三人目の友達、ご招待
理人君が駐車場に到着して、ビックリしながらもユウのUFOに入ってきた時、理人君はものすごく汗だくだった。
何だか、今まで快適空間で楽しくお茶会みたいなことをしていたので、猛烈に申し訳ない気分。
ユウもさすがに気の毒と思ったのか、理人君を部屋の隅に連れて行って、何やら丸い台のようなものの上に立たせた。
「ちょっとじっとしてて」
ユウがそう言った直後、理人君の足元から風がぶわっと吹き上げてきて、二秒くらいで止まった。
「うわっ……!」
理人君は驚いて、目を閉じて身を固くして、風がやむと、今度はもっと驚いた顔で目をパッと開いた。
「え? 何? すげえスッキリした」
理人君はさっき入ってきたときは大違いで、制服のシャツもサラサラだし、表情もなんだか明るくなったように見える。
「リフレッシュ。身体的な不快感を払しょくできるよ!」
「すごい……! すごいよユウ! ボクも体験したい!」
「いいよ!」
ユウがあっさりOKしたので、理人君はまだちょっと呆然とした様子で台から降りて、わたしの方に歩いてきた。
「す、すごいな、ユウ」
「理人君、足、ケガしたんでしょ? もう治ったってユウが言ってたけど」
「あ、ああ、そうなんだ。ユウっていうのか? あの子が絆創膏を貼ったらあっという間に痛みが消えて、腫れもひいてさ。もう何ともないんだ。絆創膏も、溶けるみたいに消えちゃったし。不思議なことだらけだな」
制服のパンツを少しだけたくし上げて見せてくれた足首は、本当に腫れもなく、もちろんあざもないし赤くもなんともない。
「ハハ、さすが宇宙人だよね」
「信じるしかねえって感じだな」
「わーーっ!」
突然、セナの悲鳴がしたけど、さすがにだんだん驚かなくなってきた。慣れってすごいね。
「どうしたのセナ?」
「み、見て、結、これ……!」
わなわなと震えながら両手を広げてこっちを見たセナの身体には、特に変化はなかった。
そう、セナ自身には何の変化もないんだけど、着ているつなぎと体操着のシャツ。絵具や薬剤など、美術室にあるいろんなもので汚れに汚れてカラフルになっていたセナの「部活着」が、新品同様きれいになっていた。
「すごい! セナのママも喜ぶんじゃない?」
「へえ~すごいな、洗濯機能もあんのか! 便利だな~」
わたしと理人君が感心していると、ユウがえっへんと胸をはった。
「くっ……予想外だった……気に入ってたのにな……」
セナがちょっと落ち込んでいる。汚れたつなぎが気に入ってたんだろうな。でも、セナのことだから、夏休みが終わるころには元通りになるんじゃないかな。
「便利でしょ?」
ユウはそう言いながら、わたしの腕を組んで、そのままソファの方へと引っ張って言った。されるがまま、ソファに並んで座る。
わたしとユウが座ると、セナと理人君も向かい側にユウが持ってきておいたスツールにそれぞれ座った。
「ねえねえ、それで、ユウは友達を作りに、他の星から地球に来たんだよね?」
「うん!」
セナが切り出すと、ユウは答えながらわたしにぴったりとくっついた。
「ね、理人、ユウと友達になってよ!」
「は? 俺はいいけど……その、ユウ? あんたはいいの?」
「もちろん! リヒト! よろしくね」
「お、おお、よろしく」
ぺこりと頭を下げた理人君を見て、ユウはきょとんとしてから、楽しそうに理人君の真似をして、両手を握って膝に置いて頭を下げた。理人君は真面目だなあ。
「さあユウ! トモダチ三人そろったよ! 詳しく教えて! ユウのこと!」
セナったら、ユウに興味津々だね。
「いいよ!」
そう言ったユウは、また敬礼のようなポーズをした。
すると、部屋の照明が一気に落ちて真っ暗になって、外の様子が映し出されていた壁の映像が切り替わった。
「これが、アタシがいた星。固有名詞は、表す音が地球にないから、サンカク星ってことにしとくね! よくわかんないけど、アタシの星がある辺りのこと、この国は『夏のダイサンカク』って呼んでるらしいから!」
サンカク星って名前に突っ込みたかったけど、それどころじゃなかった。
映し出された映像は、地球に似ているようで、全然違う都市の景色だった。
自然がいっぱいあって、きれいな川や植物がたくさん。樹がどれもこれも大きくて、その樹の間に白い建物が建ってた。建物はどれも背が低くて、デザインはシンプルだった。形は四角いものも、球体のものもいろいろだけど、装飾のようなものは特にない、みんなつるんとした外壁。
歩いている人はみんなユウみたいな長身で、どことなくユウと同じような服装をしてた。目の色も髪の色も、肌の色も、みんな個々に違ってる。
公園みたいな場所が映ると、小さな子供みたいな子たちが楽しそうに走り回っていたり、芝生のようなところで本を読んだり、おやつを食べてる人がいた。
なんだかとっても穏やかな景色。
「わあ、とってもきれいな場所だね。樹が大きくって、芝生が気持ちよさそう」
「ユイがそう思ってくれて嬉しい! いつか絶対招待する!」
「えっ? 行けるの?」
「行けるよ、アタシが来れてるんだから」
クスクスとユウが笑った。そうか、言われてみたらそうなのか。
「行きたい!」
「落ち着けセナ。話が進まないだろ」
興奮して立ち上がったセナを、理人くんが引っ張って静止した。
「それでね、このサンカク星は、近所の星たちと連盟? っていうのが一番近いのかな? なんか協力して宇宙の平穏を守るみたいな組織を作ってるんだけど」
ユウの言葉に反応して、動画が切り替わって、よく教科書で見るような宇宙のなかに星が並んでる、天体の位置を表した図のようなものになった。
それぞれの星を表している球体に、線と文字のようなもので解説が書かれているみたいだけど、全然読めない。きっとサンカク星で使われてる文字なんだ。
図はどんどん広がって行って、プラネタリウムみたいに星がたくさん瞬いてる夜空が映し出されて、その中のいくつかに文字と線がついている。この、文字と線で注釈が書かれてるっぽい星が、その連盟に所属してる星ってことかな?
「この連盟の偉い人達が、地球でトモダチを作る子を募集してたから、アタシが志願したの」
ユウがそう言うと、画面が真っ黒になって、その上に、白くて細い線が幾何学模様を描き出した。
「あ、これが連盟のシンボルマークね」
ユウがシンボルマークといったその幾何学模様から、一本の線が下につーっと伸びて行って、その線は、ユウにそっくりな女の子の輪郭を描いた。
「ユ、ユウ、わたしたちと同じくらいの年齢……だよね?」
「うん! えーと、地球の人たちの年齢に当てはめると、だいたい十五歳くらい」
「すごいな。そんな若いのに、そっちの銀河の代表ってことになるのか?」
わたしと同じことを思ったらしい理人君が、驚いた口調で言った。
「アタシくらいの年代の子っていう条件が第一だっただけだよ。地球の未来に関することだから、子供たちに任せるんだってさ!」
「それだってすごいじゃんか! その、サンカク星にボクらくらいの年代の子、たくさんいるだろ? その中で代表に選ばれたってことだろ」
セナの言葉に、わたしと理人君がうんうんと頷いていると、ユウは目をぱちくりさせた。
「ああ、それはアタシが……だから……」
え? ユウの声、うまく聞き取れなかったけど、今、言った言葉って……。
――アタシが、何もできないヤツだから
「え? 何?」
セナが聞き返したけど、ユウはにっこり笑っただけだった。
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