第7話20階の会議室にて(2)

黒田スタッフは、そこまで話をして、一旦席に座った。


次に、黒田スタッフの隣に座っていた女性が、立った。


「柳生事務所の松田と申します、主に政治家情報など、政界関係を調べております、それから警視庁の松田明美の姉でもあります」


沢田家全員が頷くと、話を始めた。


「先ほどの黒田スタッフの話に続きますが、こちらの調査では、東亜銀行銀座支店と永田町支店の自殺者は、ほとんどがビルからの飛び降り、あるいは電車への飛び込み」

「しかし遺書は、何もないとのこと、ご家族への聞き込みを、柳生事務所としていたしました」

「ですから、本当に自殺かどうかが、疑われるのです」

「他殺ではないか、と疑う、そんな証拠を持つご遺族もおられましたけれど」

「しかし、警視庁では、警察では、自殺以外を、何故か、絶対に認めない」

「マスコミに言っても、東亜銀行の永田町支店と銀座支店と言うだけで、全く取り上げてくれなかったとのこと」


松田明美も立ち上がった。

「はい、私も警視庁におりますので、気になって聞きに行ったこと、調べようといたしましたけれど」

「とにかく、これ以上は捜査をするな、との上司の一点張り」

「ということは、かなりの上層部から、その旨の指示が出ている、と考えるべき」

「残念なのは、私も官僚組織の一員、上司には逆らい辛い、そんな問題がありまして」


柳生隆も立ちあがった。

「おそらく、それだけの圧力をかけられるのは、政権与党の超大物」

「政財界、マスコミにも、かなりな圧力をかけられる人」

「その超大物に関する、よからぬデータ、不正なデータを、銀座支店、永田町支店の融資担当、為替担当は、知りうる立場にあった」


この柳生隆の言葉で、沢田史裕の身体が大きく揺れた。

額からは汗、真っ青な顔、倒れそうな様子になった。


しかし、柳生隆は、構わず続けた。

「その、よからぬデータ、よからぬ要望もあったかもしれない、それを黙認したか、手伝った担当者は、突然の出世、昇格」

「反発した人は・・・自殺に見せかけて・・・消された、殺された、と言うのが、我々の見立て、分析になります」

「つまり、騒ぎを大きくする前に殺してしまう、もちろん、その筋のプロを使って」

「それを自殺として、捜査もしない」

「そして、調書には、自殺とのみ記載、明らかに他殺であったとしても」


この話の時点で、父の沢田康夫、母の沢田悦子の表情には、怒りと怖れが同居するような、難しい顔。

妹の沢田文美は、顔をおおって泣き出した。


柳生清が、真っ青になって震える沢田史裕を強く見つめた。

「史裕さんは、偶然、命を助けることが出来たけれど」

「これ以上、痛ましい、犠牲者を出したくないのです」

「言い辛いこともあるでしょうが、我々にご協力いただきたいのです」


沢田文美が、震える兄史裕の手を握った。

「柳生さんの言う通りだよ」

「兄さんも、このままで気が済むの?殺されかけたんだよ?」

「たった二人の兄と妹なんだよ?」

「悪い奴は、しっかり退治してもらって、安心して家に帰ろうよ」


父の康夫、母の悦子も、同じ気持ちのようだ。

康夫

「全てを話しなさい」

悦子

「大丈夫、史裕、華音君もいる、心配はいらない」


華音が、史裕に声を掛けた。

「こんな大きな部屋では、話しづらいでしょう」

「別室で、少人数でお聞きします」


史裕は華音の顔を見て、しっかりと頷いている。


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