第21話
「前々から一度聞きたかったんだけど、カツユキはどうして冒険者になったの?」
「なんだ?いきなり」
カツユキは何の前置きもなくトモリに質問された事に驚いた。
「いや、あたしが冒険者になった理由はカツユキに話したよね?」
「ああ『困ってる人を助けたい』だろ?」
「うん、でもあたしはカツユキから何も聞かされてないよ」
トモリはカツユキがあまり自分について語らない事が気になっていた。
仕事上、相手の身の上なんて知らなくても大した問題はない。
しかし、トモリは個人的にカツユキの事を知りたいと考えていた。
「だから公平にするために『俺が冒険者になった理由を教えろ』って言いたいのか?」
「『教えろ』までは言わないけどさぁ……」
「……そうだなぁ。良いぜ教えてやるよ」
カツユキは少し考えていたが、トモリの頼みを承諾した。
その返事を聞いて、トモリの顔がパアッと明るくなった。
「本当?」
「ただし、この依頼が終わった後だ」
カツユキは頭を掻きながらそう付け加えた。
「後になって『そんな約束したか?』なんて言うの無しだからね!?」
「分かってるよ。飛竜の野郎をぶっ倒したら必ず教える」
カツユキは苦笑しながらトモリに答えた。
トモリはカツユキにとって『手のかかる妹分』のような存在だった。
「じゃあ『指切り』して」
トモリはカツユキに右手の小指を差し出した。
花火大会の時と同じように、カツユキと『約束』をしようと思ったのだ。
「分かった分かった」
カツユキはトモリの白くて長い小指に自分の小指を絡ませた。
「よぉぉぉし!さっさとこの仕事終わらせよ」
「張り切り過ぎて失敗するなよ?」
トモリはやる気十分だった。
まるでその様子は『おもちゃを買ってもらう前の子供』のようだった。
それだけトモリはカツユキについて知りたいと考えていたのだ。
「早く行こう!カツユキ」
「はいはい」
トモリとカツユキはそんな会話をしながら山を登り続けた。
「……カツユキ!?」
「ああ、近いぞ?」
カツユキとトモリは自分たちが目的地に近づいていると確信した。
モンスターの雄たけびや人々の悲鳴が聞こえるからだ。
二人の足は自然と早くなった。
「カツユキ!あれ見て!!」
「あの馬車、間違いなさそうだな」
トモリが指さす先には豪華な馬車が逃げまどっていた。
他にも馬車はあったが、シゲルから教えられた特徴を持つ馬車はそれしかない。
護衛対象はまだ生きているようだ。
「どうするの?カツユキ」
「こいつを使う」
そう言うと、カツユキは『角笛』を取り出した。
それはモンスターの注意を引き付けるために使われる特殊な角笛だ。
ブオォォォオオオ……
角笛の音を聞きつけた飛竜はカツユキたちを睨むとまっすぐに突撃してきた。
「カツユキ!飛竜がこっちに来たよ!!」
「来させたんだ」
カツユキは角笛を仕舞うと背負った大刀に手をかけた。
魚そっくりの大刀を構えたカツユキは少し間抜けな姿だったが、顔は真剣だった。
いつもの『仕事モードのカツユキ』だった。
「さて、仕事に入るとするか」
その真剣な顔を見て、トモリも槍を構えた。
今から始まるのは、トモリの人生の中でも特に大きな勝負だ。
絶対に負けられない戦いなのだ。
「挟み撃ちにするぞ?どちらかが常にヤツの四角に入るんだ」
「分かった!」
カツユキは、簡単にトモリに作戦を説明した。
最初の頃はかみ合わなかった二人も、今では良いコンビになった。
トモリにはカツユキの意図がすぐに分かった。
「まずは俺がヤツの注意を引き付ける」
「無茶しないでね。カツユキ」
「お前こそヘマするなよ?」
トモリとカツユキは二手に分かれた。
飛竜はカツユキに狙いを絞って走って来る。
角笛を吹いたのはカツユキだからだろう。
「さあ来い!バカでかいトカゲ野郎」
「おらぁっ!」
カツユキは飛竜の噛み付きを大刀で防御した。
飛竜の攻撃は勢いはあるが、どこか粗削りだった。
「(この飛竜、まだ若い)」
カツユキはそう感じた。
この飛竜は人間で言うならば十五歳前後だろう。
まだまだ大人になり切れていない年頃だ。
「甘いっ!」
カツユキは飛竜の攻撃を流すと、横っ腹に一撃加えた。
鱗もまだ、完全には硬化し切っていない様子だ。
「(よしっ!これなら倒せるぞ)」
カツユキはこの戦いの勝利を確信した。
しかし、カツユキは大切な事を失念していた。
「冒険者だ!助けが来たぞ!!」
「今のうちに逃げよう!!」
カツユキの登場を見て、観光客が逃げ出したのだ。
だが、その逃げ方が悪かった。
彼らは飛竜に背を向けて走ってしまったのだ。
「バカッ!そんな逃げ方したら……」
カツユキが観光客を止めたがもう遅かった。
飛竜はカツユキから逃げまどう人たちへと標的を変えてしまった。
飛竜の牙が無力な人々へと向けられた。
「クソっ!間に合わねぇ!!」
カツユキが『光爆弾』を投げようとした時だった。
「フンっ!」
「トモリ!!」
トモリが観光客と飛竜の間に割って入ったのだ。
タワーシールドでトモリはしっかりと飛竜の牙を受け止めた。
「ここから先は、行かせない!!」
しかし、トモリは飛竜の武器が牙だけではない事を忘れていた。
「よせ、トモリ!一人じゃ無理だ!!」
「あたしだって、冒険者なんだから……」
しかし、トモリは飛竜の武器が強力なアゴだけではない事を失念していた。
飛竜の口から灼熱の炎が吐き出された。
「……カ……はっ!?」
「トモリィィィイイイーーー!!!」
カツユキはとっさに光爆弾を投げて飛竜の目をくらませ、トモリを抱えて隠れた。
トモリの身体は炎に焼かれて煙を立てていた。
「トモリ!しっかりしろ!!トモリ!!!」
「カツ……ユキ……?」
カツユキの必死の呼びかけにトモリはかすかに返事をした。
瀕死の重傷を負ったトモリには、もう目が見えていなかった。
「バカ野郎っ!!」
「……ゴメン……カツユキ」
カツユキはトモリの傷を見て確信した。
もう、トモリは助からないと。
「しゃべるなっ!」
「あたし、いつもカツユキの足ばっかり引っ張ってるね」
「そんな事、気にするな!!」
カツユキはトモリを救うために必死に持ち物の探った。
しかし、探せば探すほどトモリが絶望的な状況だと分かった。
「……ははっ」
「何、笑ってやがるっ!!」
「普通……こういう……時は『そんな事ない』って言う……ものだよ?」
トモリの声は次第に小さく途切れ途切れになって行った。
命の灯が消えかけているのだ。
「うるせぇっ!」
「カツユキ……と、見た……花火……もう、一度……」
「ああ、来年も見るんだろ!?だから……死ぬな……」
「……」
「トモリ?トモリっ!?」
カツユキはトモリに何度も何度も呼びかけた。
しかし、トモリが返事をする事はもうなかった。
「何でなんだよ!?どうしてだよぉぉぉおおお!?」
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