【再掲】01(後編) 魔王になったので、新世界でチュートリアルから始めます







  羽根が生えた謎のアメリカ人(?)の生娘による、大道芸を間に挟みながらこの世で一つの人生という映画の観賞会は、ついに大詰めを迎えた。


「うむ、中々のファインプレイだ。突出覚悟で突撃した甲斐があったね」


「……それがあんたの命取りになったのよ?」


 青空の中に差し込む光と雲の壁しかない何とも不思議な空間にて、先程顔を真っ赤にしていたウブな彼女は、天使の羽根を付けたコスプレイヤーだろうか?


 北欧系の風貌でもあるからよくお似合いだ。


 背中に生えた羽根もよく動き、なんとも驚異なギミックを搭載したコスプレイヤーな彼女は、水晶玉を何らかの方法で映像を投影するのだ……ああ、もしかしたら新手のマジシャンなのかもしれないね?


「おいおい、それであの十字架達が助かったんだろ?」


「そうね、そうだけど……あんた、自分の命をなんだと思っているの?」


 映像は切り替わり、俺が虚空に向かって手を伸ばしたあたりか。その後、十字架達こと輸送機を中心とした航空機の編隊は、白い尾を引きながら通り過ぎていった。


 命取りかはともかく、結果として判断は間違っていなかったのだろう。

その証拠に、俺の周りに死体と共に転がるものが証明している。


「十字架達が通るルート上、ああ、今の映像の中の俺がいる地点だ。携帯型地対空ミサイル、NATOコードネームで言えば『グレイル』を確認した。この映像を見る限り、戦場での俺の勘、嗅覚は錆び付いていなかったよ」


 相変わらずどういう原理かは知らないが、水晶玉に映る俺の最期の戦いの模様。

映像は巻き戻し、早送りが出来る優れもので……先程は巻き戻しすぎ、お茶の間だったら凍りついていただろうね? HAHAHA!


「おい、もう少し範囲を広げてくれ……おっ、難民達と非戦闘員は無事に撤退できたんだな。ああ、仕事はきっちりこなしたね?……共に戦った俺の部隊の仲間に死者はいない、完璧じゃないか、HAHAHA!『bang…』……あ、俺このタイミングで引き金を引いたのか、hahaha……」


 拡大、縮小も可能なよくわからない原理で動く便利な水晶玉からの映像を観察し続けた。


 全く、装備の質はともかくこんなにも戦力比が酷い中でようやるわ。

こりゃ現代版アラモ、またはモガディシュの戦いかい?


 ま、戦場は砂漠地帯だからか、映画で言ったらランボー3っぽい、実弾と本物だらけの迫力の映像だ。

良いドキュメンタリー映画だね、ヒットするんじゃない?


 完璧な密着取材、男女の密着した営みシーンは放送事故でお茶の間が凍りつくからカットで……しかし、キルレートが中々えげつないね。

アラモやモガディシュと違い、俺が率いた殿部隊の死者が僅か一名だ!……それ、さっきの映像の通り俺の事だけどな? HAHAHA!


「……You jerk(バカ野郎)」


 まぁ、確かにそうだよな?

だけどさ、これはトロッコ問題的に最適解だろうよ?……最適解だろうけど、最近だんだんわかってきた、俺が死んでも誰も泣かないんじゃないのかってね?


 その証拠に目の前の羽根付きコスプレイヤー? マジシャン? あるいは大道芸人のアメリカ人(?)の生娘は、物凄く微妙な表情を浮かべているからね。HAHAHA!


 少なくともさ、前世に残してきた姉さん女房は……泣いてくれているのだろうか?


「グレイルか何か知らないけど、あんたはこの戦いで重傷を負い、自ら最期を選んだ……助かる可能性を考えなかったの?」


 それは愚問だよ……。


「ジョニーの凱旋はごめんだぜ? 俺の愛する彼女がさ、俺の影で苦しむ姿を見たくなかった」


「ジョニー……くだらないわ、あんたのつまらない武人のプライド? くだらない美意識で死を選ぶ? なによそれ?……どうして馬鹿な真似をしたのよ? 私には意味がわからないわ!?」


 俺の選んだ最期に水を指し、死者に説教する暇人がいるらしい。

アメリカ人(?)だけに宗教的な理由があるのだろうか?……しかし、話が長くなりそうな上、これはどう考えても平行線だろう。


 俺の言葉、想いは何一つとして伝わらなそうだ……もっとも、くだらないのは事実だけどな。


 さて、不思議なことにこれまたどういうことか、機能不全のはずの四肢は健全、腹に風穴も空いていない。

まるで奇跡だね?


 一方で頭が軽くなったかもしれないおかげか、少しばかり記憶が朧気となっている……もはや前世に忘れてきたのかもしれない。


 これまたおまけとばかりに装備品をそのまま引き継いでいる。

どんな奴かは知らねえが、ジーザスありがとう!……さて、弾は出るだろうか?


 腰に下げたホルスターからマカロフPMを取り出し、スライドを引けば問題なく弾が装填された。


 擦れた金属音で気付くかと思えば、変わらず目の前で講釈垂れる女性の話を聞き流す事にも疲れてきた。


 一旦中断しようか?


 ……3、2、1……『BANG!』


「Oh my gosh!?……な、何よ? 何!? 私が何をしたって言うのよ!?」


 突然の銃声にパニックになりつつも身を縮め、まるで銃社会に生きるアメリカ人のようなリアクションを見せつつ、片手に……ベレッタM9!?……おいおい、どこから出したんだよ?


「話が長い! 結論から話せよ!? おい、次は当ててやる、結論言わねえで死んだら誰が俺に説明するんだ!?」


「ふざけないで!? そんなことはどうでもいい! いきなり目の前で何するのよ!? 私を驚かせてどうするつもり!? あんた何様なの!?」


 少しはおとなしくなるかと思ったが、どうやら目論見から外れて興奮状態に陥った模様。

余計に煩くなった上に、彼女は震える手でベレッタM9を構え、さながらJSAのワンシーンのような、最悪の状況だよ!?


 まさか逆効果になるとはね。状況を理解出来ないのならば……躊躇する必要はないよな?……よし、これは俺の感だけど、こいつは絶対に撃てやしない。やるか。


「何よ、私が大事な、それも少しはありがたいお話をしてあげてるのに!?……『BANG!』痛いっ!……えっ、何?……えっ、なんで撃つのよ?……えっ、血? 血が出てるっ!?……な、何するのよ……なんで?……うっ……痛い、痛いよ……」


「だから当てると言ったろ? 御託は良いからさっさと結論から話せ!」


 彼女は両手で構えたベレッタM9を落とし、血が滴り落ちる左耳を押さえれば、青ざめた顔で怯え、すすり泣き……やがては口を閉ざして沈黙した。


 随分と出来の悪いピアスの穴が空いた、むしろ耳たぶが裂けて飛んでいったようだ。


 左耳を押さえたまま血が滴り、ガクガクと震えて膝から崩れ落ちたようだが、これもこれで逆効果だったらしい。

向こうは撃つ気なんてなかったようだけど、これは正当防衛……だろ?


 しかし、人に向かって簡単に銃をぶっぱなすのは良くないね。HAHAHA!


「……おい、いいから説明しろよ?」


「………うぐっ、ひぐっ……ううっ……ナンデウッタノ……ワタシガワカラナイノ?……」


 誰だ女を泣かせた奴は?

脚に撃った覚えはないが、膝から崩れ落ちて行き……まぁこの体勢になってくれるのならさ、万一の時に介錯するこちらとしては楽だ。


 すすり泣く彼女にマカロフを突き付けたまま、続きを促す他にないだろう。答えなければ……ね?


「耳たぶが飛んだぐれぇで何だ? あ?! さっさと結論から話せよコラ!」


 しかし、嗚咽を漏らしながらバイブレーション機能のまま変わらない。

もう一発撃って強制終了させるか?

このままでは埒があかない、可哀想になってきたから選択肢を与えようか。


「オーライ、分かったよ。お前の代わりを呼んでくるか、頭をぶっ飛ばしてすっきりリフレッシュするか……好きな方を選べ?」


 とりあえず二択に絞っておけば、すぐにでも結論が出るだろう。優柔不断でなければね?


 それこそデートで二つの選択肢を掲示するようなもの、それはとても平和な尊い日常だぜ?


「……グスッ……代わりはいないわ……私が、ウウッ……女神……見習いだけど……」


 とのことで選択肢は絞られ、コスプレイヤー、マジシャン、または大道芸人改め、見習い女神のアメリカ人に問いかけよう。


「では、間違いなく俺は死んだ。OK?」


「……そう、それであなたはこの世界に呼ばれた」


「おめえのような見習い女神を騙る無能がいる空間に? 冗談じゃねえ、俺はお前と一緒に反省会でもしろと?」


「……違う、あなたは……魔王として相応しいから、様々な種族、特に人類達が争うこの混沌とした世界に必要とされた」


「マオ? 俺はあれか、けざわか? マオ・ツァートンか?」


「魔王よ!」


 ようやく泣き止んでくれたのか、元気一杯で何よりだ。


「いや、どういう意味での必要かは知らんが、それなら毛量があれなマオおじさん、チョビ髭のヒットレムおじさん、または筆髭ヨシフおじさんの方が適任では?」


「今、この世界にあなたが必要となったのよ。他の候補がいるかもしれないけど、偶然にもあなただけだった。だから、この世界に必要とされたあなたは、もう一度生を受けてもらうわ」


「なるほどね、よくわからんが選択肢はないのかな?……で、そうなると俺は精子からやりなおすのか? 流石におたまじゃくしとの競争は面倒臭いぜ?」


「せっ、せい……って、そのままで良いわよ!」


「おう、煩くなってきたな……もう一発いっとく?」


「……No thank you. あなたはそのまま、魔王として君臨してもらうわ」


「前世の装備は持ってっていいよな? 良いんだよな?」


「どうぞお好きに?」


「手榴弾、AKM、RPGも勿論良いんだよな? 勿論予備も寄越せよな?……それとも蜂の巣か、粗挽きミンチのどっちが良い?」


「好きなだけ持っていってください……f**k」


「さすが女神様だ、そういうところは好きだぜ?……で、続きは?」


「長くなるけど良い?」 


「手短に?」


 見習い女神を騙る何かは震えながら、怯えながら、失敗した耳の大きなピアス穴から血を滴らせながら続けた───。






 手短にとお願いしたものの、途中の記憶が途切れている……なんでだろうね? HAHAHA!


「……あなたが降臨、転移する場所はここで……って、聞いてるの?」


 ああ、聞いてるさ?……内容はよく覚えていないけどね?


 いつのまにやら、どこからか現れた黄ばんだ……むしろ茶色味がかったカビ臭い古地図を指差しながら、すっかりとおとなしくなった女神を騙るアメリカ人による説明会は続く。

……やっぱりマジシャンか?


 古地図なのに新たに赤黒い点、シミが徐々に増えているのが気になるものの、そんなことよりも女神を騙るアメリカ人が指し示した場所……ああ、気に食わない。

交渉しよう。


「アホ、ハートランドに行けと? ふざけんじゃねぇよボケ!? どういう場所か、わかっているのか? ここはな、騎馬民族発生地帯で発展が望めないだろ?」


「じゃあ、どこなら良いのよ?」


「そうだな……」


 その後、交渉を重ねた結果、場所を選ぶ権利を得られた。


 やっぱり話してみるもんだね……銃を片手に。HAHAHA!


 さて、条件としては地政学を参考にしよう。


「リムランド、海沿いの地域だ。特に島国が一番だね……この日本に似た場所は?」


「そのJapanに似た島国、空きがないけど?」


 残念ながら人気物件のようで、少しの妥協が必要らしい。地政学的にそりゃそうか。


「リムランドで空いているのは?」


「その島国に近い、この辺ね」


 改めて指された場所は……前世で例えると沿海州、旧満州あたりを想像するとよい。


「リムランド唯一の空白地帯はここだな……しかし、すぐそばに海の出口がない。それどころか、いくつかの勢力に囲まれているね?」


「そうね、そこしか無いわ。魔族の勢力圏に囲まれた地域……だけど、ここにある古城、何故か誰も利用しないのよ? だから空白」


「緩衝地帯的な曰く付き物件?」


「ある意味そうかもね? そもそもこの地域は、色んな種族が存在していがみ合うし、それぞれ決まり手に欠けている。その結果、あなたが言う緩衝地帯とやらの役割を果たしているわ……あなたが良いならここでどう?」


「他はハートランドしか空いていないのだろう?」


「そうよ、それじゃあ決まりでいいわね?」


 物件選びは慎重に慎重を重ねたが、まぁこれ以上ここに留まっても面白くはない。

なによりも娯楽がない、ただの反省部屋のようだからね?


「この地図も貰っていくぞ?」


「ちょっと、何するのよ! これは貴重な……いえ、なんでもありません……」


 やっぱりさ、銃を突き付ければペンより強し、だね。

こうしてカビ臭くておまけに血生臭い古地図が手に入り、前世の装備、弾薬もいっぱい付けてくれてありがたい限り。


 腰に吊り下げた……誰かの形見の軍刀……ああ、それと便利なナイフを数本と装備はバッチリ。


「あ、この地域寒いよな?

前世で気に入ってたロングコートも……」


「もう何でも良いから早く行きなさいよ!」


 どういうわけか、お互いに面倒くさくなってきたので、さっさと行ってしまおう。


「それじゃ……ところでお前、名前は?」


「……ジェニファーよ、ジェニファー=ズザンネ・サマーフィールドよ」


「じゃ、ジーザスで良いな、このクソッタレ、ありがとう」


「ジーザスって何よ? クソッタレは余計よ!」


「ま、みんな大好きな前世の神だよ。その神にあやかり頑張れよ、クソッタレ!」


「ったくもう……なんなのよ……captain, good luck(大尉、幸運を)……」


 あれ、今こいつ……何て言った?……まあいい、薄れ行く景色、視界はやがて急速に回転し……ああ、想像する以上に大変なことになり、そうして俺は、新しい世界に降臨したのであった……うっ……ヤベッ……ジーザスノクソッタレ───。







  ───登場人物紹介。



 name / ジェニファー=ズザンネ・サマーフィールド


 本作の主人公が目を覚ました時、雲の世界で彼を出迎えた北欧系のアメリカ人(?)。

天使のような羽根が生えており、見習いの女神を自称する。


 何故か米軍で正式採用されていたベレッタM9を所有し、主人公の事を知ってるかのような素振りを見せるが果たして……。


 癖のあるブロンド、青い瞳、うっすらと目の下に浮かぶソバカスが特徴的。


 身長は162cmでアメリカンなモデルのようなナイスバディ!……oh my gosh! HAHAHA!






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