第13話
「今回も無事に依頼を達成できたな」
報酬を受け取ったカツユキたちは町への帰路についていた。
組合で受ける依頼よりもいくらか少なかったが、まあ納得のいく額がもらえた。
「カツユキ、こんなにもらって良かったの?」
トモリは自分の報酬の取り分を見ながらカツユキに訊ねた。
お金の入った革袋は重く、歩くたびに音が鳴った。
「良いんだよ、これで。むしろ少し負けてやったくらいなんだから」
「……良いのかな?」
「トモリはもう少し、自分の仕事を高く評価するべきだと思うぞ?」
「あたしたちがしてる仕事って、そんなにすごい事?」
「ああ、もちろんだ」
カツユキはトモリに『冒険者の仕事の意味』を説明した。
「あの村人たちは『あの場所』しか行くところが無いんだ」
「ただ町に住ませてもらえないだけじゃないの?」
「そうじゃあない。あそこは彼らにとって『聖地』なんだ」
「……なんで?」
「あそこの温泉には『岩蝦蟇』つまり、彼らの神様の油が溶けてた」
モンスター信仰は国によって禁止されているから、村人は『異教徒』になるのだ。
そして異教徒は差別の対象となり、オアシスの冒険者から依頼を断られてしまうのだ。
「あそこに岩蝦蟇が居るって事?」
「そうだ。多分、地下で眠ってるんだろう」
そこまで説明されて、トモリにも事情が分かった。
「だから、あの人たちはあそこを離れられないんだね?」
「そう言う事だ。それなのに、黄色い群れが彼らにちょっかいを出し始めた」
トモリにもだんだん事情が呑み込めてきた。
冒険者ならいざ知らず、普通の人にモンスターの群れと戦うのは荷が重すぎる。
逃げる事も戦う事も出来ない異教徒にとって、カツユキたちは頼みの綱だったのだ。
カツユキたちは彼らの『聖地』を守って見せたのだ。
「あたしたちは大切な仕事をしたんだね?」
「ああ。だから、堂々と報酬を受け取っていいんだ」
「でも、それって『相手の弱みに付け込んだ』って言うんじゃ……?」
「冒険者は慈善事業じゃあない。そう言う事は気にするな」
カツユキとトモリは重くなった革袋を鳴らしながら帰った。
しかし二人はこの後、何が起こるか全く知らなかった。
カツユキたちが拠点としている町に着くとその異常にすぐ気が付いた。
冒険者組合の前に人だかりが出来ているのだ。
「何だ?あれ」
「依頼人かな?」
カツユキとトモリは特に興味なさそうに眺めていた。
組合が繁盛しても、自分たちには関係ないからだ。
二人の仕事は組合で受けられないような依頼ばかりだ。
「カツユキっ!」
「おう、リキヤ。この人だかりはどうした?」
カツユキの冒険者仲間の一人、リキヤが人混みから出て来た。
リキヤの表情は『商売繁盛で嬉しい』と言う感じではなかった。
むしろ逆で、とても困っている様子に見えた。
「助けてくれ!」
開口一番にリキヤは二人に助けを求めて来た。
「……事情を説明してくれるか?」
カツユキはリキヤからわけを聞く事にした。
しかし、それは叶わなかった。
「あ、あの!あなたが『カツユキさん』ですか?」
カツユキに人だかりのうちの一人が話しかけて来た。
カツユキは特に考えもなくその質問に答えてしまった。
「ああ、そうだが?」
それがマズかった。
「みんな!カツユキさんはこっちだぞ!!」
カツユキはたちまちに人に囲まれてしまった。
「カツユキさん!お願いします!!」
「私の村を救ってください!」
「こっちが先だぞ!!」
カツユキを囲んだ人々は口々に何か言っている。
どうやら、カツユキに依頼を持ってきたようだ。
「待て!待ってくれ!!」
カツユキは依頼人たちを一度落ち着かせる事にした。
「ちゃんと全員の話を聞くから、順番に言ってほしい!!」
カツユキは組合の前から場所を移す事にした。
他の冒険者や組合の関係者からの視線が痛かったからだ。
「なるほど『巨大蜂』が巣を作って迷惑していると」
「はい!それなのに組合は『半年先まで冒険者を派遣できない』と」
「そう言う事ですか……わかりました。一か月以内にうかがいましょう」
「ありがとうございます!!」
カツユキは依頼人を列にして一人ずつ話を聞く事にした。
依頼人は理由こそ様々だったが『組合が受けてくれない』という点は共通していた。
「この分なら三か月先まで予定が埋まりそうだな」
「こんなにたくさんの人が依頼を受けてもらえないなんて……組合は何してるの?」
「組織である以上、どうしてもカバーしきれない部分はあるさ」
カツユキは木簡にメモを取りながらトモリの質問に答えた。
読み書きできる事が意外なところで役に立った。
「はい、次の方どうぞ?」
カツユキにそう言われて、男がドカッと椅子に座った。
「まったく。客をどれだけ待たせる気だ?」
カツユキが依頼人を見ると相手はやや太った男だった。
指には宝石をあしらった成金趣味の指輪がいくつもはめられギラギラ光っていた。
「……今日は何の御用で?」
「飛竜の卵を獲って来てほしい。一回で良いから食べてみたかったんだ」
「……それでしたら、組合に依頼された方がよろしいかと」
「お前に頼めば組合の半額で引き受けるんだろ?四十両で頼むぞ」
その言葉を聞いて、他の依頼人から非難の声が上がった。
組合に依頼できる者は組合に依頼するべきだと言うのが彼らの主張だ。
「何も『ただでやってくれ』とは言ってないんだ。やってくれるだろ?」
「……帰れ!」
「何!?」
「お前のようなヤツの依頼は受けん!」
カツユキは店中に響く声で宣言して見せた。
「俺は一人でも多くの人を救うためにフリーランスになったんだ!」
それを聞いて順番待ちをしている依頼人たちがどよめいた
「それでこそ『弱者の英雄』カツユキだ!」
「カツユキ!カツユキ!!」
拍手喝采がカツユキに贈られた。
だが、カツユキは心の中で正反対の事を考えていた。
「(くそぉ四十両がっ!)」
「はぁ~~、やっと終わった」
「お疲れ様、カツユキ」
すべての依頼主の話を聞き終えたカツユキは肩をぽきぽきと鳴らした。
終わるころには太陽は西に沈もうとしていた。
「本当は後悔してるんでしょ?」
「ん?」
「あのお金持ちそうな人の依頼を断った事」
カツユキはトモリが差し入れてくれた飲み物を一気に飲み干した。
「……少し惜しい事をしたなとは思ってるよ」
「どうして断ったの?」
「目の前の大金よりも信用の方が大切だと思ったからだ」
「他の依頼人たちの事を考えたって事?」
「そう言う事だ」
トモリは空になったカツユキのカップに水を注いだ。
「俺みたいな冒険者は『いかに長期的な収入を確保するか』が重要になる」
「だから今回は『弱い者の味方』って言う評判が欲しかったんだね?」
「まあな。良いうわさが広まればそれだけ依頼人が集まるからそっちの方が得だ」
「ちゃっかりしてるね」
「組合から依頼が無い以上、これくらいは当たり前だ」
カツユキはトモリが注いだ水を一気飲みした。
「それに……」
「それに?」
カツユキはトモリの顔を見た。
「お前だって金持ちよりも困ってる人を助ける方がやりがいがあるだろう?」
「あたしの事を考えてたの?」
「一緒に仕事をする『相棒』だからな。それくらいは当然だ」
「……そっか、あたしは『相棒』か」
「ん?ニヤニヤしてどうかしたか?」
「ううん!何でもないよ!!」
「……まあいいや。早速、明日から仕事に取り掛かるぞ」
「え?あ、うん。どこから行くの?」
「とりあえず南の山での『巨大蜂』の駆除から始める」
「どうして?西の集落の方が近いよ?」
「来てくれた順にするのが礼儀だろう」
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