第14話
カツユキとトモリは南の山へ行く前にちょっとした休暇を取る事にした。
「何か、こんな風にのんびりするのは久しぶりな気がする」
「ゆっくり羽を伸ばしておけよ。この後、しばらく仕事が続くからな」
カツユキとトモリは休暇を利用して海に来ていた。
太陽がさんさんと降り注ぎ、白い砂浜が輝いていた。
水着姿のトモリも普段より大胆になっていた。
「こんなところに来て良かったのかな?」
「どういう意味だ?」
「だってここ、お金持ちが来るところでしょ?お金あるの?」
「ああ、そんな事か。金なら十分あるから安心しろ」
「そんなに儲かってたっけ?」
「冒険者なんて言うのは金持ちになりたいヤツがなる仕事なんだ」
「でも、あたしが知ってる冒険者はそんなにお金持ってなかったよ」
「組合で昼間から飲んだくれてる連中の事だろ?あいつらは仕事が無いんだ」
「仕事だったら年中あるでしょ?」
「いいや、あの手のやつらはガラは悪いが腕が立たないから仕事が来ないんだ」
「だからいつも組合に居るんだね」
「そう言う事だ」
カツユキはドリンクを一口飲んだ。
「さて、景気の悪い話はこれくらいにして稼いでる俺たちは楽しまないとな」
「カツユキ、海で泳ごうよ!海で!!」
「そんなガキじゃあるまいし……」
「えいっ!」
トモリの掛け声と同時にカツユキの顔面に海水がかけられた。
おかげでドリンクに海水が入ってしまった。
「てめぇ……!!」
「や~い、ここまでおいで!!」
「待て!この野郎!!」
カツユキはトモリの安い挑発に乗ってトモリを追いかけ始めた。
白い砂浜を二人の男女がじゃれあいながら駆けて行く。
はたから見たら完全にカップルだったが、二人は全然そんな事気付いていなかった。
「これでも食らえ!!」
「キャ~~!!」
二人は夕方になるまで海で遊びまわった。
「あ~~、腹減った」
カツユキとトモリは水着から着替えると祭りに繰り出した。
今日は商売繁盛を祈願するお祭りで出店が所狭しと並んでいる。
店からはトウモロコシやイカ等が焼けるいい匂いが流れてくる。
「カツユキ、何から食べる?」
「そうだなぁ、やっぱり定番の『焼きそば』からだな」
カツユキとトモリはソースに香ばしい匂いを頼りに店を探した。
祭りにはたくさんの人が訪れており、店を探すのは一苦労だった。
「お、あったあった」
「結構にぎわってるね!」
トモリとカツユキは一番人気がありそうな出店に並ぶ事にした。
「あ~、早く食いてぇ」
「ねぇ、カツユキ?」
「ん?どうした?」
「こう言うところで買うと高いんじゃない?」
「バーカ、こういう時にそんな事を気にするんじゃあない」
「でも……」
「金はお守りじゃあない。使うべき時に使わないと意味が無いんだよ」
「今は使うべき時なの?」
「もちろんだ。今は『次も頑張るぞー!!』って英気を養う時だ」
「……そっか、そうだね!」
そんな会話をしていたら、カツユキたちの順番が回って来た。
「いらっしゃ~~い」
「焼きそばとお好み焼きを一人分ずつくれ。紅ショウガマシマシでな」
「はいはい、すぐ出来るからね!」
描人は慣れた手つきで焼きそばとお好み焼きを作り始めた。
お好み焼きには『麺』が投入されていた。
「ここの店は注文されてから準備するんだな」
「準備してたけど、全部売れちゃったんですよ」
「ああ、なるほど。繁盛してんだな」
「あと、四十秒待っててね!」
描人は無駄のない洗練された動きで調理していった。
小柄な描人がリズミカルに焼きそばを焼く様子は少し愛くるしかった。
「はい!お待ちどお!」
「ふぅ~~食った食った」
「カツユキ、今度はあれに行こ!」
「……金魚すくいか」
トモリが指さす先には『金魚すくい』の出店があった。
カツユキはトモリに手を引かれて出店へと足を運んだ。
「へい!いらっしゃい!!」
「見て!カツユキ、可愛いよ」
「『今は』な」
カツユキは意味深な事を言った。
「どういう意味?」
「こいつら、育ててるとドンドンデカくなりやがるんだ」
「何でそんな事、知ってるの?」
「……昔、妹にせがまれて獲ってやった事があるんだ」
「カツユキ、妹さんが居るんだ」
「……まあな」
「どうだい?お二人さん、ちょっと遊んで行かないかい?」
「あたし、やります!」
トモリは金魚すくいに挑戦する事にした。
小さな金魚が水槽に所狭しと泳いでいる。
見た感じでは簡単そうだった。
「よ~し、見ててねカツユキ」
「ああ、お手並み拝見といこうか」
トモリは椀と『ポイ』を持つと、金魚を上から凝視した。
ポイとは金魚をすくうために使う紙を張った円形の枠の事だ。
その目つきは『空中から魚を狙うカモメのそれ』と全く同じだった。
「はっ!」
トモリは小さい掛け声とともにポイを水に沈め、迷いなく魚をすくおうとした。
だがしかし、トモリのポイはあっけなく破れ金魚は穴から水の中へ落ちてしまった。
「残念だったね~」
「くっそぉ……もう一回!!」
トモリは銅貨を払ってリトライした。
カツユキはそれを腕組みして眺めていた。
「(あんなやり方じゃあいくらやってもすくえないんだがな……)」
そう思ったが、口は出さずにトモリを見守る事にした。
「カツユキ!全然獲れない!!」
トモリの足元には破れたポイが重ねられていた。
トモリがポイを破るのはこれで8回目だった。
「分かったよ。貸してみろ」
カツユキはトモリからポイを受け取ると水槽の前にしゃがんだ。
「良いか?まず、椀は水の中に沈めてしまうんだ」
そう言うとカツユキは椀を水槽の中にどっぷりと沈めてしまった。
辛うじて椀のふちが水面に顔を出しているだけだ。
「そしてトモリはポイの使い方も良くない」
カツユキは一気にポイを水につけた。
「こうやって一気に水に沈めればポイ全体が水を吸って弱い場所がなくなる」
そして、カツユキはその体勢のまま動かなくなった。
まるで魚を待つ『ハシビロコウ』のようだった。
「魚は追ったらダメなんだ。魚は待つものなんだ」
カツユキはそのままじっと待った。
すると、どうだろうか?
金魚がカツユキに近づいて来るようになった。
「よーし、いい子だ」
カツユキはその中の一尾に狙いを定めた。
迂闊な魚はカツユキが狙っている事に気付かずに近づいて来る。
「そして、魚をすくう時はポイは斜めに持つんだ。じゃないと水圧で破れる」
カツユキは魚にバレないようにポイを近づけた。
彼の眼をトモリは何度も見た事があった。
その眼は『獲物を狙う冒険者の眼』だった。
「トモリはポイの真ん中ですくおうとしていたが、ふちの方が破れにくい」
「よくそんな事、知ってるね?」
「一年間かけて研究に研究を重ねたからな」
カツユキは深く息を吸うと水の抵抗が最小限になる動きでポイを動かした。
「今だ!」
カツユキは最小限の動きで魚をポイに乗せた。
そして、そのまま魚を椀の中へと流し込んだ。
ポチャン。
椀の中には金魚がちゃんと収まっていた。
「おっしゃぁぁぁあああ!どうだ!?」
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