夢でも幻でもありません!

 一夜明けてしまうと、昨夜のユウとの出会いは夢だったのじゃないかと思えてきた。

 昨夜あの後、ユウが見えなくなってすぐにセナが来た。わたしは興奮してセナに「宇宙人と友達になっちゃった」って言っちゃったんだけど、セナは信じてくれなかったのだ。

 ベンチに座ってたわたしの前にしゃがみこんで、まるで小さな子供に言い聞かせるみたいに「変な人についてっちゃだめだよ!」だって。

 なんか詐欺にあったと思われたみたいだけど、一生懸命説明したら今度は「ボクを待ってる間に夢を見たんだよ」って言いだして。過労を心配されちゃったんだよね。

 心配してくれるのは嬉しいけど、さすがにちょっとへこんじゃったよね。

 その後は、結局思ったほど星がきれいに見えなかったから、セナが今度はもっとちゃんと計画して、セナのパパかママにお願いして展望台まで車で連れて行ってもらおうってことになって、解散になった。

 解散って言うか、心配したセナがわたしを家まで送ってきてくれたんだけどね。


 でもお風呂に入って寝たら、本当に夢だったような気がしてきて、すっかり自信がなくなっちゃった。


「はぁ」


 何だか自分が無性に情けなくて、ため息をついて、セナの家のインターホンを押した。

『はあい』

「あ、おはようございます。結です」

 すぐに帰ってきた声は、セナのママだ。わたしの声を聞くと、セナのママの声は明るくなった。

『あら~おはよう! 今セナが行くからね!』

 その声が終わるが早いか、引き戸が勢いよく開いた。

 セナの家は古民家を改築した、すごくオシャレな和風のお家で、玄関の扉も木製の引き戸なんだよね。細い木がたくさん並んで、隙間のガラスが涼し気で、カラカラという音がとても素敵。

「おはよう結、昨夜はちゃんと寝た?」

「うん、寝たよ。心配しないで」

 うう。やっぱりまだ心配されてる。

 いつもの制服姿にフリルの日傘をさしたわたしの横を、つなぎと体操着姿に真っ黒な日傘をさしたセナが並んで歩きだす。

「展望台のこと父さんにお願いしたら、明日の夜だったらいいって! 結、大丈夫? 疲れてたら、無理に付き合わせたりしないから!」

「疲れてないってば! 大丈夫! ちゃんと快眠だよ!」

「ほんとに? 心配だな~。熱中症にも気を付けて、水分きちんととるんだよ! 昨夜調べたんだけど、寝てる間に熱中症になっちゃう場合もあるみたいだから、寝る前にきちんと水分をとって、エアコンも利用して」

「大丈夫だよ! ちゃんと麦茶も飲んでるし、エアコンも使ってるから」

「お姉さんに遠慮しすぎて、気疲れ起こしたりしてない?」

「セナ~大丈夫だってば~」

 セナの心配性に火が付いちゃったみたい。去年風邪をひいたときも大変だったんだよね~。治ったって言ったのに毎日毎日のど飴と栄養ドリンクをプレゼントされたっけ。島で売ってるのど飴、買い占めちゃうんじゃないかってハラハラしたなあ。

「ねえ、突然眠っちゃうとか、部活中、すんごい眠くて我慢できないとか、そういうことある?」

「学校で眠くなることくらいなら普通にあるでしょ? セナだって、部活中時々寝てるじゃない」

「そういうんじゃなくて、ほら、我慢できないレベルっていうか」

「だから、昨夜は寝てたわけじゃないってば~」


 そんな問答をしているうちに、校門が見えてきた。

 もう、話題を変えようとしても変えさせてくれないんだから。

「あれ? 何か騒がしくない?」

「え?」

 セナに言われて前を見てみると、制服やいろんな部活の練習着の子たちがいて、わいわい騒いでいた。

 目の前を走って行った野球部の男子の声が聞こえた。

「武道館に不審者ってマジ?」

「剣道部の二年がやられたらしいぜ」

 思わずセナの方を見ると、セナもわたしの方を見ていた。

「二年って、まさか理人じゃないよね?」

 セナが困惑した表情で言った言葉を聞いて、背筋がゾっとした。

 気付けばわたしは、武道館の方に向かって走り出していた。

「待って結! 危ないかもしれないだろ!」

 セナが追いかけてきてくれているのが解る。

 武道館に入る方法は、校内から入る方法と、武道館に直接入れる裏口の二通りがある。武道館の裏口の前に、人だかりができているのが見えた。

「結、窓から見よう」

 セナがそう言って、武道館の横の方へと移動した。

 武道館の窓は大きくて、そこからも出入り可能なサイズのものがいくつかある。いつの間にかわたしを追い越したセナが走って行く、その先に大きな窓があるんだけど、そっちにも生徒たちが集まっていた。

 ようやく窓のところにたどり着いて、人ごみのすき間から覗き込もうとしたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「だから、驚かせたのはゴメンナサイって謝ってるでしょ?」


 人と人の間から、ふわりとゆれたピンクの髪が見えた。その髪を、褐色の腕と大きなグローブをした手が払った。


「ユウ?」

「え?」


 セナが耳ざとくわたしの声を聞いて、こちらを見た。

「結、知ってる子?」

「昨夜話した子だよ。あの……ほら」

 こんなに人がいるところで宇宙人とか言えないし、伝わって! って思ってると、セナはちょっと驚いたような顔をして、グイグイと前の人たちを押しのけ始めた。

「ゴメンゴメン、どいてくださーい! 関係者でーす!」

 関係者?! ……ではないと思うんだけど……なんて言う間もなく、周囲の人が戸惑いながら左右によけてくれて、わたしはセナに手を引かれて一番前に出た。

 予想通りにユウがいたけれど、見えた景色は予想外の事態だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る