第27話

◆レイテア子爵領

近隣の村ベナティア


エレノア▪フォン▪マデリア 視点


ガラガラガラッ

皇都を立ち、二つの宿場町で、それぞれ一泊した私達がレイテア子爵領に到着したのは7日後の事。勿論、急ぎの案件である為、途中での野宿、5日も入れてである。


皇国は無駄に広く、特にザナドウの国境近くは魔境である魔の森と山脈がそびえ、何もない辺鄙へんぴなところ。

正直、参りたくはありませんが、皇太子が謹慎中の中、皇国の一大事とあれば公爵家であるわたくしが対応するのは当然の事。勿論、本来は当主たる父が赴くべき事なれど、一大事とはいえ他領のまつりごとに関わることなれば、他領主が乗り込む訳にもいかない。


「エレノア様、子爵領に入った様です。このまま目的地に向かいますか」

「アベル、あの子はどうするのかしら」


私は後ろを走るキャロラインの馬車を見ながら、従者であるアベルに聞いた。

今回、ファストマン公爵領で発生した流行はややまいは、彼女の領の村に飛び火した。本来、私から彼女に指示し、騎士団を手配すれば良いのだが、何分、未熟な彼女に有って、わたくしが監督せざるを得ない状況になっている。


「……領主経験も無く、その気概きがいもありません。に何かを期待するのは、いささかこくかと」

「私のパートナーに酷い物言いね」


アベル、百九十センチの背丈、茶髪で整えた髪は清潔感があり、質素ではあるが、いつもビシッと整えたスーツを着込む有能なわたくしの従者。わたくしが六歳の頃より、共に育った信頼できる者で、ある意味、家族より心が通じた者でもある。

だからこそでもあるが、わたくしに近づく者全てに対し、その評価は辛辣しんらつだ。


「私はいままで、エレノア様のなさりように口を挟んだ事は御座いません。ですが、今回は言わせて頂きます。は、お嬢様の品位を著しく損なう者です。早期に関係を断つべきかと」

「アベル」



「出過ぎた事を申しました。申し訳御座いません」

「彼女は、ジーナス皇太子との婚約破棄を成立させる時、皇城と私の取り決めで引き取ったのよ。私の判断だけではないの。それに子爵令嬢に翻弄ほんろうされた皇太子も問題で、それを封殺する為には彼女を私が引き取るしかなかったのよ。さもなければ彼女は、冤罪を宛がわれた末、殺されていたわ」



「まさか彼女を皇太子に仕向けたのは、皇城との何らかの取り決めでですか?」

「アベル、そこまでよ」



「申し訳、御座いません。今後、この件は忘れます」

「それでよいわ」


ふう、有能で鋭い洞察力を持つアベル。今回は全てを話せてないので、やはり何か気づいたのね。有能過ぎるのも問題だわ。貴方に全てを話せれば良かったのだけれど、件だけは平民である貴方を、巻き込む訳にはいかないのよ。


「あら、馬車が止まったようね?目的地に到着したのかしら?」

「前走する騎士団が止まりました。まだ目的地でもありませんが、何か、ありましたでしょうか?」



「分からないわね。とりあえず、降りてみましょうか」


騎士団とわたくし達の馬車は、街道を一列縦隊で進んでいた。騎士団は、わたくし達の馬車の前後を護衛する形で組まれていたが、前走する騎士団が止まり、わたくし達は何もない街道に立ち往生しているようだ。


わたくしが馬車を降りると、後ろの馬車の方から、怒鳴り合う声が聞こえてきた。


『お嬢様、どうか、お考え直し下さい。そのような無体な事をしては、いけません』

『カーネル、どうせ結果は同じなのよ!時間をかけても面倒なだけなの。こういう事は、犠牲はつきものなのよ。なんで否定するのよ!?』



「何かしら?」

「子爵令嬢と、その執事のようです。何か揉めているようですが?」



「執事と何を揉めるというの、しょうがない子ね」


ふう、さっそく、お守りが必要かしら。本当に困った子。こんな騎士団に囲まれた中で怒鳴り合うなんで、恥を晒しているようなもの。相変わらず思慮が足らないわね。

わたくしは、彼女の馬車の方に向かうと、馬車の前で声を上げるキャロラインに言う。


「キャロライン、令嬢がこのような場で声を上げるなんて、はしたなくてよ」

「お、お姉様?!」



「どういう事なの?」

「そ、それが、その……」


はあ、彼女じゃらちが明かないわね。わたくしは、有能と判っている彼女の執事に、目で問いただす。


「はい、私が、お嬢様に代わり説明致します。実は領兵から報告があり、ファストマン公爵領で流行はややまいに掛かり、その後、レイテア子爵領の町に戻った商人達は町には入らず、町外れの商人の屋敷に滞在している事がわかりました。直ぐに屋敷を包囲、隔離できた事は不幸中の幸いです。ですが……」

「何か、あったのね」



「腹痛と下痢で苦しんでいた商人の御者が、三人とも今朝方、亡くなった様です」

「!!」



やはり、流行はややまいの可能性が高いわね。


「それで彼らが接触したのは、やはり、ベナティア村だけの様です。すでに領兵に包囲隔離させております」

「そう、それで何を怒鳴り合っていたの?」



「そ、それが……」


執事が口ごもる、何を言っていたの?キャロライン。わたくしがキャロラインを責める様に見ると、キャロラインがおどおどしながらも、喋りだす。



「わ、私は間違っておりませんわ、お姉様。村の住民は、患者と一緒に、直ぐに燃やすべきだと言っただけですわ!」

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