第8話 いそうろう

◆魔森の猟師小屋

とある男の視点


なんだ?

目の前の、私の命の恩人であるかも知れない平民の少年なんだが、何故だろうか?心なしか、私を敵視している様に感じる。気のせいだろうか。


「すまない。私が君に、何か気に触る事をしただろうか?だとしたら、申し訳ないが」

「気に触る事だらけっ、………な、何でもない。何も、気にさわってないから、さっさと此処から帰れ。これ以上、賢者様に迷惑かけるなよ!」


けんじゃさま……賢者様と言っているのか?そして私が、賢者様に迷惑を掛けていると?

まさか、賢者が存在する!?

「すまない、その、賢者様とは?」

「はああ?!あんたの命の恩人だよ!」


「?!」

なんと、命の恩人はこの少年ではなく、賢者様という人物だったらしい。ならば、是非お会いしてお礼を言いたい。


「頼む、その賢者様に私を会わせて貰えないだろうか」

「はあ?あんた、賢者様は忙しいんだ。それに、あんたは嫌われてる。会わせるわけないだろう?!」


「嫌われっ、何故……?」

「何故だろうな、って、そんな事はどうでもいいんだ。さっさと出ていけばいいんだよ!」


嫌われている?!

そんな……私が何か、粗相そそうをしてしまったのだろうか。であるなら、なおさら会って弁明の機会を貰わなければ!


「な、ならば!尚更、賢者殿に会わなければ納得出来ない。賢者殿は何処いずこられるか!?」

「ああ?わかんねぇ奴だなぁ?!出てけって、言ったら、出」


「何?、どうしたランス君?」

「あ、け、賢者様!」

「賢者!?」


賢者様。男、な、のか?賢者といえば、男性の筈。しかし、この声はあの時の?!

間もなく現れたのは、男性用のローブを頭から深く被り、顔を隠した人物だった。

な、顔がよく見えない?!

何故、顔を隠す?

しかし、この声!なんとしても顔を見てみたいが……


「賢者のね、あ、いや、賢者様、コイツがどうしても賢者様に会いたいって、出て行かなかっ、あ?!」

「賢者殿!まことに申し訳ない。助けて頂き、感謝している。それと謝罪を!」


「謝罪?」

「そうだ。私が貴方に、何か粗相そそうをしてしまったようでっ……違うのか?」


なんだ?

さっきの少年が、音を立てずに離れようとしている?


「ランス君!」

「わっ、ははい!?」


「君、この人に何を言ったの?この人、何か、私に粗相そそうをしたと、思い込んでるんだけど?」

「さ、さあ?なんででしょう??」


「…………ランス君?」

「あああ、スミマセンでしたーっ!間違いだったようです。さっきの事、忘れて下さい」


いきなり少年が、頭を下げ謝ってきた。

するとさっきの話しは、賢者の預かり知らぬ事だったのか。少年の独断。私は余程、この少年に嫌われているらしい。

いったい、何故なのか?


「ふう、済まなかったね。うちの者が勘違いさせたみたいで」

「あ、いいえ、勘違いならよいのです。それより改めて言わせて下さい。お助け頂き、有り難う御座いました。あのままでいれば、私は死んでいたでしょう。貴方は命の恩人だ」


「いいんだよ、困った時はお互いさまだよ。それで?体調はもうよいのかな?」

「はい、お陰さまで、すっかりよくなりました。賢者様のお陰です」


「なら、良かった。貴方は、二日も目を覚まさなかったんだ。貴方の家族も心配しているでしょう。直ぐに出て行かれるがいいよ」

「二日……い、いや、それでは余りに礼儀を欠きます。貴方に何か、恩を返したい。だが、今は手持ちも無い。後々、きちんと礼をしたいが、また、ここに来れるか、心許こころもとない。だから、しばらくここで、貴方の手伝いをしたいのだが、許可いただけるだろうか?」


「は?い、いや、見ての通り、手伝いは間に合っているから!?」

う、今度はあからさまに嫌そうだ?!少年も睨んでいる。だが、ここで引き下がる訳にはいかない。

何故か、先程から胸の高鳴りが止まらない。

本来なら、直ぐに本国に帰るべきだが、今、この場所を離れれば、この方に二度と逢う事が出来ない気がするからだ。

ここはなんとしても、この地に居る事を承諾頂き確かめなければ、私は一生、後悔する予感があるのだ。


「頼みます。小屋の片隅でいい。あなたの手伝いをさせて下さい。護衛が必要ではないですか?私は騎士の端くれ、こう見えても、其れなりに訓練を続けてきました。必ずや、あなたのお力になれます、どうか!」


「護衛……か」

よしっ、賢者殿が顎に手を当てて考え出した。あと、一押しか!?



「駄目だよ、そんなの!俺が許さない!」

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