第一話 早速、味方をゲットです
額に冷たい物が触れたことで、私は目が覚めた。
「お嬢様! お目覚めになったのですね!」
「ん……エリーゼ……?」
私の側でわっと泣き出してしまったのは、私付きのメイドであるエリーゼだった。
彼女を慰めようと身体を動かしてみるものの、あまり力が入らないし、とても痛い。
「うっ……!」
「お嬢様! お嬢様は階段から転落されて、全身に大怪我をされ、その上意識が戻らなかったのですよ! 横になっていなくては!」
……かいだんからてんらく?
自分の身に起こったことがポツポツと頭の中で繋がった瞬間、私の体から冷や汗が噴き出してきた。
「わ、私……どうして生きているの?」
エリーゼがゆっくりと瞬いた後、少し嬉しそうな微笑みをみせ、こう言った。
「お嬢様はとても運が良かったのですよ。お医者様も明日まで保つかわからないとおっしゃっていらしたのに、このようにお目覚めになられたんですもの」
エリーゼに生きている理由を尋ねたのは私だけれど、ほとんど耳に入っていなかった。
だって、あんなに可愛がってきたはずの義妹・マリアンヌが自分を階段から突き落とすなんて、夢にも思わなかったから。
……私、一体どこで間違ってしまったの……?
悲しさのあまり泣き出した私を、エリーゼは狼狽えながらも慰めてくれた。
「エリーゼ、今から私が何を言っても信じてくれるかしら?」
落ち着いてきた私は、思い切ってエリーゼに何があったかを話してみることにした。
もちろん彼女が信じてくれるかどうかは不安だし、もし継母やマリアンヌと手を組んでいたら私は最悪の場合、殺されるかもしれない。
でも、このことを一人で抱えるには重すぎるから、せめて一人でも一緒に背負ってくれる人が欲しかった。
「あのね、私が階段から落ちたのって、事故じゃないの」
「え?」
緊張で喉がカラカラになり、胃が締め付けられている感覚に陥る。
「私……マリアンヌから落とされたのよ」
エリーゼの青緑色の瞳が驚愕で見開かれる。彼女の手がカタカタと震えていることから、彼女は何も知らないのだと確信した。
……怖い。
思わずギュッと目を瞑った時、私に心地いい温もりが被さった。
「お嬢様……お一人で、よく耐えられましたね。私は永遠にお嬢様の味方ですよ」
せっかく止まった涙が、また溢れ出してくる。
それはマリアンヌにされたことに比べればほんの小さな変化だけれど、私にとってはとても大きな一歩だった。
「さぁ、お嬢様。マリアンヌ様にあんなことをされたばかりで悲しかったでしょうに、すごい勇気を出されて、さぞお疲れでしょう? もう今日はお休みください」
「ありがとう、エリーゼ。……本当に」
エリーゼは困ったような微笑みを見せて、ベットの天蓋を閉めた。
……ああ、こんなにすぐに私の味方を見つけられて、本当に良かった。
疲労とエリーゼに飲まされた薬の効果で、私はすぐに眠りについた。
父に捨てられたと思っていた公爵令嬢は、幸せな未来をまだ知らない ひよこ @hiyoko0131
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