381 「女学校のクリスマス」

 今年のクリスマスは平日。二学期の終業式も平日。だから、終業式の後の学園を挙げてのクリスマス・イブは、内輪中心で賑わっている。


「今年もあと1週間かあ」


「お嬢、何当たり前の事言ってるの」


「そうですが、一年何事もなくて良かったですね」


「あと1週間あるけどねー」


 鳳学園高等女学校のクリスマスの景色を見つつ、女子の側近達とのんびりトーク中。周りにはお芳ちゃんとみっちゃん以外に、他の女子4人も買い食いしたものを食べたりと、それぞれのんびり過ごしている。全員、サンタ帽を標準装備させてある。

 大学内なので護衛は不要だから、シズは自由行動中。リズは、クリスマス時期は休暇を取るのでここにはいない。


 それ以外だと、マイさんはお相手の涼太さんが普通に仕事中なので寂しい状態だけど、今は鳳大学の妹のサラさんの方に行っている。

 ただ、遊びに行ったわけじゃなくて、大学のイベントに駆り出されていた。何しろあの見た目で、鳳グループの広告もしていた。しかも元大学のマドンナだから、婚約程度で逃してもらえない。現マドンナのサラさんと、姉妹共々忙しくしている筈だ。

 中学の方にいる男子達には、今日は私が帰るまでは自由行動を言ってある。

 そして私の周りの大人達は、今日は平日だからお仕事中。



「今後の予定は?」


「マイさん達が、大学生どもから解放されるのを待って帰宅。鳳の本邸でクリスマス・イブの夕食会でしょ」


「まあ、そうだけど。それじゃあ、来年以後の予定は?」


「今ここで聞く?」


「1年が過ぎるのを名残惜しそうにしていたからね」


 どうやら私は、賑やかな景色を前に寂しげにしていたらしい。

 そこまでのつもりは無かったけど、みっちゃんや他の側近達もお芳ちゃんの言葉が気になったようで、私に注目している。


「私はこのまま、女学校を普通に卒業予定よ。けど、大学へ進みたいなら、みんなは進んでちょうだいね。尽くしてもらう以上、出来る限りはするから」


「お嬢は大学行かないんだよね」


「理系はともかく、未習得の語学以外で私に何かを教えられる先生が大学にいるとも思えないしね」


「それはそうだろうけど。いいの?」


「紅龍先生とセバスチャンと話して、トリアからも手紙でもらったけど、私のココにだけ入っている事を論文にして、色んなところに送りつける予定」


 言いつつ、頭をコンコンと人差し指で軽く叩く。それくらい気軽に返しただけなのに、ジト目で見返された。


「……博士号、幾つ取るつもり?」


「私的には、夢の景色を思い出しながら書き出すだけの作業よ。けど、無意識でも何か新しい考えや概念とかが飛び出すだろうから、書けるだけ書けって勧められてる。別に、したい事じゃないんだけどね」


「あっそ。じゃあ書いたら、一番に見せてね」


「むしろ見て添削して。海外送るときも、セバスチャンとかに翻訳や翻訳確認させるわけにもいかないし、二人もよろしくね」


 「はい」「分かりました」。お芳ちゃん以外の頭脳担当の子達が、興味津々で返事を返す。

 なお、私が女学校を出たら婚約するから、大学の予科に当たる高校に進学しないのは全員知っている。お芳ちゃんは、何をするのかに興味があったんだろう。

 そして私も、みんながどうするのかは興味がある。


「それで、逆に聞くけどみんなはどうするの?」


 聞けば、護衛組は勉強より鍛錬がしたいという。お芳ちゃん以外はもう15歳だから、既に鳳の施設で大人と同じ訓練をするようになっているけど、学校に行かないで済むなら、1日中費やせるとの事。

 大学進学希望は、頭脳組の二人。私としても、私とお芳ちゃんをカバーできる分野の学問は修めて欲しい。


「それでお芳ちゃんは? 帝大行きたいなら、諸々手配するけど」


「帝大かあ。あんまり良い印象ないから、いいよ」


「けど、なんだかんだ言って、日本の最高学府よ」


「同じ帝大なら、京大か東北大の方が面白そうだけどね」


「帝大は、中央官僚育成の専門学校の面が強いからね。私としては、広い視野と全般にわたる知識ってのを身につけてくれるなら、どこに行ってくれてもいいわよ。あっ、けど、遠くは御免なさいね」


「分かってる。それにハーバードの事は、セバスチャンさんから色々聞いたり、勉強も見てもらっているから」


「エドワードは? トリアの代わりになってる?」


「どうだろ。エドワードさん、すごく優秀だけど、やれば何でも出来てしまうから、細々覚えるのと教えるのは苦手みたいだよ」


「あー、なんか分かる。天才も良し悪しね。じゃあ、セバスチャンが亡命させたユダヤの学者さん達は?」


「そっちの方が色々勉強になるかな。ドイツの事、ヨーロッパの事も色々聞けるし」


「そっか。鳳大学に何人も来たもんね。今度私も教えてもらおうっと」


「うん。それはお勧め」


「それは来年からね。じゃあ、休憩終わり。お祭りに戻りましょうか。みんな、好きに回って来ていいわよ」


 そう声をかけると、それぞれが話し合って動き始める。学内で大名行列する気はないのと、自主性も育って欲しいから、普段から自由時間は私の周りにいないように言ってある。今までいたのは、一応今日のミーティーングの延長だったから。そうしてお芳ちゃん達は、1人か2人に別れていく。残るのは、今日の学内での護衛担当だけ。


「じゃあ、みっちゃん行こうか」



 そうしてしばらく、学園祭のような女学校のクリスマスの出し物や屋台を回る。普通のものが気軽に食べられるのも、このイベントでの私的な楽しみの一つだ。

 お菓子系が多く、鳳の本邸近くでしているクリスマス・マーケットの屋台のものも持って来させるようにしたので、ヨーロッパの色々なクリスマス・スイーツを楽しむ事もできる。

 女学生の屋台や調理室を利用した食べ物もあり、私の目当てはむしろこっち。一声かけて、次々にゲットしていく。


「ご機嫌よう、玲子様」


「ご、ご機嫌よう、姫乃さん」


 私が両手を戦果で塞がれ、手に入れたばかりのどんどん焼きを頬張っている時、姫乃ちゃんが声をかけてきた。級長の腕章を付けているから、見回りだ。

 ちょっと格好悪いけど、今日はハレの日と開き直って、いつも通り応対する。


「お役目ご苦労様。お祭りなのに、級長も大変ね」


「こういう時くらいしか、お役に立てませんから」


 11月に鳳の本邸に呼んで以来、姫乃ちゃんの方から少し話しかけてくるようになった。私の方も、意識する必要性が低くなったのもあって、気軽に応対している。

 他愛のない女学生同士の会話とまではまだいかないけど、他の学友と話す機会は殆どないから、側近達以外で一番話す相手になっている。


「姫乃さんは、楽しまれないの?」


「今は羽目を外しすぎた者がいないかの見回りですが、もう少ししたら交代予定です。玲子様は?」


「もう少し回ったら、屋敷に戻る予定です。明日は鳳の慈善事業、寄付している教会などを回るので、今年の女学校はこれで見納めですね」


「そう、ですか」


 少ししょんぼり気味な姫乃ちゃん。

 これが学園もののお話なら、後で一緒に回りましょうなどと、どちらかが声をかけるところだろう。けど、私には最低でも1人、常に護衛かメイドが付いて回るし、二人っきりで楽しむとかのイベントはまず出来ない。


(ゲームでも常にメイドがいるから、二人っきりになるのが難しかったのよね)


「ごめんなさいね。この後と明日は、皆さんで楽しんで下さいね」


「そんな、お気になさらず!」


 思いの外、強い言葉。そしてこの子の強めの感情は、どうしても気になってしまう。


(けど私、姫乃ちゃんには普通にしか接してないから、好かれているわけじゃないよね。とはいえ、アカになられたら面倒だし、私の破滅に関わるかもだし、……フォローしとくか)


「あ、そうだ、姫乃さん。この2学期も優秀な成績、おめでとうございます。今度のお茶会、年が明けて少し落ち着いたら、またしましょうね」


「ハイッ! 有難うございます。楽しみにしています!」


 叫ぶように言って、頭を90度下げる。

 ちょっと大げさすぎるけど、ゲームでもこんな感じだから懐かしさが心をよぎる。

 もっとも、ゲームと同じか凄く似ているのは、彼女以外の多くの人も同じだ。私のように別の誰かがインストールされていて、全く違う人格や行動をしたりはしない。

 そこまで考えて、ふと疑問に思った。


(私が『闇の巫女』で姫乃ちゃんが『光の巫女』だとして、どうやって分かったの? 私は『夢』で予言とか予知をして巫女認定されたわけだけど、私の体の主が2周目、3周目で同じ事をした感じでもない。今度、体の主に聞くことが出来たらなあ)


 せっかくのクリスマスなのに、思うのはそんな事だった。



__________________


博士号:

日本は課程博士(甲博士)と論文博士(乙博士)との二種類がある。

普通は大学院に行かないと取れない。



どんどん焼き:

大正時代から昭和10年代にかけて、東京を中心に流行した軽食。

お好み焼きから派生した食べ物。戦後は廃れたが、東北など一部で残っている。

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