第2話事件発生と癒し治療
その情報は、華音の高校の先輩、沢田文美から、もたらされた。
いや、情報と言うより、華音のスマホへの悲痛な「声」だった。
「華音君、助けて!」
華音が時計を見ると、深夜、午前2時。
この時刻だけでも、普通では考えられないと、判断した。
寝ていた華音の表情は、たちまち引き締まった。
「沢田さん!何があったんですか?」
沢田文美の声は震えた。
「私の兄さんが!史裕兄さんが・・・背中を刺されて・・・」
華音は、声を低くする。
「それで、今はどこに?」
沢田文美は涙声。
「玄関の前で刺されたみたい・・・玄関に入ったら倒れた」
「10分くらい前」
華音
「救急車は?」
沢田文美
「呼んでいるんだけど・・・来なくて・・・時間がかかるって言われて」
「出血を止めるのが精一杯で」
華音は、気持ちを固めた。
「わかりました、今から行きます!」
「千歳烏山ですよね」
沢田文美
「うん、玄関の前に立ってる!」
華音が素早く着替えて廊下に出ると、シルビアと春香、エレーナも着替えて待っている。
シルビア
「聞き取った!」
「瞳ちゃんにも連絡したよ」
春香
「柳生の隆さんが動いてくれた」
「もう、瞳ちゃんは柳生事務所の車に乗っている」
エレーナ
「とにかく急ごう!」
全員が、柳生事務所の車に乗り込むと、確かに雨宮瞳が座っている。
華音
「沢田先輩のお兄さんは、東亜銀行の銀行員だったよね」
雨宮瞳は顔が蒼い。
「うん、銀座支店の融資担当とか」
運転手は柳生事務所の柳生隆だった。
運転しながら、「状況」を語る。
「今、柳生事務所で、その銀行を調べている」
「今までにわかった情報では、まず日本のトップバンクであり、政財界と関係の深い銀行」
「銀座支店は、永田町支店と並び、出世する行員、つまり将来見込みがある行員が配置されるのだけど・・」
ただ、柳生隆の「状況調査報告」は、そこまでで終わった。
何しろ、華音の久我山の屋敷と沢田文美の千歳烏山の家は、夜間に車で移動すれば目と鼻の先、ものの5分とかからない。
雨宮瞳が声を上げた。
「沢田先輩があそこに」
柳生事務所の車は、そのまま、沢田文美の家に横付け。
華音を先頭に全員がおりた。
沢田文美は涙顔。
「ありがとう、こんな深夜に」
華音は、沢田文美を、手で制した。
「まずは負傷者を」
沢田文美は涙顔で頷き、全員を家に入れ、兄が横たわる部屋に案内した。
部屋に入ると、背中を刺された兄、史裕が、うつ伏せで寝かされている。
畳にも血が流れていることから、すでにかなりの出血が確認できる。
その兄に寄り添い、呆然と座っていた両親に、沢田文美が紹介する。
「この人が華音君、とにかく特別な治療ができる人と、そのお仲間」
華音たちにも、両親を紹介。
「父の康夫と母の悦子です」
康夫と悦子が、驚いたような顔で、華音たちを見るけれど、華音は少し頭を下げただけ。
その目は、倒れている沢田文美の兄、史裕を見ている。
「おそらく、治る、いや、治す」
華音は、シルビア、春香、エレーナに目配せ。
低めの声で、倒れている文美の兄史裕の背中に、両手をかざし、薬師如来の真言を唱え始めた。
その華音の動きと真言に、全く違うことなく、シルビア、春香、エレーナがならう。
「オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ、オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ・・・・」
「オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ、オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ・・・・」
「オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ、オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ・・・・」
雨宮瞳が、沢田文美の左手を握った。
沢田文美は、右手で母悦子の手を、悦子は自然に夫の康夫の手を握った。
雨宮瞳
「沢田先輩、わかります?」
沢田文美は頷く。
「うん、兄さんの背中に、不思議な青い光」
「華音君たちの手のひらから」
雨宮瞳の目が強く光った。
「華音君たちを信じて」
「もう・・・大丈夫かな」
雨宮瞳の言葉のすぐ後だった。
倒れていた兄史裕が、声を出した。
「あれ・・・どうして?」
そのままむくっと起き上がり、身体を左右に動かしたり、手を伸ばしたりする。
華音は、その兄史裕に声を掛けた。
「背中は痛みます?」
兄史裕は、首を横に振る。
「いや・・・全然、前より軽くなった」
「ところで、あなたたちは?」
沢田文美は、緊張が解けたのか、兄史裕に抱き着いて泣き出している。
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