第3話

「ここがお前の村か?」

「はい、そうです」

 カツユキは少年と共に山奥にある村に来ていた。

 少年はカツユキに依頼する事を選んだのだ。

 カツユキは仕事を得られたのだ。

「そこの家に村長が住んでいます」

 少年は村の家を一軒指さした。

 木造のそれは高床式倉庫のようだった。

 おそらくモンスター避けだろう。

「村長」

 少年はカツユキを待たせると高床式倉庫の中に顔を突っ込んだ。

 冒険者を連れて来たと報告しているのだ。

 その間にカツユキは村を見回した。

「(なるほど、確かに金がありそうには見えないな)」

 少年が持っていた『六両』の重みが伝わるようだった。

 あのお金は本当に村のなけなしのお金を集めたのだろう。

 それを少年は無駄遣いせず大切に持って来たのだ。

「カツユキさん」

「ああ、どうした?」

「村長に会って下さい」

 そう言って少年はカツユキを中へと案内した。

 中は物が少なく片付いていた。

 その為、小屋のような家が広く感じた。

「村長、こちらの方が依頼を引き受けて下さった冒険者です」

「カツユキです」

 カツユキは小屋の中に居た老婆におじぎをした。

「あなたが引き受けて下さったのですか!?」

 老婆はカツユキに歩み寄ると深々とおじぎをした。

 よほど苦しい状況なのだろう。

 村長にはカツユキが『救世主』のように見えたのだろう。

「ありがとうございます!ありがとうございます!!」

 村長は何度もカツユキに頭を下げた。

「村長さん、お礼はまだ早いですよ」

 カツユキは依頼の内容をきく事にした。


「大体の話は聞いています」

 カツユキは村長と依頼内容について確認していた。

「『蒼い群れ』に襲われてるそうですね?」

 蒼い群れとはモンスターの一種だ。

 全身が蒼い鱗に覆われた中型のモンスターで群れで行動する。

 一頭くらいなら冒険者じゃなくても対処できるが集団になると脅威になった。

「左様でございます」

 村長は村の近くの森に出没する蒼い群れについて説明した。

 半年くらい前から出没するようになり、村人も何人か犠牲になっているらしい。

 数はだいたい十頭から二十頭くらいだと言う。

「『大きいヤツ』は居ないんですね?」

「はい、皆『小さいヤツ』ばかりでございます」

 『大きいヤツ』とは蒼い群れに時々いるボス個体の事だ。

 尻尾も含めると体長は五メートルにも及ぶ大型の個体で危険度も高い。

 大きいヤツが居ると依頼料も高額になった。

「分かりました。明日の明朝から仕事に入ります」

「ありがとうございます」

 村長は深々とお辞儀をした。

 蒼い群れは夜行性だから夜に討伐するのは難しい。

 逆に昼間は動きが鈍る性質があった。

 特に身体が冷えている朝方はほとんど動かない。

「どこか、宿をとれる場所はありますか?」

「それでしたら隣の家が空いております」

 村長は少年にカツユキを案内させた。

 カツユキが案内されたのは民家だった。

 まるで人が住んでいるかのようだった。

「本当にここを借りても良いのか?」

「はい、もう……誰も居ませんから」

 少年の表情でカツユキは察した。

 ここの住人は亡くなったのだ。

 おそらくモンスターの犠牲になったのだろう。

「……それじゃあ、遠慮なく使わせてもらう」

「はい、お休みなさい。カツユキさん」

 カツユキは家の入口で手を合わせた。


「お邪魔します」

 カツユキは住人の居なくなった家へ入った。

 家の中は生活感に溢れており、つい最近まで人が出入りしていたのが分かった。

 このまま家の中に居たら住人が帰って来るのではと錯覚するくらいだった。

「さて、と」

 カツユキは『あぐら』をかくと早速道具の確認を始めた。

 日の出と共に仕事に入るのだから、今日は早めに寝た方が良いだろう。

 準備は早いに越した事は無かった。

「持ち主には悪いが存分に使わせてもらおう」

 カツユキは元の持ち主の事は考えない事にした。

 亡くなった方を悼むためにここへ来たのではない。

 生きている人の為にここへ来たのだ。


「こんなもんだろう」

 カツユキが装備一式を確認し終えた頃だった。

 太陽は西に沈もうとしていた。

 「ん?」

 カツユキは硫黄の匂いに気が付いた。

「温泉でもあるのか?」

 カツユキは玄関から顔を出した。

 間違いなく硫黄の匂いだ。

 誰かの屁でなければ。

「一っ風呂浴びて来るか」

 カツユキは家の中をひっかきまわして桶から手ぬぐいやらを引っ張り出した。


「温泉は今は使えないんです」

「何……だと……!?」

 少年から衝撃の事実を告げられたカツユキは驚きの声をあげた。

「モンスターが出るようになってから温泉に行けなくなってしまったんです」

「畜生……モンスターめっ!」

 カツユキはモンスター討伐の決意をより固くした。

 カツユキは特別に風呂が好きと言う訳ではない。

 しかし、おあずけを食らったのならば尚更入りたくなる。

 結局カツユキは湿らせた手ぬぐいで身体を拭くだけでその日は我慢した。


 空が白んで来た頃

「……カツユキさん」

 玄関の外から少年が呼ぶ声が聞こえた。

 カツユキを起こしに来たのだ。

 中からすぐに返事があった。

「ああ、起きてるよ」

「準備出来てますか?」

 少年は家の中へ入った。

 そこには赤紫の鱗で出来た鎧を身にまとったカツユキが立っていた。

 冒険者は自分が倒した獲物を防具や武器にして身にまとうのだ。

「いつでも出られる」

 カツユキは少年と共に家を後にした。

 カツユキは玄関で手を合わせた。

「お邪魔しました」

 外はひんやりとしていた。

 これなら『蒼い群れ』も大人しくなっているだろう。

 絶好の日和と言えた。

「さてと、張り切ってお仕事と行きますか」

 カツユキは一人でモンスターの出る森へと入って行った。


「(一……二……三……)」

 カツユキはモンスターを数えていた。

 相手はまだ眠っている。

 圧倒的にカツユキが有利だった。

「(村長は二十頭弱居るって話してたな)」

 カツユキは気配を消してモンスターを探して回った。

 カツユキは一人しか居ないのに敵は二十頭弱も居る。

 失敗は許されないのだ。

「(少し奥の方を探してみるか?)」

 蒼い群れは集団生活をしているからすぐ近くに仲間が居る筈だった。

 奇襲をかけて全ての個体を短時間で仕留める。

 それがこのモンスターと戦うセオリーだ。

「(やっぱりあったか)」

 カツユキはある物を見つけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る