093 「9歳の誕生日(2)」

 昼間というか一応平日の放課後の誕生日会は、夕方まで賑やかに過ごした。

 そして通常ならこれで終わりだけど、一度食事会もしたいという事でそのまま夕食までみんなで食べた。だから昼間のケーキとかお菓子も控え気味で、夕食後に二次会と言う事になっている。

 私は子供同士の食事は学校での給食だけなので、とても楽しく過ごせた。要するにこの夕食会は、誕生日のわがままで通してもらった催しでもある。

 ケーキなどは食後にすればという声もあるだろうけど、子供なので夜遅くまで騒ぐわけにはいかない。実際勝次郎くん、龍一くん、瑤子ちゃんはそれぞれ付き人と一緒に帰って行った。


 しかしここで私は、さらに我儘を通していた。

 私の側近候補の子供達を、今夜は鳳の本邸に泊める事にしていたのだ。

 本当は勝次郎くん以外をと思っていたけど、玄太郎くん、虎士郎くんが欠席なのと、勝次郎くんへの遠慮から龍一くん、瑤子ちゃんは幸子叔母さんの気遣いもあり辞退となった。

 それでも普段一夜を過ごさない子達と一緒に寝られるので、私のテンションは上がりまくりだ。


 なお、学校の他の生徒に対してさらなる依怙贔屓になるけど、私の側近候補なのは学園中の周知だし、鳳に文句を言う生徒や大人がいるはずもない。

 勿論だけど、ハブったりイジメたりするバカもいない。と言うか、この3人にそれが出来る生徒がいるとは思えない。

 そして今日は私の誕生日なので、私の望むようにしてもらっていた。



「やっぱり輝男くん、似合うわねー!」


「……悪趣味」


「違います、芳子ちゃん。歌舞伎でも女方があるから、むしろ普通ですよ!」


「……満足、していただけましたか?」


「うーん、じゃあちょっとポーズとってみよっかー!」


 私が輝男くんを磨き上げたら、お芳ちゃんには不評のようだけど、みっちゃんは目をキラキラさせている。

 美少年な輝男くんに女子用のネグリジェを着せて髪を整え、私も使う子供用の化粧を軽く施すと、あっという間に美少女、いや「男の娘」の出来上がりだ。

 着替えなどはシズなどメイドにされる私だが、前世の記憶と技術を使えば着替えは勿論化粧も一人で出来る。30代になって、どれほど苦労させられたことか。久々にその技を使ったのだけど、十分現役だった。

 思わず両手をファインダーに見立てて覗き込んでしまうほどの出来栄えに、私の前世の魂が歓喜で震えてしまいそうだ。

 ゲームをしている時から思っていたけど、子供の頃だともう限界突破なくらいに似合っている。


「どういう風にすれば?」


「こんな感じで、表情には恥じらいを少し載せて! あ、視線はこっちね」


「こう、ですか?」


「うん、イイっ! 最高! カメラ欲しい!!」


「ハイッ! 出来れば動く方も!」


「記録に残すのはやめて差し上げろ。お婿に行けなくなるぞ」


「行かないので、構いません。それにお嬢様のこんなに嬉しそうな顔は初めてなので、お役に立てて僕も嬉しいですし」


「いや、お嬢を堕落させているぞ、輝男」


「……そうなんですか? じゃあ止めます」


 輝男くんは言うが早いか、バッとネグリジェを脱ぎ捨ててほぼマッパになる。


「「えーっ!」」


 うん。お芳ちゃん以外はいつものノリである。

 それにマッパはマッパで、私にはご褒美だ。


 なお、こうなったのは、私の希望で女子3人を同じ部屋という事にしたが、輝男くんが一人なのは寂しかろうと部屋に招き入れ、私が悪乗りした結果だ。

 そして女子ではなく子供だけのパジャマパーティーなので、ついつい羽目を外して無邪気に話したり騒いでしまう。まだ抱きついたり戯れあっても許される年だし、むしろ普通だと私は思うのでかなりみんなに甘えかかっていた。

 しかも輝男くんは基本私には無抵抗なので、ついつい度が過ぎてしまいそうになる。




「で、多少は気は晴れた?」


 遊び疲れて二人が先に寝てしまったあと、暗がりでベッドで横並びになりながら、お芳ちゃんが静かに私に問いかけてきた。

 そちらに目線だけ向けると、わずかな明かりでもアルビノなお芳ちゃんの髪や肌が浮かんで見えて少し幻想的だ。


「多少どころか、エネルギー充填100%」


「そりゃあ何より。でも、鳳の他の子供にはしないの?」


「してるよ。今しかできないだろうからねー」


「十年後にしてたら、心の病気だね。で、そんなに大変だった?」


「あー、どうだろ。収穫はあった。けど、ど偉い人達に連続して会って話したから、気疲れが半端ない」


「一応、手短に聞かせて」


「はーい」


 そう言って超ダイジェストで春の弾丸ツアーについて話す。多分だが、来年くらいからはこうした事が本格化するだろうが、ベッドで話すのはこれが最初で最後だろう。



「フーン」


「えっ、それだけ?」


「終わった事にコメントのしようがないし、まだ関われない私に言える事はないって。それに聞いても、調べる手段が新聞と学園の本くらいだから限界があり過ぎる」


「そっかー。ずっと先の時代なら情報入手も楽になるから、お芳ちゃんは天才美少女って持て囃されてただろうにねー」


 何気なく、そんな事を口走ってしまう。

 けど、心底そう思った。ネット社会、グローバル社会になれば、そしてアメリカに留学できる財力と環境があれば、この年でも本当にハーバードとかに入ってそうだ。



「……ずっと先ね。どれくらい?」


「えーっと、7、80年くらい。限定的で3、40年先」


「3、40年先はともかく、7、80年は無理だね。確か無理ゲーだっけ?」


「え゛、私そんな言葉まで口走っていた?」


「2回聞いた。多分誰も理解してない。私も『ゲー』が何か、まだ分からないし」


「『ゲー』は、ゲームの『ゲー』。凄く難しい事の例え。その7、80年先の言葉ね」


「そんな未来の夢まで見るんだね。限界はどのあたり?」


「生まれてから100年くらいかな? まあ、飛び飛びだけどね」


「100年って21世紀に入っているのか。便利になってる?」


「なるよ。欧米の人が描いた未来絵図を超える便利なやつもある。逆にないやつもあるけど、今とは雲泥の差ね」


「欠点は?」


「貧富の差は今より酷いかも。しかも世界中の情報が繋がるから、それが誰にでも見えるのが一番の欠点じゃないかな?」


「人間、知らない方が幸せな事もあるもんね」


「ほんと、そう。けどお芳ちゃんは、私が到達できる限りのところからだけど、全部見てもらう事になるよ。覚悟はしておいて」


「むしろ期待してる。鳳に拾われるまで、なんて私は不幸なんだって思ってたけど、今は何が幸いするか分からないって思ってる」


「幸いかどうか、保証はできないけどね」


「いらないよ。私は知らない不幸より知ってる不幸が大好きだから」


「そりゃ良かった。安心して無理難題、相談するからね」


「オーダー、承りました。お嬢様」


「うん。じゃあおやすみ」


(そっか、理解はしあえるけど、お互い立ち位置が違うのよね)


 凡人で貴人な玄二叔父さんとある意味真逆なのが、お芳ちゃんだ。

 本当に世の中ままならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る