第12話
黄色い群れは案外簡単に見つかった。
「カツユキ、あれ!」
「やっぱり居たか」
トモリが指さす方向に肉食恐竜のような生き物が群れを成して寝ている。
その数、およそ三十頭。
身体が冷えないようにするためか、密着して眠っている。
「よ~し、今がチャンスだね!?」
「待てトモリ!早まるな!!」
カツユキは出て行こうとするトモリを慌てて止めた。
「どうしたの?」
トモリにはなぜ止められたのか、理由がわからなかった。
黄色い群れはこちらに気付いていないし、完全に休眠状態に入っている。
「『一角竜』が来る」
「一角竜って何?」
「砂漠に住む巨大なモンスターの事だ」
「それが近くに居るの?」
「ああ、俺の超感覚がそれを知らせてる」
カツユキの言った事はすぐに現実となった。
なんと、地面から巨大なモンスターが姿を現したのだ。
その大きさと言ったら以前倒した『怪鳥』や『毒怪鳥』の比じゃなかった。
体長は二十メートルから三十メートルはある一角竜は周囲を探っていた。
まるで、カツユキたちの事を探しているかのようだった。
「カツユキ、どうするの!?アレ」
「今の俺たちが戦って勝てる相手じゃあない。ここはやり過ごすしかない」
カツユキとトモリは岩陰から一角竜の様子を見る事にした。
「物音を立てるなよ?一角竜は音に敏感だ」
「うん、わかった」
二人はまるで石像のようにその場でじっとしていた。
一角竜はカツユキたちの気配は感じているが居場所まではわかっていない様子だ。
しきりに周囲を探っている。
「(神様っ!)」
トモリには祈る事しか出来なかった。
「トモリ、見ろ」
トモリが見ると、一角竜はあきらめたのか地面に潜って消えた。
「よし、行くぞっ!?」
「でも何頭か起きてるよ?」
「大丈夫だ。すぐに寝る」
カツユキの言った通り、一角竜が現れて一度は起きた個体もすぐにまた眠った。
砂漠に住んでいれば、一角竜に遭遇する事は珍しくない。
だから、黄色い群れもいちいち驚いたりはしないのだ。
「俺は右の『大きいやつ』を倒す。トモリは左のやつを頼む!」
「分かった!」
トモリとカツユキは岩陰から飛び出して群れに突撃した。
「!?」
二人が飛び出した瞬間、何頭かの個体が目を覚ました。
だが、わずかにカツユキたちの方が早かった。
「うらぁぁぁあああ!!」
カツユキは大刀で目覚めた個体の首をはねた。
「せやぁぁぁあああ!!」
トモリも雑魚共を串刺しにした。
砂漠の砂が血を吸って赤く染まったが、カツユキたちは止まらない。
小物共を黙らせながら、一直線にボスを目指して突進する。
ボスを失えば、群れは統率を失い弱体化するからだ。
「うりゃぁぁぁあああ!」
カツユキがボスまであと三メートルほどまで来た時だった。
「ギャァ!ギャァ!!」
と言う群れを呼び覚ます声が聞こえた。
ボス格の一頭が目覚めてしまったのだ。
ボスの警報に群れが一気に目を覚ました。
「畜生!もう少しだって言うのに!」
カツユキは目の前の雑魚を放置して目覚めてしまったボスに突貫した。
まだ真夜中で空気が冷たいから、モンスターも本調子ではない。
このわずかな時間が勝負だった。
「くたばりやがれぇぇぇえええ!!!」
カツユキは渾身の力を込めてボスの一頭に大刀を叩き込んだ。
必殺の一撃をもろに受けたボスの頭は原形をとどめないくらいに飛び散った。
「トモリは!?」
カツユキは余韻を感じる間もなくトモリの方を見た。
「ぐっ!」
トモリはタワーシールドで二頭目のボスの攻撃を防いでいた。
機動力が低いランサーでは動きの速いモンスターの相手は不利だった。
「待ってろ!今行く」
カツユキはトモリを助けようと走り出した。
だが、カツユキの前に雑魚モンスターが立ちはだかった。
カツユキたちは黄色い群れに囲まれてしまったのだ。
「邪魔だ!どけ!!」
カツユキは大刀を振るって道を切り開こうとした。
しかし、切っても切っても小さいヤツが飛びかかって来た。
カツユキは足止めを食う事になってしまった。
「トモリ!!」
見える場所にいるのに助けに行けない。
カツユキにはそれが歯がゆくて仕方がなかった。
「(あたしがしっかりしなくちゃ!)」
トモリは気合を入れなおした。
カツユキ同様、トモリもモンスターに囲まれていた。
ランサーにとってこの状況はかなり不利だった。
「(囲まれて戦いにくいんだったら囲まれなければ良いじゃん)」
トモリにはこの状況を脱出する方法があった。
「せいっ!」
トモリは『突進体勢』をとると、そのまま大きいやつに突っ込んでいった。
そんな見え見えの攻撃を食らうほどボスも間抜けではない。
ピョンと跳ねてトモリの攻撃をかわして見せた。
「(よし!うまく行った)」
だが、トモリの狙いは攻撃する事ではなかった。
トモリはそのまま直進し続けて、包囲網を突破して見せた。
トモリは移動のために突進をしたのだ。
「よぉし、これで戦いやすくなった」
今のトモリは前だけに集中すれば良い。
さらに、トモリは足を止めて向かってくるモンスターを迎え撃つだけで良い。
これなら鈍重なランサーでも十分に戦える。
「あたしだって、冒険者なんだからこれくらいやれる!」
「ねぇカツユキ。本当にそれ、持って帰るの?」
『黄色い群れ』を全滅させた帰り、トモリはカツユキに訊ねた。
トモリはあの後、カツユキの手を借りずに一人でモンスターと戦った。
そして、見事に親玉の片割れを仕留めて見せた。
「当然だろ?確かに依頼を達成しましたって言う証拠が要るんだ」
「それは、そうかもしれないけど……」
トモリはカツユキが手にぶら下げているものに視線を向けた。
その時、図らずも『それ』と目が合った。
トモリは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「だからってモンスターの頭を証拠にする事ないんじゃないの?」
カツユキが手からぶら下げていたのは『大きいヤツ』の頭だった。
「仕方ないだろ?依頼主は二頭居るとは知らなかったんだから」
「でも~」
「でもじゃない。親玉が一頭だけなのか二頭居るのかで報酬が変わってくるんだ」
「……もう、一頭だけで良いじゃん!」
「ダメだ!プロとして仕事に見合う報酬を受け取るのは当たり前の事だ」
カツユキとトモリはそんなやり取りをしながら、村へと戻った。
カツユキの通った後には生首から滴った血の跡ができた。
トモリはカツユキの隣に並んで歩く事に努めた。
東の空が白み始めた頃に二人は異教徒の村へと着いた。
「カツユキさん!トモリさん!!」
「おう、今戻ったぞ」
カツユキは依頼主に『手土産』を見せた。
それのグロテスクさを見て、依頼主は一瞬動揺した様子だった。
「そ、それは?」
「今回は親玉が二頭居たからな、その証拠だ」
「……つまり『追加料金』のお話でしょうか?」
「悪いな、そう言う稼業なんだ」
「……わかりました。仲間と相談します」
「なるべく早めに頼む。太陽が昇る前に帰りたいんだ」
「はい、少々お待ちください」
依頼主は岩の住居に他の村人と入ると一時間弱の相談をしていた。
皆から少しずつ、お金を集めなくてはいけないからだ。
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