第6話20階の会議室にて(1)
沢田家へのマッサージが終わった約10分後、午前9時50分に、華音は沢田家が宿泊する各部屋のドアをノックする。
「そろそろ、打ち合わせ会議の時間です、ご準備をお願いいたします」
沢田家の面々も、十分に心得ていたようで、すぐに部屋から出て来た。
沢田康夫
「いや、申し訳ない、華音君がお迎えなんて」
沢田悦子
「ありがたいことで、マッサージも上手で、疲れがすっかり取れました」
沢田文美
「打ち合わせって、どんな感じなのかな、少し不安」
沢田史裕は、少し厳しい顔。
「銀行員の守秘義務もあるけれど」
「どこまで、話していいのやら」
華音は笑顔のまま、全員をエレベーターに誘導する。
「全ては20階の会議室で、説明をします」
エレベーターが20階で停まると、松田明美が待っていた。
そして沢田史裕に、警察手帳を見せる。
「警視庁の松田明美です」
「銀行員の守秘義務もありますが、捜査には、全面協力をお願いいたします」
沢田史裕は驚いている暇はなかった。
そのまま、柳生隆が姿を見せ、会議室に誘導された。
会議室は、約20人ほどの席がある、立派な部屋。
前方中央に、大きなモニタースクリーンがあり、その下に柳生清が座っている。
また、柳生事務所のスタッフだろうか、両サイドに10人くらい、既に座っていた。
柳生清が、華音と沢田家の着席を確認して、話を始めた。
「本日の会議は、沢田史裕様襲撃事件と、その背景、原因」
「官邸からは、どんなに大物が潜んでいようと、手加減はいらない、と厳命されている」
「だから、一切手加減はしない」
「しかし、それほどのことを言うのだから、また、刃物を使って、史裕さんに襲撃をかけたのだから、それほどの危険な相手、とも言える」
「十分な注意も、それ故、必要となる」
柳生清の話が終わると、右サイドにいた、女性スタッフが立ち上がった。
「柳生事務所の黒田と申します、主に金融法務、税務の担当です」と、まずは沢田家に頭を下げ、そのままタブレットを操作。
中央の大きなモニタースクリーンに東亜銀行本店が映った。
「まず、史裕さんが、勤務されていた東亜銀行です」
「ご存知の通り、日本のトップバンクです」
「そして、政財界とも、当然のように、関係が深い」
沢田史裕が頷くと、黒田スタッフは続けた。
「そして、その東亜銀行の中でも、永田町支店と銀座支店は、特に政財界と関係が深い」
「つまり、政財界における、様々な資金の流れを、あるいは資金の蓄積、融資の流れ、歴史を把握している支店とも言えるのです」
この話で、沢田史裕の表情が変わって来た。
じっと、黒田スタッフの表情を見るようになっている。
黒田スタッフは、続けた。
「この二つの支店で、気がかりなことがあります」
「特に、融資担当と、為替担当なのですが」
沢田史裕の表情が、かなり変わった。
青くなっているような感じになった。
黒田スタッフの声が会議場に響いた。
「突然に、出世する人が多い反面」
「自殺者も多く、20人以上・・・本当に自殺かどうかは不明で・・・」
「史裕さんのように、不可解な襲撃を受ける人も、多数・・・」
「わかっただけで、10人を超えております」
「どういうわけか、マスコミ報道は、全くない」
沢田史裕の顔は、この時点で、真っ青。
父の沢田康夫、母の悦子、妹の文美も心配そうに、史裕を見つめている。
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