カワイイUFOと異星人のおやつ

「ふわあああ~カワイイ……! すっごくカワイイお部屋!」

 ピンクの壁紙には小さな水玉模様がうっすら描いてあって、ぷっくりした形のソファもそこに乗ってるフワフワのクッションもユウの髪に近い明るいピンク色。床に敷いてあるラグはくすんだピンク。こういう、ちょっとくすんだ色も好きなんだよね! テーブルはほとんど白に近いパールピンク。

 ここがUFOの中だなんて、全然思えない!

「でしょう? ユイが気に入ってくれて嬉しい」

「うん、ユウの髪の色とお揃いで、とってもカワイイね」

 はしゃぐわたしたちを、セナが何とも言えない生暖かい目で見ている気がする。

「インテリアはともかく、これが宇宙船の中なんだ。操作パネルとか、コクピットとか、そう言うのは? 別の部屋?」

「ん?」

 セナの質問にユウが左手を何気なく延ばした。

 すると、ユウの左手の指先に、長方形が現れた。

「操作パネルならこんな感じだけど、基本的に音声指示で動くよ! 外の景色見せて!」

 ユウがそう言うと。ピンク色の壁一面が突然真っ黒になってから、その場に大きな窓でもできたように、外の駐車場が映し出された。

「す、すごい! ユウ! 君、本当に他の星から……ものすごく進んでる、地球よりずっとすごい技術がある星から来たんだね!」

 セナは鼻息荒くそう言った。

「そうだよ! トモダチを作りに来たの!」

「友達。昨夜、わたしと初めて会ったときもそう言ってたね」

「うん! アタシはこの島を目指してきたの。

 着陸態勢をとって外を見たら、一人の女の子がわたしの船を見てた。目が合った気がして。この子は、アタシの運命のトモダチだって思って。そしたらもう居ても立っても居られなくて、思わず飛び出しちゃったの」

 あっもしかして――あの流れ星が、このUFOだったの?

 じゃあわたしがお願い事をしたのは、星じゃなくて、このUFOだったってことになるよね。は……恥ずかしい! セナに聞かれたら絶対笑われちゃう。内緒にしとこ。

「つまりさ、ユウは何かきちんとした目的があって地球に来たってこと?」

「うん! そうだよ」

 セナが真面目な顔で質問を投げかける。答えるユウは相変わらずニコニコ楽しそう。

「目的について、ユイとセナには話したいんだけど、ルールがあって」

「ルール?」

「うん。最初にできたトモダチ、三人までに全部話していいって言われてるの」

「三人?」

 ルール? ユウは何かの決まりを守って行動してるってこと?

「え? も、もしかして、わたしたちがここに来たことは、ルールに反してないの?」

「うん。だって、ユイは一人目。セナは二人目だもの。もう一人までここに連れてこれるよ」

「そっか、ちょっと安心した」

 ユウが何のルールを守ってて、何のために地球に来たのかとかは解らないけど、わたしたちのせいでユウに迷惑が掛かったら嫌だもんね。

 でも、三人までにしか話せないって、どんな目的なんだろう。

「ユウ、もし今三人目が見つかったら、ボクたちにその目的を教えてくれるの?」

 セナの眼鏡がきらりと光った。

「うん! できれば、三人そろったときに一度に説明したいと思ってるの」

「じゃあさ、オススメのトモダチがいるんだけど……キミが足首を治してくれた、剣道部の男子――理人なんてどう? いいヤツだよ。ユイとボクと幼馴染なんだ」

 ええっ! セナったら、理人君を友達に推薦してるってこと? まあ、確かに理人君はいい人だけど。

「ユイはどう思う?」

 ユウが、こてんと小首を傾げてわたしに言った。

「り、理人君なら、確かにいい人だよ。頭もいいし、剣道もできるし、学級委員だし、頼りになると思うし」

「ユイがいいなら、いいよ! アタシ、ユイとセナのこと信じる」

 ユウの答えを聞くなり、セナはスマホを取り出して何か始めた。

「理人に連絡した! ここに来てって!」

「ええっ? でも、理人君部活……」

「大丈夫だよ、足が痛いとか言って抜けてこいって言ったから」

「足、治ったはずよ?」

 セナのあくどいコメントに、ユウが不思議そうにそう言った。ああ、純粋な異星人がセナのせいで悪戯っ子になったらどうしよう!

「だめだよ。サボらせたりしちゃ……」

 と、セナのスマホが振動した。

「あ、理人だ! もしもし? うん! あ、そうなんだ。うんうん。結もいるからさ、来なよ。すんごいもの見れるよ」

 あああ、セナったら、そんな見世物みたいに言わなくても……。ユウ、不快になってないかな? ってチラッと見たら目が合って、にっこり微笑まれた。

「理人、来るって! 何か、念のためって部活休まされたみたいだよ。伊緒君に」

「い、伊緒君……そう言えば、すごく怒ってたよね」

「イオ? あの、マイナスのエネルギーに呑まれかかってる子のことね」

「え?」

 今、ユウ、何て言った?

「あの子、リヒトのことがとても大切なんだと思う」

「伊緒君は転校して以来、理人にべったりだからな~」

「セナ、その言い方はちょっとなんか……違うような」

 確かに二人はよく一緒にいるけど、べったりくっついてるところは見たことないし。そんなこと言ったら、わたしのセナの方がよっぽどべったりしているような……。

「そうだ! ね、リヒトが来るまでまだ時間があるでしょ? 座って座って!」

 ユウは突然何かを閃いたようで、わたしとセナをソファに並んで座らせた。

「おお~……ソファの座り心地も初体験って感じ」

「ほ、ほんとだね。低反発とかともちがう、もちっとプニッとした感じ……!」

 めちゃくちゃ座り心地がいい! ずっと座ってたい!

 わたしたちがすっかりソファの虜になっているを見たユウは、ゴキゲンな様子で鼻歌を歌いながら、部屋の隅にあった機械を操作し始めた。

 自動販売機のようなものに見えたその機械から何かを取り出して、こちらに持ってくる。

「どうぞ! 地球ではトモダチをお部屋に呼んだら、飲み物と食べ物でおもてなしするんだよね?」

 ユウがテーブルの上に置いたものは、お皿に乗ったカラフルな宝石みたいなものと、二つの紙コップだった。紙コップの中には透明な液体が入ってる。

「ありがとう。これ、お菓子なの?」

 なんてカワイイお菓子! 宝石の欠片みたい。ゼリーかな?

「いただきますっ」

 わたしが食べるのももったいないなんて考えているうちに、セナが紙コップをぐいっとあおった。

「うわあっなんだこれ、すんごい美味しい!」

 セナが、目を輝かせてコップを見ている。

「透明なのに、すんごいフルーティ!」

「ええっ」

「美味しいでしょ? お気に入りなの! ね、こっちも食べてみて!」

「いただきます」

 ドキドキしながら、宝石のようなお菓子に手をのばす。

 ゼリーかなと思ってたのに、触ってみたら固い。キャンディみたいな感じ?

「あ、甘い! 美味しい~!」

 キャンディよりも柔らかくて、ほろほろと口の中で溶けていく。不思議な食感。わたしが食べたのはオレンジ色だったけど、味は青りんご味みたいな感じだった。

「ほんと? いただきます!」

 セナも食べて、目をぱちくりさせてわたしを見た。

 わたしたちは顔を見合わせて、口の中の幸せにすっかりふにゃふにゃになってしまった。

「よかった! 二人に喜んでもらえて!」

「ユウたちの星でも、甘いもの……こういうお菓子があるんだね! ボク感動したよ! 星が違っても、こうやって同じ気持ちを共有できるんだね」

「ほんと、そう言われてみたら、なんかすごい事な気がしてきた。ユウ、ありがとう!」

「アタシも嬉しい!」

 今頃、この炎天下に山道を歩いてきているだろう理人君には申し訳ないけど、わたしたち三人は、美味しいおやつとドリンクで、なんとも幸せなひと時を過ごした。


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