3.うちゅーじんさんをひっこぬく
カゲさんに見つからないよう、一人と一匹で慎重に歩を進める。道中、うちゅーじんさんの特徴を尋ねると、また摩訶不思議なことを言っていた。
「んとねー、あたまにふよふよしたボールがついてるの。でねー、ぼくと『おそろい』でみずいろなの。たまにじめんにうまってるから、したもよくみないとなの」
説明されたはいいものの、想像がうまくできなくてよく分からなかった。やはり宇宙人というからには、エイリアンみたいに怖い見た目をしているのだろうか。怖いのはちょっと嫌だ。仲良くできる自信がない。そもそも地面に埋まっている宇宙人とは一体なんなのか。それは地底人ではないのか。説明を聞いても謎が謎を呼ぶばかりでちっとも理解できなかった。
カゲさんには気をつけて歩いているはずなのだが、たまに遭遇しそうになった。そのときは洋燈を消して、物陰に身を潜める。正直緊張するし、見つかったときはどうにもならないのだが、相手もあまり目が良くないみたいでどうにかやり過ごしながら洞窟を探索した。
しばらく歩いているのだが、まったくうちゅーじんさんは見つからない。ずっと笑顔のねこむかでさんも、表情に悲哀の色が滲み始めた。
「ぜんぜんみつからないねえ。・・・・・・カゲさんにたべられちゃったのかな」
耳と尻尾が垂れている。ボクはどう声をかけるべきか迷った。でも、落ち込んでいるねこむかでさんを放置しておくわけにもいかない。ボクはなんとか言葉を捻りだした。
「・・・・・・もうちょっと探してみよう。それで見つからなかったら、『まち』のヒトに相談してみたらいいんじゃないかな」
そう提案すると、ねこむかでさんはボクに視線を向けて、「うん、そうだね」と首を縦に振った。笑っているが、なんだか泣きそうな目をしているので心配だ。なんとか元気を出してもらいたいが、どうやらボクはあまり気が回らない質らしく、なにも良い言葉が出てこなかった。
そんな話をしていると、突然ねこむかでさんが毛を逆立てた。じょわじょわと毛が波打つ。ねこむかでさんも動揺しているらしく、「うぉぅおぉおお」と謎の奇声を発している。
「どうしたの?」
「な、なんか、すっごいこわいよー」
「え」
暗闇の中だとボクにはなにも見えないので洋燈を点ける。ねこむかでさんの視線の先に差し向けると、洞窟の天井に頭がつきそうな、巨大なカゲさんがいた。
ドシン、ドシン、と振動が伝わってくる。まだ気づかれていないらしく、洋燈を消して息を潜めた。ボクらに気づいてくれるなよ。
巨大なカゲさんの歩く振動が足の裏に響く。すぐ傍を、得体の知れない存在が歩いているのは恐ろしくてたまらなかった。
しかし、ボクらの静寂は破られる。ボクの後ろにいたねこむかでさんが「くちゅん!」とクシャミをしたのだ。ぴたり、巨大なカゲさんの足音がやむ。嫌な予感がした。
途端、ねこむかでさんが叫んだ。
「にげて!」
咄嗟に前へ駆けだした。暗くてよく見えないが、洞窟の壁くらいはどうにか視認できる。しかしカゲさんの姿はまったく見えなかった。ボクは半狂乱状態のまま、見にくい洞窟内を走った。後ろではどかんどかんと音がしている。なにが起こっているのかも分からない。洞窟の壁にぶつからないよう、駆けて、駆けて、駆けた。
やがて凄まじい音が遠ざかったことに気づいて、走るのをやめた。息が荒い。静寂の中では、呼吸がはっきり聞こえるものなのだとぼやけた頭で考えた。一応物陰に身を潜めて洋燈をつける。
「・・・・・・あれ」
洋燈を翳してみるが、ねこむかでさんの姿が見当たらない。くるりと身体を捻ってみるが、あの子の姿はどこにもなかった。途端に覆い被さってくる、不安。どうやらはぐれてしまったらしい。ボク一人でこの洞窟内を歩くなんて無謀すぎる。不安が膨らんで、泣きたくなってしまった。泣きたくなくて地面を見つめる。
「うわっ!」
足元にこれまた奇妙奇天烈なものが生えていた。茎のようなものに電球がくっついている。こんなに光っているのに気づかなかった。ボクも相当参っていたらしい。この植物は一体なんなのだ。茎の部分を引っ張ってみると、確かな抵抗を感じた。そういえば、ねこむかでさんが「うちゅーじんさんは地面に埋まっているときもある」と言っていた。その球体は、非常に分かりやすい目印であった。よくこんなに分かりやすいのに今までカゲさんに気づかれなかったものだと感心する。ぐ、と腰に力を入れて引っこ抜いた。
『きゅ~~~~!』
ボクの胸に飛び込んできたのは、二足歩行の、奇妙奇天烈な生き物だった。ねこむかでさんの合羽と同じ水色の、星型の身体、つぶらな瞳、猫っぽい口。そして頭にひっついた黒い茎と電球。多分、記憶を失う前にも見たことがない生き物だと思う。少なくともボクの頭では、これを生き物であるという判別ができなかった。どちらかというと、ぬいぐるみのような印象だ。
うちゅーじんさんを片手で抱えて尋ねてみる。
「キミが、うちゅーじんさんかい?」
『きゅ?』
「ボクはキミって名前だよ。ねこむかでさんに助けてもらったんだ。もしかするとねこむかでさんも出口に向かっているかもしれないから、出口の場所を教えてくれないかな」
『きゅ!』
うちゅーじんさんはどうやら鳴き声しか出せないらしい。機械のような泣き声だ。けれどボクの意図は理解してくれたらしく、小さい手で方向を指示してくれた。途中、カゲさんに追っかけられるのではないかと心配していたが、うちゅーじんさんの案内してくれた方角には運良くカゲさんはいなかった。しばらく歩いていると、うちゅーじんさんがボクの腕を伝って洋燈を消した。
「カゲさんがいるのかい?」
『ぴーーーーぽーーーー』
その鳴き声を肯定だと捉え、物陰に身を隠した。しばらく息を潜めているが、特に足音も聞こえない。そろそろ動くべきかと考えていると、前方からのんびりとした声がした。
「キミさん、うちゅーじんさん」
その声は、ねこむかでさんのものだった。
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