第2話「ヤンキー少女はバナナオーレのために、ショルダータックルを繰り返す」

「ひっ!!」


 ヤンキー少女の鋭い眼光に、風月は思わず怯む。

 さっきまで、青々と晴れていたはずの空が、急に曇り出し、空は一気に灰色へと変わる。

 風月の今の気持ちは、蛇に睨まれたカエル。鷹に睨まれた蛇。人間に銃口を向けられた鷹のような気持ちだ。

 青いスカジャンのヤンキー少女は、ギロっとした目で風月を見つめる。


「なにジロジロ見てんだ、てめー?」


 ヤンキー少女は金髪にスカジャン、ロングスカートと、いかにもなヤンキーファッションを身に纏っていたが、その顔は、色白く、可愛らしい顔だった。

 風月はそんなヤンキー少女の可愛らしい顔を見て、つい頬を赤らめてしまう。


 え?なにこの、ヤンキー!?か、カワイイ!お人形さんみたい!やっていることは、ゴリラだけど!行動はゴリラだけど!!


 そう思いながら、風月は両腕を天に向け、自分は無抵抗だとアピールする。

 ……このヤンキー少女。ヤンキーファッションで自販機にタックルしなければ、間違いなく、ただの美少女だったに違いない……。

 だが、ヤンキー少女は自らの可愛らしい顔を台無しにするかのように、眉間にしわを寄せ、目を細め、ドスの効いた大きな声を放つ。


「オイ、テメー!コラ!!聞こえねぇーのか!?さっきから、なにジロジロ、あたいの顔を見てんだ、コラ!?てめー、どこのどの眼鏡だ!?」


 ヤンキー少女に、眼鏡と呼ばれた風月は再び怯えた。


「ひぃいい!!わ、わたしは、と、通りすがりの眼鏡です!!ど、どうか!い、命だけは!!命だけは奪わないで下さい!!」


 風月は自分でも「通りすがりの眼鏡ってなんだよ……」と思ったが、ヤンキー少女が怖かったんで、とにかく命乞いをする。


「通りすがりの眼鏡が、あたいに何の用だ!!?」


 ヤンキー少女は眼光鋭く、風月に圧を加える。

 風月はブルブル震えながら、唇を動かす。


「え、えっと……。な、なんで、自動販売機にショルダータックルをしているのかが気になりまして……」

「ああん!?」

「ひぃいい!!!」


 ヤンキー少女は風月を威嚇しつつ、先程から、何度もショルダータックルしている自動販売機に右手親指をさした。


「……あたいがバナナオーレを買おうとしているのに、この自販機、何度、金を入れても金が出て来るんだよ!これじゃあ、バナナオーレ飲めねーじゃねぇかよ!!くそ!ふざけんな!!」

「は、はぁ……」


 ヤンキー少女の話を聞いて、少しだけ、恐怖心が薄れた風月。疲れたので、両腕を下げる。

 どうやら、自販機にお金を入れたが返却され、またお金を入れても返却され、そして、またお金を入れても返却され……それを何度も繰り返し、未だにバナナオーレが買えないので、ヤンキー少女の怒りは沸点に達し、自販機にショルダータックルをし始めたということらしい……。


 バナナオーレ欲しさに荒れるヤンキー……。

 顔以外は、本当にゴリラだ……。


 風月はそう思った。

 ヤンキー少女は風月に背を向け、自販機を睨みつける。


「……あたいは、バナナオーレが飲みたいだけだ……。なのに、なんでバナナオーレを出さないんだよ!!このクソ自販機!!機械のくせに、人間様をなめるんじゃねーぞ、コラ!!!」


 ヤンキー少女は、また自動販売機にショルダータックルをした。


「ひぃいい!!」


 またもや、ショルダータックルをし始めたヤンキー少女に怯える風月。

 ヤバイ!いろんな意味で、このヤンキー少女、ヤバイ!!

 風月は、今すぐにでもこの場から立ち去りたかった。


 ……しかし。ヤバイと思っていながらも、一つの疑問が風月の頭の中に浮かぶ。


 このヤンキー少女は、自販機にお金を入れたと言っていた。

 当たり前だが、自販機にお金を入れて、ボタンを押せばジュースは出てくるはず。

 金額が足りなかったのか?確か、この自販機のバナナオーレは100円だ。

 いくらゴリラであっても、ちゃんと金額通り、自販機にお金を入れたはず。

 いや、でも、もしかしたら、このヤンキー少女……頭がアレなので、金額が足りないことに気づいていないのでは?


 ……と、風月は思った。

 それに、いくら機械とはいえ、何度もタックルされている自販機が可哀想だ。


 ゴクリッ!


 風月は唾を飲み込み、勇気を振り絞る。

 そして、ヤンキー少女に向かって叫んだ。


「ちょっと、もう、やめて下さい!!自販機、壊れちゃいますよ!!」

「ああん!!なんだ、てめー!?眼鏡、コラァ!!」

「ひっ!!」


 ヤンキー少女は鋭い眼光で、またもや風月を睨む。

 怯んだ風月だったが、さすがにこれ以上、ショルダータックルを受け続ける自販機を見捨てることはできなかった。

 

「あ、あの!あなた、ちゃんと自販機に100円を入れたんですか!?間違って、50円玉とか入れてませんか!?」


 風月は勇気を振り絞り、声を震わせながら、そう言うと……。


「ああん!?てめー、あたいのこと、バカにしてんのか!?あたいは、ちゃんと1円玉を100枚、自販機に入れたぞ!!」


 ヤンキー少女は大きな声でそう答えた。

 風月はそれを聞いた瞬間……脳の活動が停止した。


※当たり前ですが、自動販売機に『1円玉』と『5円玉』を入れても排出されます。

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