第10話柳生の裏工作は、既に、始まっていた。

しばし、約10分ぐらいの沈黙の後、華音が口を開いた。

「問題は、そのような案件が、永田町支店と銀座支店だけなのか、と言うこと」

「東京に住んでいるから、つい、地方を見落としがちになるけれど」


柳生清が、深く頷いた。

「それだから、柳生の関西事務所にも声をかけたのか」

「確かに、全国規模で、類似案件の洗い出しをする必要がある」


松田スタッフ

「今、関西事務所の柳生寛さんに連絡がつきました」

「すでに新幹線に乗っているそうです」


柳生隆

「大規模な調査になるな」

「東亜銀行の全国の支店」

「不審な銀行員の死亡や障害情報」

「政界関係者との不審な関係」


沢田史裕が柳生隆に質問。

「しかし、どうやって部外者の柳生事務所が、東亜銀行を調べるのですか?」


柳生清は、ふふ、と含み笑い。

「我が柳生は、この国の有史以来、具体的には飛鳥時代から、この国を裏から動かして来た」

「内偵作業などお手の物」


首を傾げる沢田史裕に、松田明美が苦笑する。

「警視庁としては、認めづらいけれど」

「既に、銀行員を何人か、買収」

「秘密を探らせる作業に入っているの」

「柳生と関係がある人も、数百人、東亜銀行にいるしね」


沢田史裕は、それでも、首を傾げる。

「その買収が、ばれたら?」

「下手な動きをすれば、その人も危ない」


その沢田史裕の言葉の直後だった。

会議室の奥の壁に、スクリーンが降りて来た。

スクリーンには、銀座支店の問題案件の融資ファイルの稟議書。

祓い出しの金額、渡した相手を書いたメモが映っている。


「いったい・・・これをどうして?」

沢田史裕の顔が、赤くなり、蒼くなった。


柳生清は、少し声を落とした。

「言ってもいいかな」

「支店長と、融資部長を買収した」

「脅しをかけて、二人の確かな不倫情報をチラつかせて」


沢田史裕は、驚いて声も出ない。


柳生隆

「簡単なことさ、柳生事務所には、様々な情報源があって」

「東亜銀行の支店長とか部長のゴシップなんてすぐに買い取れる」

「裏切れば、即失脚だから、裏切られるリスクも少ない」


黙っていた華音が口を開いた。

「とにかく調査は迅速に」

「東亜銀行の中にも、柳生は多くいる」

「彼らも使いますよね」


黒田スタッフが、頷く。

「そもそも、私は、元東亜銀行」

「柳生関係者も、全国で・・・数百人」

「電子帳票を管理している人も多いから」


沢田史裕は、驚くばかり。

柳生清は、その沢田史裕に、何か言いたいことがある様子。

じっと、沢田史裕を見つめている。

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