第28話 騎士団

◆レイテア子爵領

ベナティア村と隣町の境の街道


エレノア▪フォン▪マデリア 視点


はぁ、この娘は抜けているとは知っていたけど、これ程、頭が回らないとは思わなかったわ。仕方ないわね。


「キャロライン▪フォン▪レイテア子爵令嬢、しっかりなさい。今の処置を、疑いの段階で行えば、万が一間違いだった場合、あなた、只では済まないわよ。最悪、領民の反発、反乱となれば、領主は病死させられる」


「病死!?お姉様、私、こう見えても子供時代から病気知らずできてまして、今も、全く健康に問題はありませんが?」


ああ、頭を抱えたくなるわ。

やっぱり抜けている子は、病気知らずなのね。

私が、ため息をついていると、キャロラインの執事が口を開ける。


「お嬢様!それは皇国から、その扱いにされると言う事です!!」

「カーネル?私が皇国から、何で病人扱いを受けなきゃならないのよ。訳が分からないわ

!」


……埒が明かないわね。

仕方ない。私が全面にでましょうか。

一応、この娘の管理者になっている訳だし、この娘の扱いは、私に裁量権があるからね。

私は息を吸い込むと、キャロラインに言う。


「キャロライン、今からレイテア子爵領の権限を一時、私に預けなさい。領主とはどういうものか、貴女に教えます。いいですね?」


「は、はい、お姉様。構いません。カーネル、それで良いわね?」


「な!?エレノア様、それは!」


この執事、流石に理解できてるのね。こんな片田舎の領主の執事にしておくのは惜しい人材だわ。

「理解してるわね。でも、今回はそのような扱いにはしないわ。私、公爵代行エレノア▪フォン▪マデリアとして約束します」


「本当ですか!?か、感謝致します」


「?」


キャロラインは、まるで理解出来てないわね。私と、何度も私に御辞儀をする執事を交互に見て、首を捻っているわ。


他領の領主か、それに近い者に、自領の権限を任せるという事は、領の譲渡と変わらない扱いを受けても、やむを得ないという事。


それはつまり、レイテア子爵領の消滅を意味する。キャロラインは今、自分から平民落ちを宣言した様なものなのよ。


まあ、今、レイテア子爵領の執事に、公爵家として約束をしたからそれはしないけど、キャロラインでは領主が務まらない事の証明になったわね。

何処かで、有能な婿養子でも捜してあげましょうか。それしか、レイテア子爵領に未来は無いわ。


それにしても、いつまで立ち往生しているのかしら?そろそろ、だいぶ立つわよね。

私は前走の、騎士団先頭を見る。

すると、伝令役と思われる騎士が、此方に駆けてくるのが見えた。


ガチャガチャガチャッ、ザンッ


「第三騎士団、副長のアルヌスであります。マデリア公爵代行、エレノア様は何処いずこか?」

「私が公爵代行のエレノア▪フォン▪マデリアよ。部隊の運営ご苦労様。一体何が起きているの?」



「実は街道中央に、子供が座り込みをしており、進む事が出来ずに、立ち往生しておるのです」

「どういう事?邪魔なら、強制的に立ち退かせなさい。何を躊躇ちゅうちょする事があるの?」



「それが……ベナティア村に住む、ランスだと名乗っているのです!」

「な!?」


私は思わず、後ろにいるキャロライン達を振り返った。


「どういう事?ベナティア村は、貴女の領兵が街道と村一帯を閉鎖したはずよね?」


「?」


はあ、キャロラインは首を捻って困惑するだけだわ。理解出来てない。


「お、お嬢様に代わり、私がお話します。間違いなく、私が領兵に指示し、村一帯を閉鎖する様、手配しております」


彼女の執事が報告をする。

この執事が居なければ、領の運営はどうなっていたのだろう?

しかし、執事が言った事が正しいのなら、領兵の部隊が間抜けなのだろう。


どちらにしても、流行はややまいを気にしてか、騎士団は少年を遠巻きに見ているしかない。

強者つわもの揃いの騎士団の騎士が、流行はややまいを恐れて、少年に近づく事すら出来ないとは、何とも情けない話しだ。


「よいわ。私が出向きます。騎士団はそのまま待機するように」


「は!」


こうして私はアルヌスと共に、騎士団先頭に向かうのだった。



◆◇◆



ランス視点


俺は、領主様に直談判しようと、村を取り囲む兵隊さん達の交代の隙をついて、こっそり村を抜け出し、領主館に向かった。

けど、領主館は藻抜けの空、誰も居なかった。


どうしたらいいのか、俺は頭を抱えた。

このままでは、村が燃やされる!



『……』、『………………』



「!?これは人の声?」


俺が暫く、領主館近くの茂みに隠れていると、数人の兵士が領主館の門前にいた。

俺は息を忍ばせ、兵士達の話しに聞き耳を立てる。




『……で、領主様は病気療養中、皇都のお嬢様が領主代行!?あんな我が儘娘に務まるのかよ?』


『いや、領主代行はお嬢様でも、実際の指示は、領主様の懐刀ふところがたな、カーネル様が仕切っているはず。あの方の指示なら間違いはない』


『それならいいが、肝心のお嬢様やカーネル様は、何時、此方にいらっしゃるんだ?』


『既に隣町に皇国騎士団と到着したと聞いた。間もなく、此方に来られる筈だ』




「!!」

騎士団!

隣町からの街道は、南側の林の先の一本道。

其処で待っていれば、騎士団が村に到着する前に、騎士団に出会う事が出来る筈!


もはや、一刻の猶予も無いと感じた俺は、直ぐに茂みの中を抜け、南側にある林の中の街道で騎士団を待つ事にした。


林に着いて早々、街道の先に騎士団が見えた。


どうする!?

いや、もう、する事は決まっている!


けど、怖い。

さっきから震えが止まらない。


騎士団を止めたら、俺はどうなる?

たぶん、命は無いかも知れない。

死にたくない。


母さん、マイリ……



『ランス!何処にいくの?また、森?最近、森にばかり行ってるよね、何をしているの?』

『!なん、何だっていいじゃないか。リーナに関係ない!』

『ランス、最近、会えないから心配だったの。小さい頃からずっと一緒だったのに……ねぇ、ランス、私……ランスの事、好きなんだよ』

『な、突然、何を言って!?』

『なんか、ランスに言えるのは今しかないと思ったから……何だか、ランスが遠くに行ってしまいそうな気がして……だから』

『くっ!』ダッ

『あ、ランス?どこに行くの!?ランスーーーーーっ!』



「リーナ……」



ガサガサッ

俺はポケットから、念の為に渡されていた、レブさんからのメモ書きに目を通す。

万が一の為に、どうすればいいのか、渡されていた流行はややまいに対するレブさんの見解書だ。


レブさん、俺に力を貸してくれ!



(騎士は時として、自分を犠牲にしても守るべきものがある。その時、お前の覚悟が試されるのだ。騎士を目指すなら、お前はその事を忘れてはならない)



キッ


見てろ、ハル。

俺は、やってやる!


必ず騎士団を止め、領主を説得してみせる。


そして、レブさんに褒めて貰うんだ!!



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