第26話 覚悟

◆レイテア子爵領 近隣の村ベナティア

(ファストマン公爵領 北部の町カナンにレブン達が出立した直後)


ランス 視点



はあ、はあ、はあ、はあ、はあ

タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ

バタンッ「母ちゃん!、マイリ!」


「ランス!?」

「お兄ちゃん!」


レブさんに言われ、流行り病の騒動が収束する迄、俺たち家族でレブさんの小屋に一時避難する事を決めた俺は、その日の夜にマイリと母ちゃんの待つ村の家に戻った。


二人は丁度夕食の準備中で、幸い、家の中にいた。俺は直ぐに事情を話し、翌朝、レブさんの小屋に向かう事を伝える。


黙って俺の話しを聞いていたマイリと母ちゃんは、俺に言う。


「隣のリーナちゃんはどうするの?あなた、幼馴染みで仲が良かったわよね」

「兄ちゃん、アルトの家も連れていきたい」


「リーナ!?」



「それに 従姉妹いとこのリリイにも言わないと」

「ベンおじさんは?」


「ま、待って、待ってよ。念のために避難するだけだし、そんなおお人数で居なくなったら、村じゅうで騒ぎになっちゃうじゃないか。話したよね?こっそり俺達だけで村を離れるって……リーナには!」


くっ、リーナは幼馴染みで、そもそも隣のリーナの家とも家族ぐるみの付き合い。連れていきたい。けど。

「母ちゃん、マイリ、別に村が危険になる訳ではないんだ。ただ、閉鎖されて移動を制限される恐れがあるから、念のための一時避難、だから、その、俺達だけで小屋に避難をするんだよ」


「危険がないなら、母さんはこのままでいいわよ」

「兄ちゃん、私は行ってもいいけど、直ぐに戻れるの?」



「わかんない。けど、万が一もある。だから避難をしないと!?母ちゃん、残るって、駄目だよ!」

「無理よ、ランス。村の皆を置いて私達だけ避難は出来ないわ」



「!!」

予想はしていたけど、母ちゃんを説得するには、あの話をしないと無理だ。


「母ちゃん、マイリ、この話には続きがあるんだ。もし、流行り病だと認定されて、村でも病に掛かった人が出たりしたら……俺達、生きたまま、燃やされるかも知れないんだ」


「ランス!?」

「兄ちゃん!!」



「そ、して逃げた村人には、追っ手が差し向けられる。だから、俺達だけで、こっそりでないと、隠れられないんだ……だから」


二人とも顔が真っ青だ。そりゃそうだ。

最悪、村は全滅するんだから。隣のリーナも……リーナも?!

「ランス、レブさんは薬師なんでしょう。レブさんに騎士団を説得して貰えないかしら」


「そうだよ、レブさんなら騎士団も説得出来るよ」


「レブさん達は、ファストマン公爵領、北部の町カナンの人達を助ける為、出立して居ないんだ」



「カナンに?」

「え、居ないの?!」

「……」

やっぱり、母ちゃんを説得するのは無理だ。

こうなったら、もう一つのプランを実行するしかない。



「母ちゃん、マイリ、分かったよ。あとは俺が何とかする!」

「ランス?!」

「兄ちゃん、何とかするって?」



「俺が……騎士団を説得する」

「ランス!」

「レブさんでもない、兄ちゃんが説得!?そんなの無理だよ!」



「俺がやるしかない。レブさんからは万が一に備えて、説得方法を聞いているから、何とかしてみせる!」

「ランス、母さんも一緒に行くよ」

「あたしも、兄ちゃんと一緒に行く!」



「ごめん、二人共。ここで待っていて欲しい。俺は騎士を目指してるんだ。だから、国の騎士団なんか怖くない。必ず説得して見せる。だから、信じて待っていて欲しい」


「……ランス、立派になったね。お母さん、嬉しいよ。やっぱり、お前は父さんの子だ」


「兄ちゃん、分かった。でも無理しないで」



母ちゃんが涙ぐみ、マイリが心配そうに俺を見る。

不安しかない。

けど、俺が頑張るしかない。



(騎士は時として、自分を犠牲にしても守るべきものがある。その時、お前の覚悟が試されるのだ。騎士を目指すなら、お前はその事を忘れてはならない)



ハルに、剣の稽古中に言われた言葉、今になって分かったよ。こういう事だったんだな。


見てろ、ハル。

俺は必ず、騎士団を説得してみせる。



そして必ず騎士に成るんだ!

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