第4冊 アジアン・ファンタジーの経典『山海経 中国古代の神話世界』

 文庫という名の布張り本を出す平凡社さん。ライブラリーという名で文庫っぽい本も出されています。ハヤカワ文庫より縦幅が大きく、大抵の新書よりは小さいです。

 だから、平凡社ライブラリーを少しだけ購入すると、本棚に変なスペースができてしまい、いっそ一段埋めてしまうか、とライブラリー化するから、このお名前。

 嘘ですよ!? 私の本棚整理の恨み節です。


 正しくは、叢書や選書、文庫を意味するライブラリーと思われます。

 単語を主流の語義でしか使わないなど、知を求める者と認めん! 宝の地図が判り易い言葉で書かれていると思うか、未熟者めが。

 古老のお叱りが聞こえて来るのは私の被害妄想でしょうか。申し訳ありません。


 こちらのシリーズ、薄くても読み応えある本が多いですが、時々、鈍器のフリをしているタイプが混ざります。何分、ソフトカバー。鈍器にはなり得ないものの、見た目はる気満々です。『道教』を積んだら綺麗な石壁風のものができると思います。

 恐らく平凡社ライブラリーは囮で宝を求める者の気を引くのでしょう。襲って来そうな『道教』に気を付けていると、隙間に挟まっている『山海経せんがいきょう』を見落とします。

 つくづく戦術が渋い平凡社。


 さて、そんな訳で絶対に見落としてはならない平凡社ライブラリーのファンタジー的お宝本は『山海経 中国古代の神話世界』。


 一言で言えば、『十二国記』をお好きな方向きの内容です。

 多分、中年世代にはそれで伝わるでしょう。『十二国記』で高嶺の花の騎獣として君臨する騶虞。敢えて仮名は振りません。それと同じと見なされている騶呉すうごという幻獣が記されていたり、饕餮と同一視されるものが出て来るのが『山海経』。

 三世紀には既に、


「荒唐無稽にして奇怪」(山海経序 p.9)


 というツッコミがかなり入っていたとか。

 三世紀の有名人と言えば、卑弥呼ですから、荒唐無稽なことも何でもアリな気がしていたのですが、二十一世紀人の偏見でしたようです。

 この地理本としてはツッコミどころ満載な書、最初の弁護人となった郭璞カクハクさんは、人間なんて知ってるものより知らないことの方が多いんだよってことが、この本を読んで理解できた、と仰っています。


 うん、騶虞だか騶呉は勿論、いずれも食べたら、飢えない花に嫉妬しなくなる鳥、更にはオナラをしなくなる魚とか、本当、私って無知だ、こんなこと知らなかったってなりますよねー。


 ということではないそうです。

 異常とは、自分の狭い世界の常識による狭い了見にそぐわないと生まれる感覚に過ぎない。それ自体が異常なのではないから、自分は馴染みがなくとも目先にとらわれず、宇宙的視野をもてば、人の五感で把握する現象を超えた世界の摂理によって我々の日常世界とそれら(山海経的事象)が一体なことが判るだろう。

 多分、こんな風な主張だと思います。


 ……御免なさい。

 この占い名人が何を仰ってるのかスピリチュアル系に全くセンサーの働かない私には理解し難く、この序の5頁を読み解くのに一番苦労したのですが。なけなしの心の目をフル動員し、判ったことにしました。

 只、これだけは断言します。


「異世界? あるに決まってんじゃん!? 否定するなんてお前が卑しい愚か者なんだよ!」


 郭璞さんはこういう人だってこと。

 カクヨムの主力の書き手さんにとっては強い味方です。カクヨムのご親戚っぽいお名前なのも、きっとこの方の仰る、見えざる世界の摂理で時を超えた未来を応援するために違いありません。

 中華ファンタジーは正義(超訳)、と三世紀の人がわざわざ註をつけているのですから、甘えましょう。


 薄い本なのに情報量は凄いです。アジアン・ファンタジーを書くのに、これを一冊読んでおけば、かなりネタ作りは楽。

 只、読むのは大変ですけどね。

 特に漢字が苦手な方。読むのに費やしたコストを漢検の上の方の級を受けて回収したくなるかもしれない、そんな漢字の読みがごろごろ出て来ます。

 でも、平凡社さんは優しいので、ふりがなが振られています。パッと見の字面の厳しささえクリアできれば読めるでしょう。読めなくとも、昔の人の妖怪イラストにツッコむ、という楽しみが残っています。


 尚、私はこれを理解するため、記述を元に小学生の夏休みの自由研究「中国地図」のようなものを作ることになりました。

 そんな読む気が失せそうなことを畳み掛けて終わるのは何なので、これを最後に記しておきます。


 あとがきに当たる「解説」を書いていらっしゃるの、水木しげるさんです。


 ね? 平凡社さん、お宝を隠す気満々でしょう?

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