前半ターン
「それじゃあ前半はどちらをやりますか?」
「先輩が決めてもいいですよ?」
「……へぇ『透明人間』ですか」
「やっぱり真の変態は先輩の方みたいですね」
「まぁいいでしょう」
「それでは、はい」
「このアイマスク、貸してあげます」
「さぁ、着けてください」
「……着けましたね」
「まだ勝負は開始してませんよ」
「勝負を始めるその前に取り敢えず、人が入らないように部室の鍵は閉めておきますね」
「あと、一応2階ですけどカーテンと窓は閉めておきます」
「これで、ここから先、誰かが勝手にこの部室に入ってくることも覗いてくることもありません」
「またこの部室は、というよりもこの部室棟は最近建てられた最新設備」
「防音性能も完璧ですので、私が本気で叫んだとしても部室の外に音が漏れる心配もありません」
「いいですか、先輩」
「心して聞いてください」
「この日」
「この時間」
「この場所で起きた出来事は私たち2人以外に漏れる心配がありません」
「ましてや先輩はいま『透明人間』なんですから」
「特殊ルールその①」
「理解できましたか?」
「『人間』が『透明人間』の体を意図的に触ることを禁止とする」
「なら、その逆は?」
「ルール違反じゃないんですよ?」
「特殊ルールその②」
「覚えていますか?」
「『透明人間』である先輩が『人間』である私に何をしても、私は先輩を無視しないといけません」
「無視できなかった場合マイナス2ポイント」
「5分間で最大10ポイントのマイナスになります」
「特殊ルール①と合わせて考えてみてください」
「特殊ルールその③」
「どう思いましたか?」
「たった1度だけアイマスクを外すことができる」
「その意味を、よく、考えてみてください」
「……それではタイマーセット」
「1分毎にアラームが鳴るようにします」
「それじゃあ、スタート」
『ピッ』
「あーあ。先輩どっか行っちゃったなぁ」
「5分後に戻ってくるって言ってたけど、どこに行ったんだろうなぁ」
「それにしても、この部室ちょっと暑いね」
「でも、節電節電って先生たちがうるさいせいでエアコン27℃以下に設定温度下げちゃいけないみたいだし」
「先輩いないし、今だけなら服を脱い涼んでも大丈夫かな」
「部室の鍵も掛けてるし、先輩が帰ってきても服を着る時間くらいはあるよね」
「よし」
「じゃあ、脱いじゃおっと」
「よいしょっと」
「っん」
「ぅ」
「さすがに、ちょっと恥ずかしいかも」
「でも、誰もいないしいいよね」
「っ」
「んんっ」
「っふー」
「はい、それじゃあ『スキップ』で」
「タイマーを再セットっと」
「ピッ」
「いやー、新鮮だなぁ」
「全裸で部室にいるなんて」
「んんっ」
「は、恥ずかしいけど……ちょっと気持ちいいかも」
「先輩にこんな姿見られたらどうしようかなぁ……って」
「え? 『ダウト』って、先輩早すぎません?」
「せっかく雰囲気を出してたのに、台無しじゃないですか」
「はい、タイマーストップ」
「っふふ」
「それにしても、そんなに私の裸が見たかったんですか?」
「アイマスク、外してもいいですよ」
「でも、残念でした」
「いま私、先輩の見えている通りスクール水着なのでって」
「何でちょっと不満そうなんですか」
「全裸の方を想像していましたか?」
「後輩の裸を見れるって思いましたか?」
「やっぱり変態ですね」
「残念」
「スク水でした」
「え? なんでスク水なんだって」
「まぁまぁいいじゃないですか」
「それよりも」
「『ダウト』は正解です」
「しかし、よく気付きましたね」
「まぁ気付かない方がおかしいですよね」
「前半ターンはほぼノーリスクで『ダウト』できるって」
「『ダウト』が成功した場合、相手のポイントが0になる」
「『ダウト』が失敗した場合、自分のポイントが0になる」
「そう」
「0になるんです」
「ポイントが10ポイントマイナスになるとかではなく」
「0になる」
「だから、最初のポイントを持っていない時はほぼほぼノーリスクなんだって」
「『欲望に忠実なのか』それとも『私の嘘に気付いたのか』」
「正直ちょっと判断が付かないですけど」
「まぁいいでしょう」
「これで私は2分無駄にしてポイント0」
「先輩は今のところ2分とも動いていなかったので2ポイント」
「現状、先輩ちょっと有利」
「って、思ってますか?」
「いゆいや」
「いやいやいや」
「先輩」
「ちょっと考えが足りなかったみたいですねぇ」
「『ダウト』できる回数は1回だけ」
「ちゃんと覚えてましたか?」
「そして、私はあと3分間、時間が残ってるんですよ」
「それじゃあ、タイマーを再セットします」
「さぁさぁ、先輩もアイマスクを着けて『透明人間』に戻ってください」
「……着けましたね」
「それじゃあ、再開!!」
「さて、私はいま裸です」
「いやー、先輩またどこかに行っちゃったみたいですね」
「なんか勝ち誇った顔してましたけど」
「むしろ逆なんですよね」
「ちょっと状況を整理しますか」
「独り言ですが」
「『ダウト』は最初はノーリスク」
「それは確かにその通りなんですけど、早くやり過ぎると逆に『透明人間』側の首を締めることになるんですよね」
「先輩は『ダウト』が嘘を見破る唯一の手段であるということを忘れてないですかね」
「相手が明らかに嘘をついていたとしても、『ダウト』で指摘しない限り相手の主張通りにポイントが入る」
「それが今回の勝負のルールです」
「私は裸の状態でステイを3回分継続」
「これで私はノーリスクで5ポイント×3分で15ポイントを確保できることになります」
『ピッ』
「後半ターンで私も5ポイントを取ることができるので前後半合わせて私は20ポイントを獲得することが可能です」
「これを逆転するには、先輩は前半の『透明人間』のターンで確実に5ポイントを確保して後半の『人間』ターンで15ポイント取らないといけません」
「そう」
「後半で『全裸3分宣言』を絶対にやらないと引き分けにすら持ち込めない盤面まで追い詰められてしまっているんですよ」
「このパターンの場合」
「『お着替え(全裸)』『ステイ』『ステイ』『ステイ』『お着替え(制服)』で15ポイント」
「勝ちを狙うなら」
「『お着替え(全裸)』『ステイ』『ステイ』『ステイ』『ステイ』で20ポイント」
「なーんてのもありかもしれませんね」
『ピピッ』
「もっとも、後者の場合はゲーム終了時点で着替える時間がないので、私の前で全裸を晒すことになってしまいますけどね!!」
「くっくっく」
「果たして先輩はアイマスクで目隠しをしている後輩の前で3分間以上全裸になることができますかね?」
「あぁそれと……」
「追加で補足するなら無視と認識できないはイコールではありませんからね」
「仮に『透明人間』が『人間』を妨害しようとして立ち回る場合、『人間』の位置を把握して捕まえないといけません」
「『目が見えている側』と『見えていない側』」
「鬼ごっこが強いのはどちらか」
「明白ですよねぇ」
「相手のポイントは削れずに、自分のポイントは獲得できない」
「『透明人間』側の妨害ってルールでは禁止されていませんが、実際できるかと言われれば難しいんですよね」
「そう」
「だからこそ、動かずにポイントを稼いだ方が堅実です」
「ええ」
「大人しくその場にいた方が勝ちに繋がりますよ?」
「あれ」
「私はひとりで何を言っているんでしょうね」
『ピピピッ』
「はい。これで前半ターン終了です」
「先輩」
「アイマスクはもう外していいですよ」
「それじゃあ今のポイントを確認しておきますか」
「先輩は『透明人間』側で5分間動かなかったので5ポイントです」
「私は『人間』側で最初の2分間は0ポイント。後半の3分間で『全裸』だったので5ポイント×3分間で15ポイントです」
「なので前半終了時点で3対15で私が勝っている状況です」
「ふふん」
「どうしますか?」
「圧倒的な差がついちゃいましたけど」
「もう、降参してもいいんですよ?」
「え? まだ続ける?」
「……へぇ」
「まぁいいでしょう」
「まだ勝負は決まったわけじゃあないですからね」
「それじゃあ、アイマスクを返してください」
「次は私が『透明人間』で先輩が『人間』の番です」
「え? スク水のままでいいのかって?」
「うーん……」
「まぁいいでしょう」
「先輩は目の前で可愛い後輩がスク水姿でアイマスクをしているのを、頑張って無視してくださいね」
「それじゃあ私はアイマスクを着けます」
「先輩はタイマーを5分間セットしてくださいね」
「いきますよ?」
「それじゃあ後半スタートです」
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