第9話 少年ランス

「駄目だよ、そんなの!俺が許さない!」


くそ、くそ、くそ、何でこんな事に!?

駄目だ、駄目だ、駄目だ、賢者の姉ちゃんは俺だけのもんなのに。何でコイツは出て行かないんだよ!

こんな事なら、あの森に置いてくれば良かった。ちくしょう!



▩▩▩



◆二日前

ランス視点


「ただいまーっ」

肩までの癖毛茶髪に、くりくり目のブルーの目、俺の妹、マイリが元気な声で家のドアを開けた。


「は、マイリ?今まで何処に行ってたんだ?また、魔獣よけ香の注文が入って、母ちゃんと俺がてんてこ舞いだったんだぞ!?」

「あ、ごめんなさい。その、賢者さんのところに……ほら、隣国の兵士が村に現れたでしょ。その件で話を聞きに」


「だからって、一人で行くのは危ないじゃないか。それに……」

最近マイリは、賢者さんのところに勝手に行っているようだ。あまり行くのは、賢者さんの生活を脅かしかねない。これは、言わないと不味いな。


「それに、賢者さんから極力会わないって言われてるだろう?あまり行くと、賢者さんに迷惑がかかるんだ。しばらく行くのは控えるように。分かった?」

「え~っ、そんなぁ?!」


「マイリ、そうですよ。いくら賢者さんが教えてくれた魔獣避け香を持っていたとしても、危険なのは魔獣だけじゃないんですからね。今後は一人で森に行くのは禁止です。いいですね?」

「か、母ちゃん、そんなぁ?!」


ふう、母ちゃんにまで言われて、マイリは凹んでるけど仕方ない。


実は領主お抱え薬師様から、魔獣避け香のレシピの公開を求められてるんだ。一応、賢者さんからは、俺達が考案したって事で構わないと言われているけど、レシピの公開には、もう一度、賢者さんに了解を取らないといけない。マイリの事もあるし、一度、賢者さんのところに訪問するしかないかな。

と、いうか、訪問したい。……ずっと我慢してたんだ。


「くぴ~っ、くぴ~っ、むにゃむにゃ」


「ああ、マイリは寝ちゃったのね。そういえば、もう外は日が落ちているわ。だいぶ歩いたのかしら?」

「うん、賢者さんのところまで、村からは片道、一時間はかかるからね。子供の体力じゃ、結構疲れるよ」


「はあ、魔獣避け香を作るのはここ迄にしましょう。夕飯作りに入るわね。ランスは庭から薪を取ってきてくれる?」

「ん、分かった」

俺は、薪を取りに行こうと立ち上がると、食卓の机に突っ伏しているマイリのそばを通って、裏庭に向かう。


「むにゃ、むにゃ、けんじゃさん、ミルクっ…………」

「……っ、は??」

妹の寝言に、思わず振り向いちゃったよ!

おい、妹よ。お前はいったい何の夢を見てるんだ!?ミルクってなんだ?



▩▩▩



翌日、魔獣避け香作りを終わらせた俺は、マイリを母ちゃんに預けて、賢者さんの猟師小屋目指し、魔森に入って行った。まもなく、賢者さんの猟師小屋が見えてきた。俺は猟師小屋のドアを叩く。


ドンドンッ

「賢者さん、俺です。ベナティア村のランスです。お話があるので参りました。どうか、このドアを開けて下さい」

ドアを叩いてから、しばらく賢者さんを待っていたが、小屋の中に人の気配はない。出掛けているのか?

ふと、森の空を見上げる。


「あの太陽の位置……確か、いつも午前中は薬草取りだと言っていた。方向は隣国方面の森だと…」

待っていてもいいけど、何だろう。胸騒ぎを感じる?

早く賢者さんを見つけた方がいい気がする。

嫌な予感を感じた俺は、隣国ザナドウ方面の森の奥を目指し、歩きだした。


「きゃああっ………」


しばらく進むと、何やら女性の悲鳴が聞こえる??!この声!

「賢者さん?!何処です、ベナティア村のランスです。居たら返事して下さい、賢者さん!!」


何処だ?賢者さん!俺は声のする方に駆け出した。すると……

「賢者さん!?」

「ラ、ランス君、た、助け、て!重い……」


何だ?

賢者さんが男に、背中から押し潰されている??!コイツ!

「この野郎、賢者さんを離せ!」


俺は、賢者さんを押し潰している男を引き剥がそうと、男の肩を引上げようとした。


「ま、待って!こ、この人、気絶してるから。背負って運ぼうとしたんだけど、重くて、それに……ああんっ」

「け、賢者さんっ?」


コイツ、気絶してるの?でも、なんて声を出してるんです、賢者さん!?え、ええ???


「……掴まれてるの………あっ」

「へっ?」

賢者さん?うわっ、なんか艶ぽく悶えてるんだけど??って、掴まれてる?

何を?


「………を」

「はいっ?」


わっ、賢者さん、顔が真っ赤になってって、うわああ、凄く色っぽいんだけど!?




「胸を掴まれてるの!!!」

「え………」




はああああーーーーーーーーーー???!




「………こっこの、この野郎ーーーー!!」




ボカッ

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