第4話沢田家は、柳生ビルに

柳生事務所の車の中では、しばらく全員が無言だった。


首都高速に乗ってから、ようやく沢田康夫が口を開いた。

「それにしても、華音君たちの不思議な・・・青い光が・・・史裕を」


沢田悦子は、泣きながら華音の手を握る。

「もう、史裕はダメかと思っておりましたのに、命を救っていただいて」

「もう、神様とか、仏様のようで・・・」


華音は、やさしく沢田悦子の背中をなでる。

「とにかく、助かってよかった」

「史裕さんに、死んで欲しくない、生き返って欲しい、その気持ちが、神様とか仏様に通じたのでしょう」


沢田文美は、母悦子を押しのけて、華音に抱きついて泣く。

「華音君、本当に・・・言葉が出ないよ」


華音が赤い顔になって困っていると、柳生事務所の車に無線連絡。


「こちら、柳生ビルです」

「沢田様のご一家の宿泊準備が整っております」

「お父様とお母様は、ツインルーム」

「史裕様と文美様は、別々のシングルでよろしいでしょうか」


沢田家全員が「はい、それで」、と答えたのを確認して、「了解しました」との返事。


次に、車内の大きなモニターに沢田家の住宅内部が映る。

その画面の中に、柳生事務所のジャンパーを着た男女が映っている。

「柳生事務所の橋本と、小島と申します」

「お持ち忘れがあれば、おっしゃってください」

「後ほど、柳生ビルの宿泊部屋にお届けします」

「何しろ、慌ただしい出発でしたので」


沢田康夫は、ほっとした顔。

「本当に、何から何まで、気を遣っていただいて」

沢田悦子が、少し考えていると、シルビアがタブレットをさっと渡す。

「思いつくままに、タブレットに書いてください」

「それにより、お届けします」


沢田悦子が、安心したように、少し書き出すと、モニターの中の小島スタッフが話しかける。

「しばらくの間、柳生事務所で、沢田様のお宅を警備いたします」

「また、これが欲しい、などご希望があれば、お持ちしますので、今はあせらずに」


そんな話をしていると、柳生事務所の車は、無事に永田町の柳生ビルの地下駐車場に到着。

沢田家は、柳生事務所長柳生清の出迎えを受けて、当面の宿泊部屋に案内された。


柳生清

「急なことで驚かれているとは思いますが」

「完全警護をいたします、ご安心ください」

「なお、それぞれ、別の部屋になってはおりますが、続きの部屋ですので、ご心配なく」


沢田康夫が沢田家を代表して頭を下げると、宿泊施設係らしい、若い女性が挨拶。

「柳生ビルの宿泊担当の柳生結衣と申します」

「今の時刻は午前3時、とにかく、お休みください」

「なお、ご朝食は、午前8時過ぎを予定しております」

「こちらから、ご案内いたしますので、ご安心ください」


柳生隆も、連絡事項を述べる。

「沢田史裕さんのお勤め先の銀行には、こちらから連絡をします」

「決して、ご本人が連絡なさらぬように」

「下手に連絡をすると、また狙われる危険が生じます」


「お父様の康夫様と、お母様の悦子様も、連絡する必要があれば、こちらで責任を持って対応いたします」


沢田康夫が、また頭を下げた。

「私たちは年金暮らしなので、特にありません」

「強いて言えば、通っている病院くらい」


柳生清が大きく頷いた。

「ご心配は不要です」

「この柳生ビルには、日本でもトップクラスの技術を持つ病院が設置してあります」

「もし、治療が必要であれば・・・いや・・・一度、人間ドックですべて・・・」


沢田康夫は、本当に驚いたような顔。

そして、柳生清に深く頭を下げている。

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