第22話
カツユキの目から熱い涙があふれた。
カツユキは動かなくなったトモリを抱きしめた。
鼻から人の焼ける臭いが入った来たがそんな事はどうでもよかった。
「何が『銀等級の冒険者』だよ!何が『英雄』だよ!!」
カツユキは、実は自分が銀等級の冒険者だと言う事を密かに自慢にしていた。
他の冒険者から羨望のまなざしで見られる事に悦を感じていた。
自分は優秀な冒険者だと思いあがっていたのだ。
「結局、何も護れないじゃねぇか!?」
カツユキが自分の思い上がりを恥じている時、飛竜の咆哮が聞こえた。
光爆弾の効力が切れたのだ。
「うるさい!黙ってろ!!」
カツユキは飛竜の右目に大刀を振り下ろした。
飛竜は片目を失った痛みで悶絶した。
「……ろす」
カツユキの中で相棒を失った悲しみが変化していた。
「ぶっ殺してやるっ!!」
悲しみは怒りに代わり、怒りは憎しみを呼んだ。
「でやぁぁぁあああ!!!」
憎しみに身をゆだねてカツユキは大刀をふるい続けた。
「おらぁぁぁあああ!!!」
その姿は『歴戦の勇者』ではなく、暴れ続けるただの『狂戦士』だった。
「くたばりやがれっ!」
カツユキが飛竜に致命の一撃を叩きこもうとしたその時、飛竜が舞い上がった。
「クソっ!飛びやがったか」
「逃げろ!モンスターがこっちに来るぞ」
飛び上がった飛竜の姿を見て、観光客たちがバタバタと逃げ出した。
その姿は飛竜に『襲ってくれ』と言っているようなものだった。
「ちっ!相変わらず目立つ逃げ方しやがって」
カツユキは唾を吐き捨てたが、観光客を見捨てるわけには行かなかった。
「戦いにくいったらありゃしない」
カツユキは襲い掛かる飛竜から観光客を護りながら戦う事を余儀なくされた。
しかし、頼れる相棒を失ったカツユキではそれは至難の業だった。
「ぐ!?クソっ!!」
カツユキが苦戦している時、聞きなれた声が聞こえた。
「カツユキ!動きが単調になってるよ!?」
カツユキは声の方を向いた。
そこに立っているのは、間違いなくさっき息を引き取ったはずの相棒だった。
「トモリ!?どうして生きてるんだ?」
カツユキにはなぜトモリが生きているのか理解できなかった。
しかも、トモリはただ生きているだけではない。
「しかも、傷が治ってる」
なんと、トモリは服以外は無傷だったのだ。
まるでボロボロの服を後から着せられたかのようだった。
「よく分からないけど気が付いたらこうなってた」
「(なぜだ?どうしてトモリの傷が治った?)」
トモリは平気そうにしているが、カツユキはトモリの事が心配でたまらなかった。
確かに彼女はカツユキの腕の中で亡くなったはずだ。
「(あれだけの傷が治るなんて、竜人族の『秘薬』くらいだ)」
カツユキは飛竜と戦いながら原因を考えた。
「(この場にそんな物があるわけがない)」
トモリも焼け焦げてボロボロの服を着たままカツユキの戦いに参戦した。
「(いや、そもそもあの傷は間違いなく致命傷のはずだ)」
カツユキはトモリの身体をじろじろ見ながら考えた。
トモリの身体には傷一つない。
「(どうしてトモリは復活したんだ?)」
トモリはカツユキが自分の身体を凝視している事に気が付かなかった。
はたからは『カツユキがはだけたトモリの身体を盗み見ている』ように見えた。
しかし、当のカツユキは真面目だった。
「(……復活……蘇る……蘇生する……)」
カツユキは頭をフルに活用してトモリが生きている理由を考えていた。
「(……生き返る)」
そこまで考えた時、カツユキは『異教徒の聖地』へ行った時の事を思い出した。
「ん?」
カツユキは温泉に立札がある事に気が付いた。
立札には『岩蝦蟇の油が溶けていて生き返る』とあった。
「生き返る……ねぇ。疲労回復って書けば良いものを」
カツユキは鼻で笑った。
「あ~~生き返る」
「あっ!」
「どうしたの!?カツユキ」
カツユキが突然、大きな声を出したからトモリは驚いた。
トモリはカツユキが何か重大なミスをしたのかと思った。
「分かったぞ、トモリ。お前が生き返ったわけが」
「何?どうしてあたし回復したの?」
「回復したんじゃない!生き返ったんだ!!」
「……どういう事?」
トモリにはカツユキの言っている事の意味がイマイチピンと来なかった。
『生き返る』とは何の事だろう?
「俺たちは『岩蝦蟇の加護』を受けていたんだ」
「『岩蝦蟇』って砂漠地帯で祀られてたモンスターの?」
トモリも岩蝦蟇の事は覚えていた。
カツユキから密かに教えてもらった異教徒たちの神様の事だ。
「そうだ。あれは本当に神様だったんだ」
「ちょっと、分かるように説明して?」
トモリにはカツユキの言っている意味が全然分からなかった。
岩蝦蟇が異教徒の神様なのは間違いないが、それと生き返るがつながらなかった。
「説明はこいつを倒してからだ!」
「どうやって倒すの?」
トモリは生き返ったが、それで状況が良くなったわけではない。
観光客はまだ残っていて、トモリはそれを護らなくてはいけない。
カツユキだって、それに気を配りながら戦わなくてはいけないのだ。
「大丈夫だ!……多分」
「多分!?」
カツユキは自信があるようなないような口調でトモリにアイコンタクトを取った。
トモリには不安でならなかった。
「(こうなったら一か八かだ)」
カツユキは覚悟を決めた。
あとは『岩蝦蟇の加護』とやらに賭けるしかない。
「行くぜぇ!トカゲ野郎!!」
カツユキは飛竜に正面から突撃した。
飛竜はカツユキめがけて灼熱の火炎を吐きかけた。
「あっちゃぁぁぁあああ!!!」
カツユキはひるむ事なく火炎に突っ込んだ。
もちろん、カツユキは火だるまになってしまう。
普通なら、もうこれで一巻の終わりだ。
「カツユキぃぃぃいいい!!!」
炎に飲み込まれるカツユキの姿を目の当たりにしてトモリは叫んだ。
冒険者としての経験の浅いトモリから見ても今の一撃は致命傷だった。
自分がついさっき経験したのだから間違いない。
「大丈夫だ!」
しかし、トモリは信じられないものを見る事になる。
火炎の中からカツユキが飛び出してきたのだ。
そして、そのままカツユキは飛竜の脳天に大刀を突き立てた。
「ギェアアアァァァアアア!!!」
頭に大刀を深々と刺された飛竜は絶叫した。
苦しみのあまり、のたうち回り暴れ狂った。
しかし、頭に刃物が刺さって無事でいられる者など居るはずがない。
やがて飛竜はその場に倒れこみ、やがて眼から光が失われた。
「よっしゃぁぁぁあああ!!!どうだ!?」
カツユキは息絶えた飛竜の頭に片足を乗せると天高く拳を掲げた。
トモリとカツユキは飛竜に勝って見せたのだ。
しかも、依頼通り観光客を護りながら。
「カツユキぃぃぃいいい!!!」
トモリはカツユキに駆け寄った。
カツユキが生きている事を一秒でも早く確かめたかったのだ。
二人は互いがこの世にいる事と勝利を確かめようとした。
しかし、残念ながらそんなに上手くはいかなかった。
ズルッ
と言う音を立ててカツユキの腰から鎧が落ちた。
つまり、カツユキの『局部』が露出したのだ。
トモリはその露出した『男性自身』とモロに対面してしまった。
「カツ……ユキ……」
「どうした?トモリ」
しかし、カツユキは自分が全裸だとこの時、気が付かなかった。
自分がトモリに『珍宝』を丸出しにしているとは思わなかったのだ。
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