第39話 男子寮2

◆クライアス国立聖セントオーディン学園

男子寮


はい。

只今、男子寮階段下の備品倉庫から顔を出し、出口を甘いマスクの男に塞がれて、途方に暮れている私、レブン▪フォン▪クロホードです。

困ってしまってワンワンワワンと泣きたい気分の今日この頃です。

何で普通に自分の部屋にいけないかな!?


はあ、分かりましたよ!

これも宿命ってヤツですかね。

もう、どうとでもなれ!です。


「さてさて、迷子の子猫ちゃんは、こんな所で何をしてるのかな?」

「しょ、初対面の新入寮生に子猫ちゃん、なんて言う先輩には、何も答えてやりません」


ふんっだ。

男のボクを子猫ちゃん、だなんて全く何なんだ、この人は!?


「おっと、こいつは嫌われちゃったかな?」


「はあ、嫌うとか、そんな事はないですけど、貴方は一体、どなた何ですか?」


急におどけて見せたりして、この人、何か苦手なんだけど!

めんどくさいから、ほっといて自分の部屋に向かおう。

ボクは正面に立ち塞がっている人の股の間をすり抜けて、其処から離れようとした。

あ、股を閉じられたよ!

仕方ないなあ、早く退いてほしいんだけど。


「はは、僕が名乗ろうとしたのに、股の間から抜けようとするなんて、君は大胆不敵だねぇ」

「いや、名乗ろうとしなくても結構なんで、まず先に退いてほしいんですが」


「連れないなぁ。僕は君と仲良くなりたいだけなのに」


ちょっ、なんか馴れ馴れしくボクの髪を触って匂いを嗅がないでほしいんだけど!

勘弁してよ。

只でさえ、ジーナス殿下に追いかけられて疲れてるのに、なんか、また厄介事になりそう。


ん?

急にボクの手を取って、引き上げて立たせた?ボクの顔を覗き込んでる?


しかし、コイツも背が高いなあ。

こんなに学園の男子は背が高かったかな?

あ、ボクが縮んでたんだ!

うう、この身体でなければ学園の男子平均身長は越えていた筈なのに、今では最低の背の低さだよ、コンプレックスを感じるなぁ。


ふぎゃ、な、なんで顔を寄せてくるのさ!?


「な、何です!?」

「マクシミリアン」


「え?」

「僕の名前はマクシミリアン。あなたのですよ、先輩?」


「一年生!?あ、ご、ごめん。ボクは」

「レブン▪フォン▪クロホード先輩、伯爵家の三男、そしてマデリア公爵令嬢の婚約者」


「どひゃ!?な、何で?」

「そりゃあ、知ってますよぅ。学年一位の秀才で、一年生の時からハインシュタイン研究室 の研究員に異例の抜擢、バイセル講師からも覚えめでたい逸材だとか」


「い、いや、そんな事は」

「謙遜しなくていいですよぉ、僕は 貴方貴女を尊敬してますから」ふぅっ


ひゃああああ!?

マクシミリアンがボクの首筋に近寄って、耳に息をかけた?


「ひっ、な、何で!?」

「先輩、本当に見れば見るほど可愛いですねぇ。これじゃあ、明日の朝まで無事でいられるかなぁ?」


「何を?」

「ふふ、まあ頑張って下さい。僕、一階の部屋なんで、なんかあれば言って下さいね」


マクシミリアンは人懐っこく笑いながら、手を振って離れて行く。


はぁ、何か、最後に胸が痛くなる事を言われたような……?

う、胸って言えば、そろそろ苦しくなってたんだ。

早く部屋に入らないと!


確か二階だったな。

ボクは階段を上がり、二階の通路に踏み込んだ時点で、その曲がり角から先に出るのを諦めた。

何で諦めたかって?


だってボクの部屋の前で、腕組みしてる変な男がいるんたよ!

めちゃくちゃ体格がいい男、あれはハーベル▪フォン▪ブライト侯爵令息。

次期騎士団長ですね。


いやいや、あんた、人の部屋の前で何してんのさ?

邪魔だからどっか行ってくれる!

仁王立ちして護衛でもしてるつもりかな?

はあ、本当に困ってしまうなあ。


「ハーベル!」


「ひぐっ!?」


何、何、何!?

そ~っと曲がり角から通路を見ると、ハーベルに駆け寄るケスラー▪フォン▪ファストマン公爵令息がいた?!

ちょっ、厄介者が増えちゃったよ。

ボクは自分の部屋に、何時になったら入れるんだ?


「下にジーナスが来てる。行くぞ!」

「ああ!」


んん?


バタバタバタッ


おお、これぞ神の助け!

二人が揃って、反対側の通路に駆けて行く。

何があったのか知らないけど、やっと自分の部屋に入れるよ。


ダッ、タッタッタッ、ギィッバタンッ

ガチャン


ボクは慌てて角を曲がって、自身の部屋に駆け込み鍵を掛けた。

ふぅーっ、やっと一息つける。


まさか自身の寮の部屋に行くのに、こんなに危険人物に遭遇するとは思わなかったよ。

うはーっ、何か初日から大変な事になってるよね、これ?


うぐ、もう限界だ。

胸がはち切れそうで痛いんだよ、これ!


ボクは男として学園に戻るにあたり、男装をしたんだ。

髪の毛は切るつもりだったけど、皆に止められたので、後ろにボニーテイルにして、さらに編み込んで小さくまとめ、胸は麻布で何重かに縛り平坦にした。


でもその胸が、いい加減に苦しくて、実は限界だったんだ。



パラパラッ


ふぅーっ、楽チン、楽チン、何も付けない解放感、こんなに気持ちが良かったんだ。

はぁ、もうクタクタだよ、今日はこのままベッドに入って寝よう。



ドンドンドンッ

「レブン、居るか?私だ、ジーナスだ!」



「ぎゃっ!もう、勘弁して!!」

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