ニャンニャンネコチャン

髙 文緒

第1話

 男子大学生の一人暮らしとしては、わりときちんと暮らしのことを出来ている方だと自負している。例えば今もスーパーで特売品をチェックして、底値ではないけれどまあ買ってもいいラインだな、なんて思いながらカゴに白だしを入れている。

 白だしは便利だ。

 簡単にだが自炊はするから、白だしの便利さだって知っているんだ。

 1K物件の限界料理環境キッチンだけど、そこをコックピットみたいに機能的に整えるのは面白かった。参考になる画像をたくさんインスタで見て、少しずつ整えて、最近ようやく理想に近くなった。

 試しに投稿してみたら、かなりシェアされて、web記事にも載った。なにしろ収納が限られるから食器も調理器具も最低限だけれど、その分こだわりを持って選んでいるし、それなりに映える料理写真が取れたらそれも投稿する。

 インスタグラマーと名乗るには投稿は少ないけれど、それがまたクールに見える程度には、自然体で丁寧に暮らしている一人暮らし男子としてのモデルになれていると思う。だってぼくの1K生活を参考にして、というか真似ているなっていうアカウントにたまに出会うから。

 モノトーンだけだとつまらないから、ぼくはモノトーンに青系統をアクセントに加えている。あまりキメすぎた部屋にしたくないし、あくまで自然と集まったような感じがいいと思っている。自然、といえば部屋に緑もある。小さな観葉植物を窓の近くに置いていて、土が乾かないよう水をやり、葉には霧吹きで水を吹き掛けてやる。水を浴びた葉を自然光のもとで撮るのが好きだ。自然光、無加工、それが一番生き生きとした植物本来の姿を切り取れる。

 エコバッグはこだわりのシュパット。少し高いがコンパクトに畳めて大容量、色はシンプルなブラックだ。中に入るのは2割引のしゃぶしゃぶ用の豚肉、同じく2割引の合いびき肉、サラダ菜、ナス、トマト、ネギ、茗荷、大葉、ハム、パン、卵、牛乳、そうめん、もやし。

 極めて庶民的なラインナップに、最近ハマってるクラフトビールを3種類。酒に強いわけではないが、クラフトビールは個性が強くて面白い。がぶがぶ飲まなくていい感じがある。缶もデザイン性が高いから、食卓に並べると雰囲気がある。

 今日はしゃぶしゃぶサラダにして、合いびき肉は肉味噌にして保存しておく。買い物は基本的に週に一度だが、最近は十日に一度程度に頻度が落ちている。なぜかというと暑いからだ。暑い中片道十分強の道を歩かねばならないからだ。

 エコバッグに食材を詰め終えて顔を上げると、猫を探しています、というチラシが目に入った。どこにでもいるような、雑種の猫だと思う。赤っぽい茶のまだらの毛色をしていて、サビ猫です、と書いてあった。丸くてかわいらしい顔をしてる。尻尾と手足が短いのが特徴だっていうから、たぬきみたいだなと見ていると、どうもこれは出会ったことがある気がする。飼い主の人は必死で探しているだろうし、思い出すことがあれば連絡してあげたほうがいいだろう。

 ぼくは善良なので、そう判断してチラシをスマホで撮った。

 十日分の食材は重い。そしてそとは暑い。

 今年の春は雨の日々のうちにすぎて、気づけば夏の気候になっていた。夏休みに入り、暦の上でもはっきりと季節が夏になったが、その前からずっと夏だったように思う。

 シュパットは大容量なのはいいのだが、ぼくが使っているのは肩紐が細いタイプで、肩に食い込んで血をとめるのがいただけない。黒いナイロン地は陽光を吸い込んで熱くなる。前までは気にならなかった。自転車のカゴに乗せていたからだ。

 そう、ぼくはずっと自転車でスーパーに通っていた。

 アパートにたどり着くと、共有の自転車置き場にぼくの自転車がある。油をささないとならない。歩いてスーパーに通うのは怠すぎる。

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