ピンクのUFOへご招待
その後、ユウにもう一度透明になってもらって、わたしたちは玄関から外に出ることにした。校門をくぐるまで、わたしは心臓を吐きそうなくらい緊張したのに、セナはすんごく楽しそうだった。さすがだなあセナは。
「ユウ、宇宙船ってどこにあるの? やっぱり隠してるのかい?」
校門を出て、人気のないところまで来て透明モードを解除したユウに、セナがワクワクを隠せない様子で声をかけた。
「うん。みんなからは見えないようにしてあるよ。今はね、あそこにある」
そう言ってユウの指は、天文台のある山の方をさしていた。
「山の上かぁ。行くの大変そう」
思わずつぶやいたわたしを見て、ユウはまた敬礼のようなしぐさで左手首のリングを掲げた。
「大丈夫だよっ」
ユウの言葉の直後、わたしとセナの身体が、ふわっと浮かんだ。
「へっ?」
「おお~!」
足の下に確かにあった地面の感覚がなくなって、まるで見えない何かに抱き上げられたようなのに、誰かに触られてる感覚もない。不思議な感覚。
まるで魔法。
「二人ともしっかりつかまってて!」
楽しそうにそう言うと、ユウはわたしを左手で、右手でセナをひょいっと抱えた。まるで荷物のように軽々と。
そしてそのまま、昨夜みたいにハイジャンプした。
「ふわっ」
「うわああっ」
反射的に目をきつく閉じて、悲鳴を上げる。
あっという間に、昨夜のように高い高い場所に到達した。
あ、ヤバい、昨日と違ってお昼だから……人の声や悲鳴が聞こえてくるような。
誰かに見られちゃってるよね?
確認しようと下を見ようとしたのだけど、そんな暇はなく、視界は一気に流れて行った。そう。急降下が始まったんだ。
悲鳴を上げることもできず、息もできずにいるうちに、昨夜の着地のときと同じように、不意に風が止んで、落下が止まった。
「はいっ到着っ!」
ユウが、するりとわたしとセナから手を離すと、ふわふわした感覚が徐々に消えて、すとんと地面に立てた。
「あ、ありがとう、ユウ」
お礼を言うと、ユウの金色の瞳が、嬉しそうにキラキラと揺らめいた。
「ここ、展望台の駐車場だね」
セナの声でハッとして周囲を見ると、展望台がある公園の駐車場だった。公園って言っても、ちょっと開けた芝生の広場みたいのがあって、真ん中に大きな石の記念碑があって、その先の階段を昇れば山のてっぺんに作られた展望台って名前の広場があるってだけ。あとは、この芝生の広場の外周ぐるりと桜の木が植えられてるから、春はお花見スポットになるくらい。
ハッ……! 誰かいない? 今は夏休み期間だ。小学校一年生なんかはこの辺でよく遊んでたりするし。誰かに見られたりしてたらどうしよう……!
「車は停まってるけど、人はいないね、助かった」
同じことを考えていたらしいセナがそう言った。
「ほんと? よ、よかった」
セナと二人で胸をなでおろしていると、いつの間にか、ユウがいなくなっていた。
「こっちだよ! ユイ! セナ!」
ユウの声がした方を見て、わたしとセナは絶句した。
「これこれ!」
ゴキゲンなユウが指さしているのは、駐車場のとなりにあった、立ち入り禁止の札がかかった空き地いっぱいを占拠している、マンガに出てきそうな形の、まん丸がスカートをはいたような、ピンクの宇宙船……というかUFOが、四本脚を生やして着地している光景だった。
「う……嘘ぉ」
「UFOだ……UFOって、本当にこんな形なんだ」
力なくつぶやくわたしの横で、セナは興奮した声でそう言った。だよね、やっぱりそう思うよね。
「地球の人たちが、アタシたちみたいな異星人に期待してるのはこういう形の船だって聞いたから、このデザインにしたの! カワイイでしょ!」
えへんと胸を張ってそう言ったユウ。ユウの方がカワイイよって言いそうになっちゃった。
「よっと、もう一回隠しておくね」
そう言って、ユウが例の敬礼のようなしぐさをすると、ピンクのUFOは美術室でのユウみたいに、上から溶けるようにして、透明になった。
「おおお……光学迷彩! カッコイイ!」
セナの目が星になってる。うん、セナ、こういうゲーム好きだもんね。ロボットみたいなのが戦うやつとか、SFっていうんだっけ?
「見えない状態でも乗れるから、安心してこっちきて!」
ユウに招かれるまま近づくと、多分だけど、あのUFOの球体の真下くらいに立たされて、上から光がさしてきて、わたし達の身体がふわふわと浮き上がった。
「こういうのが、地球人が思い描く船のスタンダードなんでしょ?」
「そう……かも」
うん。これ、あれだ。牛とかがUFOに誘拐されるヤツ……!
なんて考えてるうちに、目の前に景色が真っ白になった。
もう一度見えた景色は、見事にピンク一色の、めちゃくちゃメルヘンでカワイイ部屋の中だった。
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