第38話 男子寮
◆クライアス国立聖セントオーディン学園内男子寮
「…………」
抜き足差し足左足。
右に人影無し。左に人影無し。
ササッ
ボクは自身の宿舎に向かうのに、誰にも会わないように慎重に向かう。
何しろここは、狼ばかりが住まう魔境。
彼らとの接触は避けなければならないのだ。
◆
◆少し前
マデリア公爵家クライアス国立聖セントオーディン学園内私室
「それで、どうするの?」
「どうするのって、な、何をですか、エレノア様?」
「鈍いわね。貴女、本当に狼の根城に寝泊まりするのって事よ。今なら女として改めて再入学の手配も取れる。勿論、宿舎はちゃんと女子寮に出来るわ」
「ほ、本当ですか?」
「でも、あくまでも新入生扱いよ。貴女がこれまで積み上げてきたレブン▪フォン▪クロホードとしての実績は使えない。研究員として研究室の備品は使えないし、薬師図書館の自由入館と新薬情報閲覧権も喪失ね」
「う、そ、それは困ります!?」
「はあ、そうよね。貴女に研究を続けさせる為に男に戻ってもらったのに、男子寮への滞在が必須だったなんて、そんな学則、忘れていたわ」
エレノア様は頭を抱えて俯いた。
うう、エレノア様の、パトロンの期待に応え、さらにボクの目標である、立派な薬師になる夢を叶える最短は、やはり研究員という最高最新の場所で研究を続けつつ、在学中に薬師を目指すのが一番だ。
狼ごときにボクの夢を、閉ざされる訳にはいかない。
「だ、大丈夫です。ボクは男として男子寮に入寮します」
「な、レブ!?」
「レブさん!?」
「きゃあレブ
ハルさん、ランス君が驚き、マイリちゃんが口一杯にお菓子を頬張りながら叫んだ?
そして、エレノア様が首を振りながら口を開く。
「あなた、自分で何を言っているか、分かっているの?」
「分かってます。でも、薬師としての最短に繋がる研究環境を、今さら手放すつもりは有りません。只でさえ森に隠れた3ヶ月のブランクがあるんです。これ以上、皆に遅れを取る訳にはいきませんから」
そこに、ハルさんが割り込んで話す。
「待て、レブ。あの寮には、さっきの男が居るのだろう。間違いなく君を襲ってくるぞ」
「いやいや、いくらなんでも一応、一国の王太子殿下ですし……?」
「元王太子ね」
「うっ!」
な、なんだよ、せっかく決心したのに、皆が不安な事を言うから、だんだん怖くなってきたんだけど。
「レブ、私も君を守りたいが、ここでは海外留学者で、宿舎は学園外と決められている。君を24時間守る事は不可能だ」
「だ、大丈夫だよ、ハルさん。自分の身ぐらい、自分で守れるから」
ボクがハルさんを押し留めていると、エレノア様は腕組みしながら考えていたけれど、溜め息をついた。
『まあ、間違いがあったとしても、高位貴族ばかり。その時は一緒に取り込めばいいか』
「はい?」
「何でもないわ。貴女の決心を尊重します。貴方はあくまでも、私の婚約者のレブン▪フォン▪クロホードなんですから」
小さく独り言を言ったエレノア様、聞き取れなかったけど、ボクの決心を理解頂けてよかった。
ボクは皆に頷くと、エレノア様に挨拶して部屋を出た。
マイリちゃんが手を振って、ハルさんとランス君は最後まで心配そうにボクを見つめてるけど、今さら研究員の身分を捨てる事は出来ない。
だいたい男子寮にいるのは、この国の有名な高位貴族ばかり。
そんな表だってハレンチに走るような人は居ない、エレノア様の取り越し苦労なんだよ。
其処は信じないとね。
だってボクだって、この国の貴族なんだから、皆だって分別のある対応をするに決まっている。
◆
クライアス国立聖セントオーディン学園内男子寮
と、言うことで、ボクは男子寮に入寮したんだけど、のっけから、すでに後悔している。
でも、あと少しでボクの部屋。
部屋に飛び込んで鍵を閉めれば、取り敢えず安心の筈?
ダダッ
「レブ、何処だ?!私だ。君の最愛のジーナスだ」
ひいっ、しつこい?!
ボクはすかさず、側にある寮の備品倉庫に逃げ込んだ。
「くそっ、確かに此方に来たんだが、見失しなった。何処だ、レブ!」
「……………」
いや、まだ夕刻から堂々とボクを追いかけるってどうゆう神経してるのさ!?
貴方、一国の王子殿下でしょ。
そもそも、最愛って何よ、最愛って!
意味分かんないだけど!?
「レブ!」タッタッタッ………
シーン
「…………」
ふう、行ったみたいだね。
今のうちに移動しよう。
ギィッ
ん?
なんか、つっかえてる?
可笑しいな???
んん?
ギイイイッ
無理に押したら開いたよ。
良かった。さあ、直ぐに行かないと。
あれ?
ドアを開けたら目の前に制服があったよ。
何で、廊下に
んん???
制服に中身がある?
ボクが制服を見上げると、其処には何故か、顔があった。
「やあ、何をこんなところに隠れているのかな?」
そこには金髪で碧眼、白い肌の人好きそうな甘いマスクのイケメンが、ニコニコしながら立っていたのである。
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