第3話 とある伯爵家長男の話
とある伯爵家長男の視点
私の名前は、ライデン▪フォン▪クロホード。クロホード伯爵家の長男、次期当主である。
実は今、非常に困った問題に悩まされており、一人、執務室で悩んでいる。その困った問題というのは、私の机にある王都からきたこの書面だ。
発送者はジーナス皇太子なのだが、その書面を読んだ結果に今だ頭を抱えている。書面の内容は次のような事だった。
『レブン▪フォン▪クロホードを次期皇太子妃に定めた。ついては速やかなる婚約の承認と、その消息の確認を依頼するものである。◇ジーナス皇太子より』
なんだ、コレ!?
私はいったい何を読んでいる?婚約の承認?誰が?誰と?いやいや、ジーナス皇太子からだから、お相手は女性ですよね?何故それがウチのレブン宛てにくるんだ?はあああ?!
「いったい、これは何の冗談、いや、間違いだ!?」
私の記憶が正しければ、アイツは、レブンは女ではない。我がクロホード伯爵家の三男だった筈だ。ならば、皇太子の間違いであるという事になる。たが、これは王城の官僚の承認を受けた、公的手続きで発送された正式文書だ。ちゃんと各部署の承認印が押されている。慎重な官僚団は、その書類を必ず吟味、確認してから発送するのだ。だから問題点があれば、書面を出した皇太子に再確認をしているはずだ。という事は、皇太子の再承認の上で発送されている。
なお貴族の妻子については、全て皇城での承認が必要で、生まれた子供は国に報告が義務付けられている。例え
おい、それって絶対断れない国家命令書じゃないか!?
『ボクも、お兄ちゃんと一緒に行く!』
『レブン、これからお兄ちゃんは王都の学園に行くんだ。だから、一緒にはいけないんだよ。冬には帰ってくるから、それまで屋敷を守っていてくれ、分かったね?』
かつての過ぎ去りし過去、私の目の前には、目を潤ませ口唇を噛んだ小さな子が震えながら立っていた。長めの銀髪に男の子にしては
だから断じてレブンは男のはずなのだが、もはや、この命令書を止める事が出来ない。あとは本人を捕まえて、ジーナス皇太子に対峙させ、直接取り止めをお願いさせないと、この文書の撤回が出来ないぞ。
「ライデン兄さん!」
「コーウェンか、どうだ?」
金髪、碧眼、デカイ
「駄目だな、ライデン兄さん。何処にもレブンの痕跡がない。アイツ、他に行くところなんか無いはずなのに」
あの学園の夏休み前の終業式の日、ジーナス皇太子に呼び出されたレブン。終業式の終了したホールにて、ファストマン公爵令息、護衛役次期騎士団長ハーベル侯爵令息の立ち会いの元、何があったのか?あの日以来、レブンの姿は、ようとして知れない。
「レブンが消息を立って、すでに二か月だ。皇太子達は、レブンが消息を絶った理由を何か、知っているのかも知れない」
「ライデン兄さん。まさかとは思うけど、ジーナス皇太子が
「おい、コーウェン!滅多な事を言うものではないぞ」
「しかし、薬学馬鹿のアイツが失踪する理由なんて、この命令書面くらいしか考えられないんだが」
確かにそうだ。そもそもジーナス皇太子には、すでにマデリア公爵令嬢と婚約していた筈だ。それなのに、この婚約の申し入れは、いったいなんだ?
「コーウェン、ジーナス皇太子はマデリア公爵令嬢と婚約関係にあった筈ではなかったか?」
「ああ、そうだったんだが、その終業式の後、双方の同意の上で婚約破棄をしたそうだ」
「はあああ?!双方の同意の上?なら、マデリア公爵家は皇太子派から離脱したのか?」
「いや、離脱しない条件付きだったらしい。だから双方の同意の上なんだ」
なんだ、それ?だいたい、この婚約破棄はマデリア公爵令嬢に取っては、大きなマイナスだ。キズ物になったようなものだぞ。マデリア公爵家は何を考えているんだ。
ん?
そう言えば、マデリア公爵令嬢のエレノア様はウチのレブンの資金的パートナーだったはず。
アイツが学園の薬学研究室に入る為、ウチが貧乏で学費も満足に払えないからって自分で作ったポーションなんかを公爵家経由で販売し、それで得た資金で薬学研究科の研究資金に回していた。
本来、国内でポーション等を直接販売する事は、薬師ギルドを通さないと販売できない。そして薬師ギルドに薬やポーションを卸すには、薬師である事が条件なんだ。
だから薬師ギルドに顔が効くマデリア公爵家の力を借りてポーションを販売し、売った資金を薬学研究資金に回していた。
「マデリア公爵家の令嬢なら、もしかしたらレブンの立ち寄りそうなところを知っているかも……」
「ライデン兄さん。そう言えば、さっき、そのマデリア公爵家から何か、書面が届いたと執事のパルマが言っていたけど」
「何?」
マデリア公爵家から?一体なんだ?
間も無くパルマが持ってきた書面は、私達を驚愕させるものだった。
「はあああ?!」
「え、ええっ!?」
執事のパルマが持ってきた書面、それはマデリア公爵家からのレブンに当てた、婚約の申し入れだったのだ。
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