───第一章 ーchaotic memory & worldー

【再掲】01(前編) 魔王になったので、新世界でチュートリアルから始めます





  welcome to the new world!


 …are you ready?


 …3…2…1…action!






  自身の最期を悟り、最後の力を振り絞ってマカロフの引き金に手をかけ、一思いに頭を撃ち抜いて人生を降りたはずの俺は……なぜか新しい世界へと降り立ち、戸惑いながらもようやく慣れてきた頃合い。


「まっ、魔王様!」


 突然プレミアム芋焼酎のオーダーが入る。様付けなんてご丁寧にどうも?……しかし、そんなものはここにない。


「魔王!『TATATANG!』───」


 追加オーダー、これは最期に良い酒を飲みたい奴の断末魔と化したが……そんなものはここにあるはずもない。


「魔王……『BANG!』───」


 人気のうまいプレミアム芋焼酎のオーダーが絶えず、それが一体どこにあるのか、俺には全くわからない。もちろん誰にも……そう、この世界には存在しないはずのものだから。


「魔王様! 無事のようでなによりです!」


 またオーダーかよ?

出せないものは出せない、そう言わなきゃわからんのか!?


「おい、魔王なら在庫切れだ!」


「……いえ、そうではなく……あなたの事を言っているのですよ?」


 在庫にあるはずもなく、そもそも存在すらしないオーダーに対し、てんてこ舞いの俺に言葉を向けたのは毛むくじゃら、二足歩行の小柄な哺乳類的な……って、コイツ、喋ったぁ!?


「おい、魔王って言うけどさ、ここはファンタジーの世界か?」


「ええ、魔王様は魔王様です。我々からすれば、あなたの前世の方こそよっぽどファンタジーですよ? まったく、いい加減そろそろ慣れてくださいね。それにですよ、我々が喋るぐらいで一々驚かないでくださいよ?」


 と、まぁこちらのリアクションに対して、いつも親切丁寧に、ユーモア交じりに諭す賢いコボルト族の一匹……それとも一人か?

どっちなんだ? HAHAHA!


 狼、狐あたりをミックスしたような容姿、二足歩行をするのに適した形態、知能もあり思うがまま自然なコミュニケーションが取れる。


 おまけに近世チックな服も着ているし、素敵なアクセサリーも身に付けたおしゃれさんでとても親しみやすい。


 そんな彼とはある時、森を散策……むしろ遭難している時に出会った勢いで『チャゲ』と名付けた。

美しい茶色の体毛が由来、茶トラ猫をイメージすると良いだろう。


 勝手気儘に名付けたその時、チャゲの隣にいた同族には『アスカ』と名付け、二人並べるとなかなか語呂が良いだろう?

ちなみに何処か危ない雰囲気が漂うので「&」は使わない、絶対に駄目な気がする。


「ところで、アスカはどこにいる?」


 その質問にチャゲはこう答えた。


「あぁ、アスカですか? 捕まりました、今日は農作業の手伝いのようです」


 何故か魔王城でアスカとのペアにはならないという不思議。

いつか二人揃って登城したその時は、きっと殴られるのかもわからない、jaーjaーja……って、なんかドイツ語っぽいね? HAHAHA!


「そうか、わかった……それよりもチャゲ、ここにある死体の片付けを手伝ってくれ」


「またですか? うげぇ……全部頭が弾けてますね……これじゃあ元の顔がわかりませんな」


「そうだな、完熟したザクロ、または弾けたスイカみたいだろ?」


「……そう見えてしまうのでやめてくださいよ。それで侵入者はこの四名様で?」


「あぁ、そこの死んだ客は神様、仏様だよ?」


「「HAHAHA!」」


「魔王様、逃げた一人はいかがいたしましょう?」


「放っておけ、ビビってしばらくこちらには手を出さないだろうよ?……とりあえず、グールさんたちへのお土産が出来たな?」


「彼らは喜ぶでしょうね、私には理解できませんがね?」


「食い物の嗜好はあってしかるべきさ。あるいは内臓抜いて川にでも流しとくか?」


「それは面倒なのでグールのところに持っていきましょう」


「そうだな、むしろ回収に来てくれないかな?」


「魔王様、ここはあなたの前世とは違いますよ?」


「「HAHAHA!」」


 と言う平和な日常会話をチャゲとしながら、いつものようにやってきた侵入者達を片付ける日々。


 今ではスマイル一発も約50セント……では無くなり、入手困難になった9mmマカロフ弾、および7.62×39mm弾の価格は高騰。

限りある資源は大切にしたいものだ。


 全く、それより俺もプレミアム芋焼酎の魔王を飲みたいけれど、この世界に存在しないばかりか、提供も出来ない以上は仕方ない。


 代わりにシューベルトの魔王をオペラ風に歌って毎日を彩るが、歌詞はうろ覚えのテキトーだ。父親を呼んでいる部分くらいしかまともに歌えない。


 演奏も楽譜も無いので鼻唄、口笛で雰囲気を楽しみながら日々を過ごし、時折挙がる歓声と断末魔の悲鳴を添えたオーケストラのようで全く、忙しいったらありゃしない。


 ……どちらかと言うと、オーケストラではなく俺の想像上のフリージャズかもしれない。


「オッラ! セニョール……まさかデモニオ(魔王)になるとはね? だけどさ、信じていればいつかきっと良いこともあるさ! それじゃ、アディオス!」


 何故かいつものように颯爽と現れ、風と共に去りぬラティーノ……いや、誰だよお前?


 ……それよりもどうしてこうなったのか? 少し時を遡ってみよう───。







  音がなくなり、何もかもが消えて無になる……はずだった。


 積み上げられた屍と同じく平等な最期が相応しかった因果応報。

そうなるとは思っていたが……実際のところはそうでもなかった。


 今、俺は天国とも地獄とも言えない、何とも不思議な空間で…。


『……んっ……あっ……あぁ!……』


 まずはどこから説明するべきかな?


『あっ……あかん……んっ!……』


 こ、これは……!? HAHAHA!

とても良い眺めだね、たまんねぇなコイツは!


『ああっ!……そこっ!……あっ……あかん!……んんっ!?』


 艶やかで美しいボイスだ、暗くてよく見えないが想像力を掻き立てるね……って、明るさも調整出来るだと!?……これ、すんげえな!


『そげなっ……とこ……いじっ……たら……あ、あかん!……頭がっ!……んっ……あっ、ああっ!……』


 ……時が流れると共に刻まれ続ける生命の理、神秘でもあるよな? HAHAHA!


『……あっ!……ああっ!?……んんっ!……』


 さて、どういう原理か不明だが、語彙力が宇宙の彼方へと旅立つぐらいに凄いとしか言い様のない、不思議な水晶玉に映る男女の営みが流れ続けて……ところでさ、これ、どうやったら停止するんだ?


 映像の中の二人は留まることを知らず、冷静に観察してみれば……プレイスタイルとしてスロー主体、時折緩急が加わるその度に身を捩らせ、嬌声をあげて狂喜する女のその様は、とても妖艶で美しく芸術そのものだ。


 布団に隠れて詳細は不明だが、おそらく背面側位でもって男はゆっくりと腰を動かし、押し込むように奥まで到達したそれの先端を優しく当てがい、そのまま奥に留まらせたまま撫でるようにゆったりと動いているのだろう。


 一方、空いている両手はと言うと、布団が邪魔で不明なものの、きっと女の控えめに主張する美しい膨らみをその手で包み込むように被せてその先端を、もう片方で潤った陰部を、その指先を正確に敏感であろう先端、その周りをそれぞれ愛撫するその度、艶やかなで官能的なあえぎ声があがる。


 さて、羨ましい限りである男はなんと言うか、鏡の世界でよく見たものであり、第三者視点で見ると云うものは主観と違い、新しい発見があってか思わず唸ってしまう……おい、チョウ・ユンファとヒロユキ・サナダを足して割ったようなムービースターさん?


 今からここにいる俺と代わらない?


 ああ、美しく妖艶な女の方もさ、相変わらず気持ち良さそうに楽しんでいるようで何よりだ……ところでこの映像、あと何時間続くの?


「ちょっと! さっきからなんて破廉恥なものを見せつけてるの!? 巻き戻しすぎよ!」


 羽根の付いたアメリカ人(?)女性が、顔を真っ赤に染め上げて絹を裂くような悲鳴を喚き散らしながら、俺の手中にある水晶玉を強引に奪い取った。


『………んっ、んんっ!……』


 しかし、映像が中々切り替わらず、なんとなく免疫の無さそう、少なそうな彼女は、水晶玉の映像を直視出来ず、仕舞いにはお手玉を始めた……大道芸か?


 辿々しくお手玉をする間、ずっと流れる男女の営みの映像と音声に思わず苦笑いせざるを得ない。


 それからしばらく、ようやく映像は停止したことで、火のついた顔のまま羽根の生えたアメリカ人の生娘は何かを呟き、ようやく本来観るべきであろう場面まで、映像は早送りにされれば……俺のいた前世、その最期と思われるあたりに至った───。






 ───登場人物紹介。



 Name / 魔王(?)


 マカロフの引き金に手をかけ、頭をぶっ飛ばして前世とおさらばした本作の主人公は、いわゆる異世界へと転生……した?


 侵入者の無茶なオーダーに対し、慣れた様子でカラシニコフ、マカロフで応戦し、死体の山を積み上げる一方、異世界生活にはまだ慣れておらず、魔王と呼ばれているのにプレミアム芋焼酎のオーダーと勘違いしたり、メタな発言をしたり、どこか懐かしいネタを連想させる。


 人の心はどこへやら、ブラックユーモアが加速していく。


 チョウ・ユンファ、ヒロユキ・サナダ似を自称するが、彼のモデルについては、二人のムービースターをおおよそ足して二で割った感じを想像するとよい。





 Name / チャゲ


 コボルト族の彼は、小さい身体ながらも魔王に臆することなく、ジョークを言い合うぐらいに仲のよい側近。


 魔王のことを心酔しているが、まだまだ慣れない彼を支えるべく奮闘している。


 二本足で立つ、茶トラネコとキツネのような風貌が名前の由来であり、アーティストは多分関係ない。


 身長はおおよそ1m前後であるが、フィジカルに優れていることから、彼も魔族の一員であることの証。


 ちなみに、彼の同族であるアスカは、愛する姉さん女房である。






 Name / ラティーノ


 何故、どこにでも現れるんだ!?……お前は誰なんだ!?






 Name / 羽根の付いた、アメリカ人(?)女性。


 詳細は次回をお楽しみに! HAHAHA!







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