第17話 流行り病


「ごめん、ハルさん。先日までは確かにザナドウに向かうつもりだったけど、一時的なつもりだったんだ。ボクはまだ、この国でクライアス皇国、やる事があるから」


「やる事?君をこんな目に合わせている国で、やる事とは?」


「それは……」


バタンッ

「レブさん、大変だ!」

「ランス君?!」

「!?」


なんだ?

夕方に帰ったばかりのランス君が、血相を変えて駆け込んできた。どうしたんだろう?


「ランス君、一体どうしたんだい?」


「俺達のベナティア村のある、レイテア子爵領の隣領、ファストマン公爵領の町で、流行はややまいが発生したんだ!子爵領から向かった商人の一団が帰ってきて、話してたんだけど」


流行はやりやまい!?」


「皆、倒れ苦しんでいたって言っていた。それで領主様が、王都から戻られる事になっていて、それまでに万が一、村で流行はややまいが発生したら、村が隔離かくりされるって村長が言っていて、取り敢えず村人は全員、村から出るなって!」


「不味いな」

「え、ハルさん?」

「なんだよ、ハル?言いたい事があるなら、ちゃんと言えよ!」


ハルさん、分かる。分かるよ、ハルさんが言いたい事。でも、それを今、ランス君の前で言うべき事ではないと思う。


「もし、本当に 流行はややまいだった場合、村の人間は……」

「ハルさん、駄目だよ!!」

「レブさん!?」


はあ、ランス君が、不思議そうにボクを見てるけど、これはランス君に聞かせられない。


「コホンッ、とにかくまずは、どんな流行はややまいか、確認が必要だね。それが分からないと、どんな薬を用意すればいいのか、分からないからね」


「あ、それなら商人が言うには、皆、腹を抱えて苦しんでいたらしいんだ」

「腹を?」


「うん。あと、下痢と発熱があるって」


腹と下痢と熱……それって、もしかしたら。


「あ、そうだ。腹って言えば、村に来た商人の御者が、腹が痛いって言ってたけど……」


「「?!」」


何だって!?



◆◆◆



◆ファストマン公爵領

ファストマン公爵邸


「……という事で、我が公爵領の外れにあるラステラという町で、流行はややまいが発生している可能性があります」

「何としたことか。……我が公爵領で 流行はややまいとは。して、町は」


「は、皇国法に基づき、ラステラ町は隔離の為、町に繋がる全ての街道を封鎖しました。また、町も住民が外に出ないように、その周りを領兵を派遣し、完全に囲みしました。犬猫であっても、町から出るのは不可能です」


燕尾服の執事の男が、正面の執務机に座する、顎ヒゲの紳士に事の次第を伝えていく。

顎ヒゲの紳士は、この公爵領の領主、ベルラート▪フォン▪ファストマン公爵である。


「それで、薬師の派遣は?」


「それがその……薬師ギルドに依頼したのですが、現在、手空きの薬師が居ないとの回答でして……」


「どういう事か?!」


「町の閉鎖前に、町を訪れた商人がいたようです。この商人が町の現状を、隣領のレイテア子爵領、ベナティア村で話しをしていったらしく、流行はややまいの情報が、レイテア子爵領の町にまで広がり、薬師ギルドに情報が伝わったようです。それで、薬師ギルドにいた薬師達が、町への派遣を断っているのではないかと……」


ガタッ

「なんとした事!?では、治療の薬師を派遣出来ないという事ではないか!」


ファストマン公爵は、立ち上がって叫んだ。



◆◆◆



◆クライアス皇国皇都

レイテア子爵家皇都別邸


レイテア子爵令嬢、キャロラインは、執事カーネルの報告を受けて、頭を抱えていた。


「はあ?流行はややまい!?冗談じゃないわ!お父様に言ってよ!私に対応出来る訳ないわよ!」


「……キャロライン様、お忘れですか?お父上は病気療養の為、避暑地の別邸に居られるのです。領主代行のキャロライン様が対応しなければなりません」

「ならカーネル、お前が対応しなさいよ!」


「キャロライン様……」


ガタンッ、キャロラインは執務室の机に前のめりにうずくまると、顔を伏せたまま、カーネルに言う。

……なんでお父様の留守中に、こんな後から後から、厄介事が……」


「お嬢様、決済業務は厄介事ではありませんよ」

「だから、お前がやれば……はぁ、もういいわ。まあ、お姉様に会わずにすむ大義名分になるからいいかしら」


「?」

また、キャロラインの『お姉様』の言葉に、首を捻るカーネル。


その時、執務室に一人のメイドが現れた。

「お嬢様、お客様が来られてお出でです」


「お客様?おかしいわね。予定はないのだけれど?」


キャロラインはカーネルに目で訴えたが、カーネルも知らない客が来る事についてと、首を振ってアピールした。


意を決したキャロラインは、執事のカーネルと共に子爵邸の玄関口に向かう。

そして、玄関口にいる人物に、キャロラインは固まる事になる。

「え、ええっ!?」


「うふふ、最近、学園を休んでいるから、わたくしの方で来ちゃいましたわ」




「お、お姉様……」


そこに居たのは公爵令嬢、エレノア▪フォン▪マデリア、その人であった。

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