第37話 狼の群れ
◆マデリア公爵家クライアス国立聖セントオーディン学園内私室
「さあ、入って」
ボクとハルさんはエレノア様に誘導され、マデリア公爵家私室に入室した。
「モグモグモグ、あ、レブさん、こっちこっち」
「馬鹿、少しは遠慮しろよ!」
「な、マイリちゃん、ランス君!?」
何で此処に二人がいるんだ?
二人はベナティア村に居るはずなのに。
二人はお茶席でお菓子を食べていたようで、マイリちゃんはリスみたいに両頬を膨らませていた。リスなの!?
ん?でも、マイリちゃんの服装、なんでメイド姿なんだ?
「いいじゃない、お兄ちゃん。こんなケーキなんて村じゃ食べらんないだから」
「マイリ、主人より先にメイドが出された料理を食べたら駄目だよ!」
「マイリちゃん、メイド!?」
「あら、ランス君はお目付け役なのかしら?いいのよ、あなた達もお客様なんだから」
「あ、エレノア様、どうもすみません!皆さんを待つべきなのに、妹は食い意地が張ってまして」
「酷い、お兄ちゃん。実の妹を食い意地が張ってるなんて言うなんて」
「本当だろ!」
「エレノア様?何で二人を?」
「ふふ、ランス君は騎士見習いに、マイリちゃんはメイド見習いとして、私の屋敷に住まわせてるのよ」
「ええ、そうなの?!」
「と、いうのは表向きな話。本当は魔物避け香の工房をマデリア公爵領に作ったので、母親とともに製造指南役兼責任者として、家族で赴任して貰ったのよ」
「ええ、魔物避け香の工房?」
「あれがね、随分と需要があるのでランス君達だけに作らせていたら、供給が間に合わないのよ。ほら、特にこの方のお国で必要でしょ?それも出来るだけ早めに大量にね」
エレノア様は、ハルさんに目配せする。
そうか。
ハルさんの国は魔森が多くて、比例して魔物被害が広がっているって言ってた。
じゃあ、ほとんどはハルさんの国に。
「レブ、君には感謝している。君が魔物避け香を開発してくれたお陰で、すでに多くの国民が助かった」
「ハルさん、いや、開発出来たのはランス君達のお陰だよ。ランス君達が材料の薬草を取って来れて、レシピ通りに加工してくれたから」
「レシピを開発したのは君だ。勿論、ランス親子にも感謝しているが、一番は君の手柄だよ」
「ハルさん……」
ハルさんがボクを見つめてる。
なんか照れるな。ボクはただのレシピを開発しただけの薬師見習いでしかないのに。
でも、あの魔物避け香で、多くの人々の命が救われているなら嬉しいな。
それは、ボクが薬師を目指す一番の理由だったから。
(レブン……立派な薬師になって)
ああ、目を瞑ると思い出す。
君を。
「レブ?」
「あ、何でもないよ、ハルさん」
「はい、二人とも。まずはお茶にしましよう、アベル」
シュッ
「はい。お嬢様」
「わ!?」
ビックリした。
いきなり背後に、年の頃はボクと同じくらい?百九十センチ位の背丈、茶髪でビシッと整えたスーツを着込んだ男性が現れた?
「私の執事なの。アベル、皆さんにお茶を用意して」
「畏まりました」
スタスタスタッ、キィッ、バタン
執事のアベルさんが、そのまま部屋を出ていくと、ハルさんが少し険しい顔でアベルさんを見送っていた?
「ハルさん?」
「いや、何でもない……」
「?」
バタンッ
「「「お嬢様、お待たせしました」」」
暫して、数人のメイドがワゴンを引いて現れ、ボク達の前の机は、お茶とお菓子でいっぱいになった。
「ふわああ、すごーい!」
「凄いってマイリ、お前はもう食べちゃったじゃないかって、まだ食べられるのか?」
「お兄ちゃん、お菓子は別腹って言葉、知らない?」
「初めて聞いたよ!」
「あら、食いしん坊なのね。後ろの二人にも、また、お菓子を出して上げなさい」
「「「はい、お嬢様」」」
「有り難う御座います。お姉様!」
「あら、おませなのかしら。可愛いいわね」
マイリちゃん……エレノア様に頭を撫でられて、愛想を振り撒いてる?
なんか世渡り上手だね、マイリちゃん。
ランス君が呆れてるよ。
「それで本題に入るけど、レブンは私の婚約者として復帰したけど、彼らはお構い無しのようだわ。特にジーナス殿下は、さっきの通り相変わらずね」
「うう、困ります……」
「しかも明日からは、あの二人も復帰するわ」
「二人……まさか」
「あなたが助けたケスラー▪フォン▪ファストマン公爵令息とハーベル▪フォン▪ブライト侯爵令息、命の恩人の銀髪女性を捜しているそうよ。どうやら少し、意識があったみたいね」
「うわわわわ!?」
何だって!
あのしつこい二人が復帰?!
「問題は其だけじゃないけど、当面はあの三人にどう接するかだわ。私としてはレブンに急ぎ研究室での薬剤開発に戻って貰いたくて、貴女の前の在籍証明をそのまま使ったのだけど、かえって裏目に出てしまったかしら?」
裏目……確かにそうだ。
ボクは今、男として学園に復帰している。
つまり、男だけで受ける授業には出ないといけないし、なにより全寮制の学園においては、ボクが寝泊まりするのは男子寮になっているんだよ……ね!?
「と、いう事は………」
「まさに、狼の群れの中に羊を投げ込んだようなものね」
ぎゃああああ?!
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