいと五日なんてあっという間だった。


 浴衣が届いた日、わたしはユウと一緒にセナの部屋にいた。

 浴衣の届け先をセナの家に指定していたから、元々セナの家に集合する予定だったんだけど、朝起きてカーテンを開けたら、窓の外に逆さまのユウが浮いていて、ビックリしたんだよね。悲鳴上げちゃった。

 ユウも楽しみだったみたい。

 でも、ユウ、宇宙人だってこと、隠す気、あるのかな? 心配になっちゃうよ。

 今朝は部活もないので、シャツワンピースとショートパンツ姿のわたしは、ユウと二人でセナの部屋の床に座っていた。

 今しがたチャイムが鳴って、セナが部屋を飛び出していったところだ。トラックが停まるような音がしたし、きっと浴衣が届いたんだ!

「ユウ、浴衣、楽しみだね」

「ユカタ、ユイもセナも着る?」

「うん! わたしは着るよ! 去年お母さんに買ってもらったの、お気に入りなんだ! セナは多分、浴衣じゃなくて甚平かな」

「ジンベイ?」

 ユウは難しい顔になって、左手の掌を上にして、わたしの方に差し出した。

 掌の上、というか、手首のリングの真上に、半透明の、青い画像が浮かび上がった。水族館の水槽みたいに見える。

「わあ~すごい! 何でもできるんだねそのリング!」

 感動しているわたしのすぐ目の前で、半透明な画像の中を大きさな魚が横切った。

「ジンベイってこれ? 地球のこと予習したときに見たけど、ジンベイザメ」

「へっ? ああ、違う違うよ! ふふ、そういう、浴衣の仲間みたいな服があるの」

 答えながら、セナがジンベイザメの着ぐるみを着てる姿を想像して、かわいすぎて笑ってしまった。

「でも、ジンベイザメって結構人気があるよね。着ぐるみ、セナ似合うかも」

「キグルミ?」

「えっとね」

 今度はわたしの番だよね! スマホを取り出して、着ぐるみで画像検索する。ちょうどよくジンベイザメがモデルのゆるキャラの着ぐるみの画像が出てきたので、それをユウに見せた。

「このね、大きなお人形みたいのの中に人が入って、動くの。これが着ぐるみで、これに近い感じのお洋服も――」

 動物の耳がついたパーカーや部屋着を見せようと思って、スマホを操作した瞬間、すぱーん! といい音を立てて、セナの部屋の入り口の引き戸が開いた。

「ユウ! ユイ! 届いたよ~!」

 セナは、自分の身長くらいありそうなくらいの長方形の箱を抱えていた。

「わあ! 思ったより大きい箱!」

「浴衣は小さくたためないからね、よいしょっと」

 わたしとユウの目の前に、どさっと箱を降ろしたセナは、べりべりとガムテープをはがしていく。

 長い箱の中には三つの箱が入っていた。

 最初にセナが取り出した小さな白い箱には『下駄・L』と書かれていた。

 次の箱は、表面が透明なプラスチックになっていて中が見える形になっている。中はきれいな帯だ。濃い紫色に白い模様が描かれてる、大人びたデザイン。

 最後に取り出された白い箱は、浴衣だ。

 セナがその箱のふたを開けた。ぽふっと空気が抜けるような音がした。

「わあっ! ユウ見て! すごい綺麗!」

「おお~! 思ったよりいいじゃん!」

 薄い藤色の生地に、大きな朝顔の模様がすっごくカワイイ。

 わたしが目を輝かせながらユウを見ると、ユウは手に下駄を両手に持って眺めていた。

「その、細長い布、服なの? これブーツ? どうやって履くの?」

 ユウは困ったように、下駄と同じ箱に入っていたらしい足袋を持ち上げた。

「それは足袋。靴下みたいなものだよ」

「これは?」

「それは下駄。サンダルっていうか靴っていうか」

「すごく面白いね!」

「今日は母さんがいないからちょっと着せてあげられないけど、お祭りの日、着つけしてもらう約束してるから、着て行こうね!」

 セナが楽しそうに言いながら、片付け始めた。

「これを着て行けば、トモダチができるの?」

 ユウは本当に不思議そうにしていたけど、ユウがこの浴衣を着たら、みんな絶対ユウに目を奪われると思う!

「ふふ、きっとみんな話しかけてきてくれるよ! そうすれば、友達になるキッカケになるでしょ!」

「キッカケか。そっかあ!」

 嬉しそうに笑ったユウの顔は、本当に眩しくって、わたしとセナは顔を見合わせて笑った。

 絶対、楽しいお祭りにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る