第3冊 非ネットの非ネットによるネットのための創作『屍鬼二十五話 インド伝奇集』
西の京都大学学術出版会の次は、東の平凡社。
え? そこは東京大学だろ?
いえいえ、西洋古典叢書に対する、東洋文庫。
全力結界なお名前に対する、平凡社。
なんて親しみやすい名称と思った方、騙されてはいけません。
ここのお宝を守る戦略はステルスです。
探索スキルがないと壁と区別できない、隠し扉的なアレ。
宝箱に見えない、昭和は昭和でもエモくない、地味ぃな外観。
それでも手に取られてしまった時、目に入るように
トレジャーハンターから守る、
だって、ケースの中の本、布張り装丁!
お値段、三千円オーバー主力で文庫を名乗る、21世紀文庫界のアウトロー、東洋文庫。
しかも、この布張り本は期間限定レア・アイテム。気付くと品切れで、割高なオンデマンドのペーパーバックか、割安の電子書籍しかなくなります。ソシャゲ!?
さて、ファンタジーの舞台で東洋と言えば、和風や中華系。王道はメリットも沢山ですが、ライバルも多いですよね。
需要は薄いかもしれないけど異色さで目を引けないかな……と思う方!
インドはどうですか? 時代と地域で多彩な文化を選び放題。
でも、お勧めする理由はそれだけじゃないんです。インドはネット小説向きだと思います。スパイシーで。
それを『
――毎日、王様の謁見に来る修行僧がいました。彼はいつもフルーツを1つ捧げ、王様はそれを宝庫管理官に渡します。後で判るのですが、管理官は宝庫を開けずに窓からポイっと投げ込んでいました。
え? もしかして王様から渡されたらナマモノでも宝庫に入れないといけないの? その宝庫、堆肥が宝って訳じゃないんですよね? マジで宝入ってるとこに果物を毎日投入?
あ、一種のトレジャーハンター撃退術とか?
――それが十年。
十年!?
仮に今の暦だとフルーツが三千、六百、五十と数個。誰か食べろよ! 悠久にも程がある。 ※一日本人の個人的尺度です。
――食べる任務は猿が遂行。すると、まぁ、果物は2つに割れ、中からプライス青天井な宝石が出て来たではありませんか。
猿が無事だったか気に(ry
――ゲンキンにも王様、管理官にフルーツはどうしたか尋ねます。命令により宝庫を開けて調査し、報告した彼の台詞が、
「陛下、宝庫には果実は見当たりません。腐ってしまったものと思われます。その代わりに夥しい宝石が光り輝いておりました」(引用「プロローグ」p.3)
あのさ。窓から放る時、中、見えません?
腐っているか、ドライフルーツか、或るいは、宝石になっていたか! とりま問われた時に答えられるだろ。高窓なんですか? その場合、管理官の投球コントロールの腕、ハンパないな。
――王様は修行僧を訪ねます。そしたら、遠く南の樹にかかっている死体を持って来てくれ、と依頼されました。
どんなクレイジーな依頼だ。
一体、いつから、そこにある死体なんでしょう。十年前か、フルーツが石化した時か。それが問題だ。私なら十年前からあることを祈る!
――行ってみると、目標と思われる樹は「火葬の煙で燻され」「生肉の臭いを放」っていました。
何、その刺激的な樹……本当に樹木? もう私には想像の限界超えてます。
――死体を樹から切り落としたら、それが呻いたので、死んでなくね? と思った王様、死体をさする。すると、死体が笑い出したので、王様、死骸に
「お前はなぜ笑うのだ。さあ、いっしょに行こう」(引用「プロローグ」p.5)
普通にホラーです。私なら逃げますが、そこは王様、逃げないのは判る。判りますけど。
斬ろうとか、臨戦態勢に入らないのが驚異。凄いわ、インド。幾ら依頼受けたからって切りたくなるでしょう。どういうメンタル?
この死体を最終的に王様、肩に担いで歩き出したので、屍鬼が道中、話を語って聞かせる、というのがプロローグ。
いや、プロローグだけで充分、お腹一杯です、私……。
でも! ネット小説なら頭からこの位のこと、しないと、ですよね!
そうなんですよ。
ところが日本が舞台だと、こういう刺激の幅が限られるじゃありませんか。基本的にお出汁の国ですから、刺激が似合うように料理するのが難しい。戦国や幕末が人気なのは珍しく刺激が強いからもあるはず。
その点、インドは刺激が似合う! 何しろ、この話の過激バージョンがある位です。この有利さ、使わない手はないですよ。
その刺激をどう料理するかはご自分の目で確かめてくださいね。
ちょっとだけネタバレしますと『屍鬼二十五話』は、王母の退屈しのぎの為に美文を凝らして説話をまとめた『カター・サリット・サーガラ』の一部分です。短編を一つの連作に纏めるテクニックの謂わば原型なので、今でも創作する際、参考になります。
そして、皆様、「女性向け」を余り枠にはめない方が良いです! 十一世紀からこんなのイケちゃってますから。
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