第9話
「三」
カツユキはカウントダウンを開始した。
トモリの手に力が入る。
「二」
毒怪鳥は相変わらずこちらに気づいていない。
ただ縄張りを周回して食べ物を探しているだけだった。
「一」
二人は腰を浮かせた。
脚に力を込める。
「行くぞっ!」
カツユキとトモリは同時に飛び出した。
それと同時に毒怪鳥は二人の『殺気』に気が付いた。
毒怪鳥は殺気の出所を探したが二人の方が一瞬早かった。
「うぉらぁぁぁあああ!」
カツユキの大刀が毒怪鳥の尻に直撃した。
「はぁぁぁあああっ!」
そして、立て続けにトモリの突進が怪鳥の脚に突き刺さった。
「ゲェェェエエエ!!」
毒怪鳥はたまらず尻尾を振り回した。
毒怪鳥の尻尾は良くしなるから尻尾がまるで鞭のようになって二人を襲った。
「ぐっ!」
カツユキは大刀を盾にしたが尻尾にはじかれて数歩押し戻されてしまった。
対してトモリのタワーシールドは尻尾を見事に防いだ。
ランサーは高い防御力も持っているのだ。
「やぁ!」
トモリは尻尾攻撃を盾で防ぎながら、炎の槍で毒怪鳥を突き続けた。
一発一発は小さなダメージかもしれないが、何度も突かれれば大きなダメージとなる。
「クェェェエエエ!!」
毒怪鳥はたまらず飛び上がった。
しかし、毒怪鳥は身体が重いから飛ぶのはあまり得意ではない。
トモリから距離をとるので精いっぱいだった。
着地した毒怪鳥はトモリに狙いを定めた。
毒液をトモリに吹きかけるつもりなのだ
トモリの盾でも毒液を完全には防げない
「ヤバいっ!」
「だりゃぁぁぁあああ!!」
毒怪鳥がトモリに毒液を吹きつけようとしたその時、カツユキが両者の間に入った。
そして、カツユキは大刀を怪鳥の顔面に叩き込んだ。
「グェェェエエエ!!?」
怪鳥はカツユキの一撃をもろに受けて悶絶した。
顔面には大きな切り傷ができている。
しかし、カツユキも毒液を浴びてしまった。
「カツユキ!?」
トモリはカツユキに声をかけた。
毒液にどれほどの殺傷能力があるかは知らないがかなり危険なはずだ。
「ボサッとすんな!」
しかし、カツユキは攻撃の手を緩めなかった。
毒怪鳥はまだ生きているのだ。
「でやぁぁぁあああ!!」
カツユキは大刀を振るい毒怪鳥と戦う。
その姿には『恐怖』や『躊躇い』は無かった。
ただ、目の前の獲物を仕留めると言う『覚悟』があった。
「……カツユキ」
トモリはそんなカツユキの背中を見ていた。
最初はあんなに依頼を渋っていたのに今のカツユキはそれが嘘のようだ。
これがカツユキの言う『責任を負う』と言う事なのだろう。
「わかったよ。カツユキ」
トモリは槍を構えた。
「やぁぁぁあああっ!」
そして、トモリもカツユキと一緒に毒怪鳥と死闘を演じた。
それがトモリの『責任の取り方』だからだ。
「グェェェエエエ!!」
毒怪鳥は絶叫した。
トモリの槍がのど元に突き刺さったのだ。
おそらく、致命の一撃だろう。
「おらぁぁぁあああ!」
「たぁぁぁあああ!!」
だが、カツユキもトモリも毒怪鳥の息の根を止めるまで手を緩めなかった。
それが『責任を全うする』と言う事だからだ。
「カツユキっ!」
トモリはカツユキに駆け寄った。
毒怪鳥は息絶え、無残にも横たわっている。
カツユキたちは勝ったのだ。
「大丈夫!?カツユキ!!」
トモリは毒液を被ったカツユキを心配していた。
カツユキは戦いが終わるまで、手を緩める事無く剣を振るい続けた。
全身に毒が回っていてもおかしくなかった。
「ああ、大丈夫だ」
しかし、カツユキは案外平気そうだった。
全身、毒液でべとべとな事を除けば。
「何とも無いの?」
「ああ、この鎧のおかげだ」
カツユキが身に着けている鎧は『赤紫の鱗で覆われた鎧』だった。
おそらく、何かのモンスターを素材として使っているのだろう。
モンスターを素材にした武具には『加護』が宿るのだ。
「この鎧は『赤い群れ』で作られてるんだ」
「『赤い群れ』って火山とかに住んでるヤツ?」
「そうだ。赤い群れは毒攻撃もする危険な小型モンスターでその身体には毒への耐性もある」
「だからその鎧にも毒耐性の加護があるって事?」
「その通りだ」
その返事を聞いてトモリは気が抜けた。
しかし、力が抜けたのもつかの間だった。
「だったらもっと早くにそう言ってよ!!!」
トモリは怒り出した。
怒りのあまり髪の毛は逆立ち、まるで炎のようだった。
「仕方ないだろ?戦いの最中にそんなのんきな事やってられるか?」
「あたし、心配したんだからね!!!」
「悪かったよ。この通り謝るから」
カツユキはトモリに頭を下げた。
「(何で助けてやった俺が謝らなくちゃならないんだ?)」
そんな事を考えていたが、ひたすらに頭を下げ続けた。
トモリが怒るのはそれだけ心配してくれたからだろう。
一刻も早くこんな臭い場所から抜け出して毒を洗い流したかったが我慢した。
「ふぅ~~、今回も大変な仕事だったな」
「でも、みんな喜んでくれたよ」
カツユキとトモリは町の隅にある酒場で今後についての会話をしていた。
仕事が終わったなら、次の仕事を探さなくてはいけないのだ。
それがフリーランスの宿命だ。
「さてと、次はどこに行く?」
「まだ東の方には行ってないよ」
「東となると、少し山に登らなくちゃいけないな」
カツユキたちがそんな会話をしていた時だった。
「あ、あの!」
一人の男性が二人に声をかけて来た。
男性は年齢が四十代くらいで頭に『傘』を被っていた。
東部の人にこういう格好をした人が居るらしい。
「何だ?」
「あなたはカツユキさんですか?」
男性はカツユキの名前を知っていた。
カツユキはその事に疑問を感じたが普通に対応する事にした。
「確かに俺はカツユキだが?」
「お二人に頼みがあって来たんです」
「……それは、仕事の『依頼』と言う事か?」
「はいっ!」
「(やっぱりコイツもか)」
カツユキは似たような経験があった。
依頼人の方からカツユキを訪ねて来た経験が
「分かった。だが、その前にいくつか質問がある」
「何ですか?」
そこで、カツユキはさっきから抱いていた疑問をぶつけてみた。
「どこで俺たちの事を知った?」
普通、冒険者への依頼は組合を通してされる。
依頼主は冒険者一人ひとりの事など、知らないからだ。
それは銀等級の冒険者だったカツユキだってそうだ。
以前、依頼を受けた事がある相手ならカツユキを知っていてもおかしくはない。
しかし、目の前の男性は初対面の相手だ。
この男性はなぜカツユキの事を知っているのだろうか?
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