第15話 これはミステリー? アノンという人間
アノンがオトノセカイ様から連絡を受け取った日――兄貴が姿を消した。故に現在、とんでもない問題が発覚した。アノンは二次災害と三次災害を経験して心身ともに参っている状況。そんな中で甘い物を食べようとコンビニに向かったのだ。いつも通り、色々な甘未や飲み物や食べ物を詰め込んでレジの前に持って行った。
そこで店員はこんなことを私に言いだしたのだ。
「こちらのカードは使えないですね」
「え……お金が無い。どうすればいいの?」
それは数時間ほど時間を遡るが、基本的にこの一軒家の大黒柱は兄貴だ。その兄貴が姿を消したせいで、アノンはこれから家事全般を含めて全てのことをやらなければならない。最初は問題ないだろうと息巻いていた。兄貴は時々姿を消しては数日帰ってこない事があるからだ。
しかしそういう場合はハウスメイドさんが自宅に来てくれる。それが何故か来ないから、アノンは気合を入れて人生初めての洗濯を開始した。
そして洗濯機が爆発して壊れる。
これが一次災害だ。
洗濯機のロックがこじ開けられて中から大量の泡が噴き出す。それは洗面台と風呂場を呑み込んで、気が付いた時にはすでに惨状が広がっていた。アノンは洗面台と隣接している風呂場からシャワーを取り出して、洗面台を洗い流す。
これが二次災害だ。
シャワーのお湯と洗剤が混ざり合って、開いていたドアから玄関に流れてしまう。そしてギトギトになった玄関周りを見たアノンは「これはもう無理……諦めよう」となって、リビングに避難する。それからリビングのソファーでゴロゴロしていると腹の虫が鳴り出した。アノンはなにか食べようとキッチンを捜索するが野菜しかない。
「仕方ないから料理をしよう! 前の初配信で悔しかったから料理の腕上げたいし! 次はいっぱいのコメントがもらえるように努力しないと!」
これが三次被害だ。
アノンは適当な野菜をミキサーにかけて粉々にした。そしてすり鉢があったので野菜を丁寧に切っていく。※正確にはすり潰している。そしてドロドロになった野菜を焼いたのだが、出来たのは緑色の液体だった。※焼いたでは無く煮込んだである。すでにマズそうな気配が漂っていたので、アノンは砂糖と醤油と塩と牛乳を混ぜ合わせて炙る。※この子は料理が苦手です。
そして完成したのは緑色のスープだ。
「見た目は悪くない……問題は味だよね」
アノンは煮込まれた緑色のスープを味見する。野菜の苦みと砂糖の甘みと塩や醤油の深みがバラバラに広がる。「ん……あんまり美味しくない?」と言ってしまう程度の失敗だ。随分前に作ったハンバーグよりはマシだった。実際ならこの後に兄貴を呼び出して手直しをしてもらって完成だ。残念ながら兄貴がいないのでこれで完成。
アノンは食器にスープをよそってしばらく食べ進めるが、物足りない。リビングのソファーで唸りながら考えていると、とんでもないアイデアを閃いてしまった。
この時の私は自分が本当に天才なんじゃないかって錯覚していたと思う。
「分かった! 固体じゃ無いからだ!? ――焼きまくれば水分が飛んで固体になるんじゃ! 私って……実は天才?」
そして緑色のスープを火力マックスで炙り続けた。アノンはその間――ネットの書き込みを読んで涙を流している。あまりに酷い炎上コメントにメンタルブレイクを決められた。大炎上はとどまる事を知らず、オトノセカイ様の過激ファンから目を付けられて日常的に大量の悪口が届いてくる。
そろそろ慣れてきたけどさ。中指突き立ててやりたい。
すると焦げ臭い匂いがして眉間にしわが寄る。
確認すると、横に置いてあったキッチンペーパーが燃えていたのだ。気が付いた時には地面が燃えそうになっており、アノンはちょっとだけテンションが上がっていた。しかしこのままではまずいと思ったアノンはリビングに置いてある消火器を持って沈下活動を開始。
あれって水が出ると思ってたのに、実際に出たのはピンク色の粉だった。
それが物凄い勢いで噴き出す。リビング中がピンク一色になってしまい、途方に暮れてため息が漏れた。最後の一言は「どうにでもなれ」だったと思う。気付いた時には玄関と洗面台とリビングが使い物にならなくなってた。アノンの居場所は自分の部屋だけだ。
そして腹の虫は未だに鳴り響いている。アノンは諦めてコンビニに向かった。そして冒頭に戻る訳だが、アノンは買い物をする時は兄貴から渡されたブラックカードで買い物をしている。兄貴との約束で一日『一万円』というルールが付いており、過去にその約束を破って痛い目を見ているのでアノンはその約束は守っていた。
しかし目の前に立っている冴えないコンビニ店員は「こちらのカードは使えないですね」なんてふざけたことを言いやがる。アノンは慌てて財布の中を漁るがブラックカード以外なにも入っていない。目を見開いて「え……お金が無い。どうすればいいの?」っと言葉が漏れてしまう。このままだと犯罪者として捕まるかもしれない。
「え? あぁ、すいません。ですとこちらの商品はお売りできません。現金をお持ちになるならここで預かっておくことも出来ますが? どうしますか?」
「はえ!? 警察ですか!!」
「え? なんで?」
「だってお金払えないから!!」
「ぶふっ! そんな訳ねぇーじゃん……お嬢様かよ」
コンビニ店員もアノンの発言に噴き出して素が出てしまった。笑いながら「お金を持ってまた来てください」と営業スマイルを見せつけられてコンビニから追い返される。アノンはこういった日本の一般常識が欠落している部分が多々あった。
しかしこの理由はまた別の機会に。
なにも買えなかったアノンの表情は絶望そのものだ。自宅に帰れば全財産の五万円が置いてあるが、あれは本当にヤバイ状況に陥ったときに使うお金。兄貴にイラストを描いてほしいと頼んだ時に差し出そうとしたが、結局私の懐にあるままだ。
兄貴がいない、そしてハウスメイドも来ない。
兄貴が数日程度で帰ってくればなんの問題も無いけど、場合によっては数か月ぐらい帰ってこないこともある。そんなれば五万円じゃ生きていけない。ほんの少し前まで中学生で、やっと高校生になって兄貴と自由を手に入れたのに……まさかこんなことになるなんて。
自宅に帰ってからも現実を受け入れることが出来ずに、私は自分の部屋にパタリと倒れ込む。そしておもむろにスマホを手に取って兄貴に電話をかけた。これはすでにアノンが手に負える状況じゃない。残念ながら頭を下げる案件だ。
しかし兄貴は電話に出ない。
ピロピロ……愚妹は死ね……ピロピロ……愚妹は死ね……
アノンは何故か空いていた自分の部屋の窓から聞こえてくる着信音に飛び起きる。そして慌ててギトギトの廊下を滑って転げ回りながら外へ飛び出した。すると苦情を言ってくるうるさいおっさんの一軒家のすぐ近くに兄貴のスマホが落ちている。
その光景に衝撃を受けた。
「もしかして……兄貴って誘拐された?」
嫌な胸騒ぎがする。
なんで兄貴がいなくなってしまったのか分からない。兄貴は自宅から消える瞬間になにか私に言っていた気がするが思い出せない。あの時の私はオトノセカイ様からのメッセージで有頂天になっていたから兄貴の話なんて聞いてなかった。
もしかすると兄貴はとんでもない状況に陥ってるのかもしれない。そんな胸騒ぎだけがアノンの全身を包み込んだ。そして兄貴のスマホを手に取ると私は言った「まぁ、なんとかなるっしょ。とりあえず腹減ったから兄貴が炊いてくれた炊飯器のご飯食べよ」っとどこまでも能天気だ。
一方、その頃兄貴は……
大量の拷問器具が設置された部屋で、何重にも繋がれた鎖で身動きが取れない状況に陥っていた。その正面にはどこまでも黒い少女が笑みを浮かべている。しかしこれはあくまでアノンの物語なのでまた別の機会に語る物語だ。
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