父に捨てられたと思っていた公爵令嬢は、幸せな未来をまだ知らない
ひよこ
プロローグ
朝の優しい光が、窓から降り注いでくる。
私はゆっくりとベットから起き上がると、軽く伸びをした。
……はあ、今日もあの二人の面倒を見なければいけないのね……。
憂鬱な気持ちを振り払うために、私は部屋の隅にある簡易型の台所でお茶を淹れ、それに口をつけた。
その後、いつも通りに顔を洗い、歯を磨き、メイドのお仕着せに着替えた。朝食は主人とその家族が終わった後にしか食べられないので、ほとんどのメイド達は空腹を抱えながら朝の仕事をこなしている。
髪を結った後、私は瞼を閉じ、深呼吸した。そして、自らに変身魔術をかける。
淡い光が私の体を包み、弾けるようにして消えた。
……これでよし。
私の淡い金髪は茶髪になり、ピンクとも紫ともつかない大きな瞳はキリッとした灰色の瞳に姿を変えた。真っ白な肌も少し焼けた健康的な色へ変化し、さらには身長も、同い年の子供達より少し小さかったはずが、年頃の少女くらいの大きさになった。
……我ながら、すごい年齢詐称ね。
とりあえず、いつもの私は完成したので、自分の部屋から出て厨房に向かった。
「ああ、ユリアちゃん。今日も大変だねぇ」
「お疲れさまです、ハンスさん。大変なのはお互い様ですよ」
料理人のハンスさんがにこやかに話しかけてくる。
彼の方が朝早くから大変だろうに、私の心配をしてくれるのは素直に嬉しい。
私の名前はユリア・ベーテル。ベーテル子爵家の次女……ということになっている。
本当はこのルンテシュテット公爵家の長女である、セレスティーネ・ルンテシュテットなのだけれど。
私がこうやって自分の家でメイドとして働いているのには、継母と義妹が大きく関わっている。
私の母は身体が弱く、よく寝込んでいた。
そのため、私が五歳のとき、病気の進行で亡くなってしまった。私も幼いながら覚悟していたけれど、実際亡くなってしまうと、悲しくて涙が止まらなかった。
それなのに、父は自分の妻が亡くなったのにも関わらず葬儀に出席することはおろか、家に帰ってくることすらなかった。彼が公爵で皇帝陛下の信頼が厚く、その分仕事量が多かったこともあるのだろうが、幼い私には許しがだい出来事だった。
そして、数日後、彼は新たな妻を迎えた。
継母にはすでに私の一つ歳下の娘がいた。
きつい見た目の継母とは異なり、義妹は濃い金色のくるくるとした髪と、ぱっちりとした若葉色の瞳をもった、可愛らしい少女で、兄妹がいなかった私にとって、そのときは父が新しい妻を迎えた悲しみよりも妹ができた嬉しさのほうが勝っていた。
そして、絶対彼女を守ってみせると意気込んでいた一年後、事件は起こった。
妹だと思っていた少女は、愛らしい笑顔を浮かべながら私にこう言い放った。
「消えてくださいな、お姉様?」
そして、私を長い階段から突き落とした。
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