羽ばたけ翼よ、碧空の彼方へ! ~レース鳩と少年と~
みすたぁ・ゆー
序章・豪雨の先に
翼が重い――。
全身の羽という羽が水を吸って、まるで岩でもくくり付けられているかのように重い。さらに冷えによって、どんどん体力が奪われていく。
体もあちこちが痛む。これは今まで激しく打ち付けてきた雨粒たちによるものだ。
そしてそんな状態で飛び続けてきたから、疲労はとっくに限界を超えている。自分でもよく翼が動いているなと思う。
たぶん惰性だけで羽ばたかせている――そんな感じなんだろうな。
だから気を抜いた瞬間、きっと翼を動かせなくなって地面へ真っ逆さま。僕は天国という、雲より何倍も高い場所にある世界へ旅立つことになる。
落下して再び昇るなんて、忙しないし面倒臭いような気もするけど……。
もちろん、そうなる前にどこかで降りて休憩したり羽を乾かしたりすればその心配はなくなる。でもそれはそれで本末転倒。豪雨の中を進んできたのが無意味になるから。
今の僕が勝つためには、ライバルたちが遠回りをしている間に少しでも距離を稼がなければならないんだ。
幸いにもすでに豪雨地帯は抜けた。霞む視界の先に見えるのは、碧色の空と白い雲。チラリと下を見るとそこには見知らぬ街が広がっていて、ここがどこなのか正確な位置は分からない。
ただ、間違いないのは帰るべき場所へ近付いているということ!
だって風の匂い、脳内のコンパス、鍛練で身に付けた経験、そして僕自身にもよく分からない不思議な感覚がそう教えてくれているから。だからそう確信している。
鳩舎へ帰ったらカケルはきっといつものように喜んでくれるはずだ。満面の笑みで僕を迎えてくれて、こっそりとトウモロコシや玄米やピーナツなんかを満腹になるまで食べさせてくれる。
そのあと、カケルはそれを知ったヤマオ爺さんに叱られて……。
「てはは……死ぬほど苦しい時なのに……なんでそんなことが思い浮かぶんだろうな……」
思わず笑みが零れる。状況は変わらないはずなのに、なぜかちょっぴり羽ばたくのが楽になったような気がしてくる。
もしかしたらカケルが僕の無事な帰りを祈っていて、その想いが風に乗って伝わってきたのかも。
――そうだ、そうに違いない! 僕はこんなところで力尽きるわけにはいかないッ!
帰るっ! 絶対に
「羽ばたけ翼よ、碧空の彼方へ!」
僕は自分自身に言い聞かせ、力を振り絞って空気を切り裂いてゆく。するとなぜか羽ばたくごとに翼が軽くなっていくのを感じて――。
あぁ……これは……っ!?
(つづく……)
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