午後4時21分
「あらー、やっぱり降ってまったわ。」
音の烈しさとは裏腹に、のんびりした声がわたしの気持ちを代弁した。
レジ台から顔を覗かせるおばあさんと目が合う。
「あんた、ちょっと待ってから行きない。」
おつりの小銭を渡してくれた手があたたかい。
確かに傘なぞ役に立ちそうにないし、ありがたいが、
「でもご迷惑じゃ、」
「ええの、ええの。隣もね、うちなんよ。」
そう言って指差した店の奥には扉がある。さっきの青のれん店へ続いているらしい。
「どうせこの雨じゃあ、誰も来ないやろうし。」
おばあさんが出入り口のガラス戸を閉めると、雨音がほんの少しだけ遠くなった。その代わり屋根に叩き降る、くぐもった音がより強く聞こえる。
途端に背中の汗が冷たく伝った。さすが生花店だけあって涼し…
「…へっくしょい!!」
「はよう、こっち来ない!」
奥の扉を押し開け、手招く腕は華奢なのに力強い。現役でお店を切り盛り出来る体力に尊敬の念が湧いた。ここは人生の先輩に甘えよう。きっとこれも縁なのだ。
多分じいちゃんが久しぶりにあのお酒を飲みたがっているのだろう。
そうだ、と主張するかのように雨足が一層強くなった気がする。そういうことにしよう。
タイミングが悪ければこの只中にいたと思うとゾっとする。背筋に再び悪寒が走った。
「へっっくしょ!」
「はよう!」
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