第11話沢田史裕の激白、華音の言葉に底知れない恐ろしい響き
「史裕さん」
柳生清は、どっしりと構え、落ち着いた声。
「はい」
沢田史裕も、少し身構えた。
「当面の間、事件が片付くまで、柳生事務所のスタッフとして、調査や操作に協力してはもらえないか」
「現職の銀行員ならではの、帳票の見方とか、細かな事でも構わないので」
柳生清は、正面から沢田史裕を見る。
沢田史裕は、断ることが困難だった。
そもそも、襲われた自分を救ってもらい、安全も確保してくれた柳生事務所に協力を拒否など、考えられない。
「わかりました、出来得る限りの協力をいたします」
東亜銀行の先輩にもなる黒田スタッフも、沢田史裕に声をかけた。
「当面は、私の隣の席に」
「一緒に、政治案件を探しましょう」
沢田史裕が「はい」と頷くと、松田スタッフ。
「全国の東亜銀行から、帳票も含めて、問題案件の資料が、届きはじめます」
「今、聞いている限りでは、与党関係もあるし、野党の幹部クラスもあるとか」
「表では反対とか対立の構図を作るけれど、裏に回れば、金の貸し借りが多い」
「それが、当座貸貸越を使って出し入れ」
「そもそも、無担保無保証の案件で」
「政治資金収支報告書には全く記載がない」
華音は、窓の外を見た。
「一般の債務者は、一日でも返済が遅れれば、かなり厳しい対応」
「延滞事実をつきつけて、信用の失墜と脅し、次の融資はしなくなる」
「ところが、政治家先生には、湯水のように金を渡し、利息も取らない」
「こんな、酷い、一般債務者を馬鹿にした話はない」
沢田史裕は、華音の言葉に深く頷いた。
そして、堰を切ったように、話し始めた。
「華音君の言う通りさ」
「あまりにも酷いと、俺も思った」
「だから、反発した」
「それを見逃して。いや、積極的に政治家の役に立って、出世した先輩も何人か知っているけれど・・・俺は嫌だった」
「だから・・・上司に反発したら・・・殺されかけた」
「俺は華音君に救われたけれど・・・」
「そのまま死んでしまった人が、悔しいだろうなとか、自殺扱いで、捜査もされず」
「悪事に協力した人だけが、出世して、いい思いをし続けるなんて・・・」
柳生隆は、冷静な顔。
「まず、問題案件の徹底調査」
「それを官邸に報告」
「あまりに酷くて官邸が怖気づいたら・・・」
「マスコミに全て発表」
柳生清は、苦笑い。
「この日本が、ひっくり返るかもしれんな」
華音は、目を閉じた。
「でも、無念に死んでいった人に、僕は報いたい」
「許せない奴は、許さない」
沢田史裕は、華音に頷く。
しかし、柳生事務所の面々は、華音の言葉、表情に、底知れない恐ろしさを感じていた。
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