第2話
僕と明日海は元々知り合いでお互い小さい頃は家が近所なのもあって仲が良かったけど、それは小さい頃の話で僕も明日海も大きくなり、僕が高校に入学した辺りからあまり話さなくなっていた。
僕のことをお兄ちゃんと呼んでいた明日海も、僕をお兄さんと呼ぶようになったのもその頃からだ。
明日海の言う前とは昔の僕で、今の僕が明日海と密室に2人きりという今の状況に、どこかストレスを感じていてそれが出たのだろう。僕が謝ると明日海は少し驚いた顔をして、少し悲しそうな表情になる。
「でも、今のままじゃ……ここから出られないね?」
明日海の言う通りだ。ここが特殊な空間で自力では出ることはできない部屋であることははっきりしている。
「私、頑張ってみるね。それでダメなら仕方ないから」
大げさな表現だろうけど、明日海は覚悟を決めた表情をしていた。無言になった僕を見て彼女は続ける。
「まず、何をするか決めておかないとだよね? 握手から始めよっか」
ベッドに座りなおしたうえで差し出された手を握り返すと、彼女は微笑んでくれた。その笑顔は懐かしくて昔に戻ったみたいだ。
「お兄さんの手、大きいん。いつの間にかこんなに大きくなったんだね。それに……ふふっ、温かい」
明日海の手が小さくなったんじゃないかと冗談を言ってみると、明日海はクスリと笑う。
「そうかもね。でも私は、お兄さんの知ってる私だよ」
その笑い方は仲がよかった頃の明日海と同じで、あの頃に比べて明日海は大きくなっているけれど、そこは変わらないのが不思議な感覚だった。
「あー、えっと、そろそろ次のこと考えないと、次はハグ……とかする? 」
照れ隠しなのか、明日海は話題を変えた。
「うん。自分でも行ってて思ったけど、唐突だよね」
自分で言ってて恥ずかしかったのか明日海は俯く。明日海の手は柔らかかったけど、明日海の手が震えていることに気づくと僕まで緊張してくる。
「まぁ、それなりに……でも、頑張らなきゃいけないもんね?」
緊張しているのか聞くと照れくさそうに返事をする明日海。
「あ、違うの! 責めてるわけじゃないんだよ? ただ、あの、なんていうか、ほら、あれ、そう、練習だから!」
明日海は必死に言い訳をするけど、その姿にが申し訳なさや照れくさいという感情が浮かび、顔が見れなくなった。
「ねぇ、お兄さん。こっち見て?」
言われた通りにすると、明日海は僕の目を見る。そして、ゆっくりと目を閉じた。まるで、何かを待つように――。
「……やっぱり、無理ぃ!」
明日海はベッドに倒れ込む。
「だって、なんか変な感じなんだもん!」
僕も同感だ。そもそも、僕たちは兄妹のような関係ではあったけれどそれは昔の話だし、何より僕たち2人は付き合っているわけでもないのだ。それなのにいきなりそんなことをするのはおかしい。
「でもさ、お兄さんと仲良くなりたいのに、このままじゃダメだと思うし……どうしたら良いかな?」
僕も困っている。疎遠になったのは僕も明日海もお互いに関わろうとしなくなったのが原因だけれど、こうして話ができる関係を築けるならその方がいいと思っている。
「そうだよね。私もお兄さんと話したいし……」
明日海の言葉を聞きながら考える。どうすればいいかを。
「よし、分かった。もう1回やってみよう?」
明日海の提案に乗り、僕達はもう一度試してみることにした。今度は僕から握手をしてみるかと考えたところで僕の意識はなくなった。
◆◆◆
どうやら、この状況を作った誰かか何か的にはイチャイチャが足りなかったらしい。ベッドの上で目を覚ました僕も、そんな僕を見下ろしていた明日海もそのことはすぐに理解できた。
「これって、また同じ状況だよね……」
2人で同時にため息をつく。
「お兄さん、とりあえず座ろうか」
明日海は僕の隣に座って、僕の手を握ると指を絡めてきた。恋人繋ぎというヤツだろうか。突然のことに驚いたけど、明日海の顔を見ると少し赤くなっていた。きっと彼女も恥ずかしいのだろう。それでも頑張ってくれているのは分かる。
「……えへっ」
無言でいると明日海は照れた様子で笑う。
「あ、ごめんね。ちょっと、ドキドキしてるっていうか……嫌だった?」
首を横に振ると安心したような表情を見せる。
「……そっか。じゃあさ、私が質問するから答えてくれる? それでさっきみたいに無言になった時は『うん』か『うぅん』かだけでも言ってくれると嬉しいな」
明日海はそう言うと、僕の手を離し向き合う姿勢とをった。
「まずは……お兄さんは私のこと好き?」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ねた気がした。
「私はお兄さんのことが好きだよ」
明日海の笑顔は眩しくて、その声はとても優しく聞こえてくる。
「……ドキッて、した?」
悪戯っぽい笑みを浮かべる明日海に、思わず視線が釘付けになる。
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